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故・大滝詠一さんベスト盤がCD初のTOP3入り〜受け継がれる“ポップスの遺伝子”

 故・大滝詠一(享年・65歳)さん、初のオールタイムベスト『Best Always』が、12月15日付の週間アルバムランキングで2位を記録した。TOP3入りは、アナログ時代のLP『EACH TIME』(84年4月30日付)以来、30年8ヶ月ぶりとなる快挙。CDの時代になってから初のTOP3入りを果たしたことになる。

大滝詠一さん初のオールタイムベスト盤『Best Always』ジャケット写真

大滝詠一さん初のオールタイムベスト盤『Best Always』ジャケット写真

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■ファン待望の本人歌唱による「夢で逢えたら」

 思えば、2013年末に飛び込んできた突然の訃報から早一年。アーティスト&コンポーザー以外にも多くの顔を持っていたオールラウンドプレイヤーが、突如としてこの世を去ってしまった後に訪れたとてつもない喪失感を埋める術は誰も持ち合わせていないであろうが、その足跡を辿る事と、こうして新たに具現化される物によって、少しでも慰められることは事実であろう。

 もしも本人が健在であったなら、こうしたベスト盤が編まれる機会はもう少し先のことであったと察せられる。それが予想出来ない速さで実現したのはなんとも皮肉であり、しかも好記録でランクインしたことに、氏は天国で苦笑いしているかもしれない。しかし、熱心なナイアガラー(=大瀧マニアのこと)をはじめ、名盤『A LONG VACATION』に青春の一ページを重ね合わせられるユーザー、さらに遅れてきたファンにとっても、この上なく嬉しいオールタイムベストが完成した。いちばんの目玉はやはり、これまで未発表だった、本人歌唱による「夢で逢えたら」だろう。吉田美奈子、シリア・ポール、アン・ルイス、北原佐和子、ラッツ&スター……数多の歌手がカバーし続けているジャパニーズポップスのエヴァーグリーン。最近では薬師丸ひろ子がアルバムでカバーし、久しぶりのコンサートで披露したのも記憶に新しい。その会場の客席に大瀧さんの姿もあったという話には、今さらながらに胸が熱くなる。

 よもや聴けることはあるまいと思っていたセルフヴァージョンは、どのカバーにもない、独特な譜割りで歌われる真のオリジナルである。その心地よい浮遊感に聴く者全てが夢の世界へ誘われること必至。果てしなく聴いていたい気持ちにさせられる。この一曲だけでもアルバムの意義は大きいといえるが、さらなる聴きどころも満載だ。

■豊かな音楽人生を象徴する収録曲の数々

 オールタイムベストと銘打たれている通り、はっぴいえんど時代から初期のソロ作品、ナイアガラレーベル設立以降の諸作品まで、時間枠は30年以上に亘る。最も新しい録音は、最後の公式レコーディングとなった2003年の竹内まりやとのデュエット「恋のひとこと〜Something Stupid〜」になる。偶然とはいえ、稀代のボーカスト、フランク・シナトラのレパートリーのカバーというところが、アーティスト・大瀧詠一の豊かな音楽人生を象徴しているとはいえまいか。ほかにも、曲自体は広く聴かれていてもシングルヴァージョンが初CD化となる音源が多数収録されていることも見逃せない。中でもオリジナルアナログ盤の入手が極めて困難な「青空のように」や「ブルー・ヴァレンタイン・デイ」のシングルヴァージョンがようやくCD化されたことは嬉しく、お馴染みのヒット・ナンバー「君は天然色」や「恋するカレン」のシングルヴァージョンが実は初CD化というのも意外である。

 初CD化ではないが、個人的なオススメとしては迷曲「ROCK'N'ROLL 退屈男」を挙げたい。思わず迷曲と書いてしまったが、ここには一切の迷いがない。大瀧ノヴェルティ・サイドの集大成にして大傑作だ。そして、このべスト盤で初めて本格的に大滝詠一さんに触れた向きには、他者への提供作品を集めたアルバム『大瀧詠一Song Book I・II』などで本人ヴォーカル以外の曲もぜひ聴いていただきたいと願う。そこにはさらなる大瀧ワールドの広がりがあり、そのまた先には歌謡曲という大海が広がっている。最多カバーの「夢で逢えたら」以外にも、松田聖子「風立ちぬ」、薬師丸ひろ子「探偵物語」、小林旭「熱き心に」といった、その案内役に相応しい名曲が連なっているのである。かのクレイジー・キャッツ、ひいては故・植木等さんが「スーダラ伝説」で華麗なる復活を遂げたのも、大瀧さんの仕業であったのだ。

■ベスト盤ヒットにより受け継がれていく大滝サウンド

 流行歌そのものに造詣が深く、その歴史を踏まえて自らヒットソングを世に送りだす作業を体現してきた、作家・大瀧詠一と歌手・大滝詠一の曲と歌声は今もCMなどで使われて普遍的だが、ドラマ『ラブ ジェネレーション』(フジテレビ系)の主題歌だった「幸せな結末」がなかったら、新しい世代への浸透度はもう少し違ったものになっていたとおぼしい。しかしながら、世代間のギャップを辛うじて繋ぎとめる役割を果たしたヒット曲とても、もう17年も前のこと。日本の音楽シーンは、はっぴいえんどやナイアガラ・サウンドに直接洗礼を受けた世代から、確実に次世代へと移行しつつある。

 後進のアーティストに多大なる影響を与えてきた音楽が、さらに未来へと受け継がれてゆく過程において、今回のベスト盤の存在は極めて重要な位置を示すことになろう。世代を超えて響くスタンダードナンバーの需要は今後ますます増え、大瀧の如く知識欲旺盛で才能を有した後継者がきっと現れる筈だから。いや、そうした存在はもう既に登場しているのかもしれない。ナイアガラの師匠は仙人となって、雲上から音楽シーンに影響を与え続ける。ポップスの遺伝子は永遠なのだ。

(文/鈴木啓之=アーカイヴァー)

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