4. 騒音の計測単位− なぜ dB という対数尺度を使用するか

4-1 dB という対数尺度

人間が感じることができる音(可聴音)の周波数帯域は、およそ 20 Hz 〜 20 kHz であり、音圧の範囲は 20 μPa 〜 20 Pa で、最も小さな音と最も大きな音との音圧の比は「106」にも及ぶことを 1 章でお話ししました。一般に広範囲の変化量を効率的に表わす尺度として対数尺度が用いられますが、変化の範囲が非常に広いということから、音圧や騒音の大きさを表わす場合にも、この対数尺度が使用されます。さらに、“人間の感覚量は刺激量の対数に比例する”というウェーバ・フェヒナーの法則があり、聴覚も感覚量の一つであることから対数尺度が用いられています。

対数尺度の単位としては、アメリカのアレクサンダー・グラハム・ベル(Alexander Graham Bell)が電話における電力の伝送減衰を表わすのに最初に用いたことから、ベル(B)が使用されています。なお、ベル(B)そのものでは値が大きすぎるため、その 10 分の 1 であるデシベル(deci Bel = dB)が実際には使用されています。すなわち、1 B が 10 dB の値に等しくなります。

(注意)
  1. d(デシ)は、SI 単位(国際単位系)で 10-1 を表す接頭語です。
  2. 放射音圧レベルにおける dB と明確に区別するために、A 特性音響パワーレベルの表示値に B(ベル)を使う例があります(JIS X 7778:2001 情報技術機器の表示騒音放射値)。

なお、電気・通信分野で、デシベル(dB)が多用されるのは、上記の理由に加え、多段接続された増幅器や減衰器などのゲインが加算や減算で簡単に計算できるからです。

先に述べたように、デシベル(dB)は電力(パワー)の伝送減衰(比率)を表わすために使用されたもので、その定義式は次のようになります。

 

式4-1

式 4-1

 

上記の式 4-1 からもわかるように、デシベル(dB)とは、電力比を常用対数で表現する相対値であり、基準となる数値(例えば上記の E 0 )が明確に規定されていれば、絶対数値として取り扱うことが可能となります。それ故、デシベルで重要なことは、常に“基準値が何か”ということに注意しなければなりません。

音響分野では、音圧の2乗が音の強さに比例するため、例えば騒音計を使用して測定する際の表示値の一つである音圧レベルLp(dB)は次の式で与えられます。

 

式4-2

式 4-2

 

さらに、人の聴覚に対応した周波数重みである A 特性(詳しくは、8 章 3 節「周波数補正回路」を参照)で重み付けした音圧 pA から騒音レベル LA(A 特性音圧レベル)(dB)を求める式は次のようになります。

 

式4-3

式 4-3

 

音(振動)の世界では、その大きさ(強さ)を表わす言葉として「レベル(実用単位として dB)」を使用して、「音の大きさ」とはいわないで「音(圧)のレベル」は「何 dB」のように表現されます。さらに、上記の定義にもあるように、dB の絶対規準値の音圧が p0(20 μPa)と明確に決められていますので、例えば「100 dB の音圧レベル」の音圧実効値は、何パスカルであるかは、一義的に決まります。この例では、100 dB は、2 パスカルに相当します。なお、デシベルの計算方法などは、後述します。

 

(注意) dB SPL について

音圧レベルはSound Pressure Level(SPL)なので、特に音圧レベルの単位である dB(デシベル)を明示的に表現するために、以前は“dB SPL” と表記する場合がありました。 しかし、最近の JIS 規格や計量法などの法律なども、単に dB と表記するのが正しい単位表記となっています。

4-2 計量単位「dB」と「ホン」について

旧計量法では“ホン”という計量単位が使用されておりましたが、1993 年(平成 5 年)の新計量法の施行に伴い、国際規格である ISO 規格に合わせて SI 単位である“dB”に移行し、非 SI 単位である“ホン”は完全に使用を禁止されています。
また、平成 9 年 9 月 30 日迄の猶予期間において、“ホン”と“dB”の併用が認められておりましたが、平成 9 年 10 月 1 日以降は“dB”単位に完全に統一されましたのでご注意ください。なお、“ホン”は“dB”に相当する騒音レベルを表す単位で、両者は、単位名は違うものの同じ量を表します(例えば、90 ホンと 90 dB は、同じ騒音レベルを表します)。

(注意)

騒音レベル(A 特性音圧レベル)の単位は、分かりやすく表記するため、dBA または dB(A)が多用されてきましたが、現在の国内外の規格(JIS や IEC)あるいは計量法では、音圧レベルも騒音レベルも、使用して良い単位は“dB”ですので、正式表記の場合は、ご注意ください。基本的な考え方として、「すべてのレベルの単位は“dB”とする。量の種類は、Lp(音圧レベル)、LA(騒音レベル)などを明記する」とするのが実用的です。

 

 

5. 音の物理尺度

5-1 音圧レベル(sound pressure level)

ある音の瞬時音圧の実効値を p(Pa)、基準となる音圧を p0(Pa)としたとき、“音圧レベル”Lp(dB)は;

式5-1

式 5-1

 

;で与えられます。基準音圧 p0 は空気中の音の場合 20 μPa であり、ほぼ正常の聴覚を有する人間の 1 kHz の純音に対する最小可聴値となります。下図 5-1 は、音圧 p(Pa)と音圧レベル Lp(dB)の関係を示したもので、音圧 20 μPa は音圧レベル 0 dB、1 Pa は 94 dB、20 Pa は 120 dB になります。なお、可聴音ではありませんが、圧力の変動が 0.1 気圧(おおよそ 100 hPa = 104 Pa)あったとすると、音圧レベルは 174 dB となります。

 

イラスト(音圧 p と音圧レベル Lp の関係)

図 5-1 音圧 p と音圧レベル Lp の関係

 

 

5-2 音の強さのレベル(sound intensity level)

空間を伝搬している音圧の実効値を p(Pa)、音波によって振動している媒質粒子の粒子速度を u(m/s)とすれば、音波の進行方向に垂直な単位面積を単位時間に通過する音のエネルギー I(W/m2)は;

式5-2

式 5-2

 

;で与えられます。この量を“音の強さ(サウンドインテンシティ)” I(W/m2)と呼びます。

音波が平面波(波面が波の伝搬方向に垂直な平面である波)であれば、媒質の体積密度を ρ(kg/m3)、媒質中の音速を c(m/s)として;

式5-3

式 5-3

 

;が成り立ちます。上式を式 5-2 に代入すれば、音の強さ I は;

式5-4

式 5-4

 

;となります。例えば、温度 20 ℃ の時、空気の体積密度 ρ0 は 1.205 kg/m3、音速 c0 は 343 m/s ですので、空気中を伝搬する音波(ただし、平面波)に関して、 音圧の基準値 p0 = 2×10-5 Pa に相当する音の強さ I は;

 

式5-5

式 5-5

 

;となります。この値は、10-12 W/m2 にきわめて近く、音圧の基準値 p0 に対応する音の強さの基準値 I0 として、この値(10-12 W/m2)を用いることが、国際的に取り決められています。

音圧レベルの場合と同様に、“音の強さのレベル”LI(dB)は上述の I0 を基準の音の強さにとり;

 

式5-6

式 5-6

 

;で定義されます。

音の強さの基準値 I0 は、平面音波について求められた値でしたが、音の強さのレベルの式 5-6 は、一般の音波の場合にも用いられます。また、平面音波については、式 5-4 が成り立ちますので、温度 20 ℃における音の強さのレベルは;

式5-7

式 5-7

 

;となり、音圧レベルにほぼ一いたします。ただし、空気の体積密度と音速は温度の関数ですから、温度が 20 ℃以外の場合には、音圧レベルと音の強さのレベルは一致せず、0.2 〜 0.3 dB 程度の違いが生じます。 また、音源の近傍などでは、音波が平面波と見なせなくなるため、音圧から単純に音の強さのレベルを求めることはできません。

 

 

5-3 音響パワーレベル(sound power level)

媒質中を伝搬する音波は、エネルギーの流れであると考えることができ、このエネルギーを音響エネルギーといいます。そこで、この音響エネルギーの大きさを表す量として、ある指定された面を単位時間に通過する音響エネルギーを考え、これを”音響パワー” P(W)と呼びます。

音波が平面波であれば、音の伝搬方向に垂直な平面を通る音響パワー P は、音圧の実効値を p(Pa)、媒質の体積密度を ρ(kg/m3)、音速を c(m/s)、平面の面積を S(m2)として;

 

式5-8

式 5-8

 

;で与えられます。また、音響パワー Pをある基準値 P0 に対するレベルとして表した量を“音響パワーレベル” LW (dB)といい;

式5-9

式 5-9

 

;で定義されます。音響パワーレベルの基準値 P0 は 10-12 W であり、音の強さのレベル LI における基準値 I0 (10-12 W/m2)に単位面積を掛けた値となっています。音響パワーは、主として音源から放射される音響エネルギーの大きさを表すために用いられ、ある指定された周波数帯域内において、単位時間に音源が放射する全音響エネルギーを“音響出力(音源の音響パワー)” P(W)といい、その音響パワーレベルを“音響出力レベル(音源の音響パワーレベル)” LW(dB)といいます。

 

 

5-4 オクターブバンドレベル(octave band level)
       1/3 オクターブバンドレベル(1/3 octave band level)

音の物理的な性質を捉えようとするとき、その音の全体的な音圧レベルや音の強さのレベルだけでは十分でなく、周波数毎の音圧レベルや音の強さのレベルを求めること(周波数分析)が必要となってきます。

音を周波数分析する場合には、オクターブバンドや 1/3 オクターブバンドなどの定周波数比フィルタを用いた分析が広く行われています。これらの分析器は、IC 化されたアクティブフィルタなどの電子回路技術によって小型化・低価格化がなされ、計測精度の向上や使いやすさにも大きく貢献しています。なお、オクターブバンドフィルタの詳細は、11 章で説明します。