宮古島の国の重要無形民俗文化財「パーントゥ」が、クレームに悩まされている。厄払いの意味を込め、仮面を着けた神様が人々に容赦なく泥を塗る伝統的な手法が、その意味合いを知らない観光客に受け入れられず不幸な衝突が生まれている。(矢島大輔、新垣亮)

■「汚された」と苦情・暴行も

 3、4日の夕方、宮古島の平良島尻地区。仮面を着けた青年3人が扮(ふん)するパーントゥが現れた。

 ツル草を巻き付けた体は泥まみれで、鼻を突く異臭が漂う。逃げ惑う人々を追い回し泥を塗るたび、悲鳴が上がる。改装したての住宅や乗用車内にも荒々しく上がり込んだ。

 「怒る人はおらんよ。ちゃんと厄よけして、健康を願ってくれてるんだから」。集落のお年寄りの男性は誇らしげに言う。地元の住民は泥をつけられても笑顔。「ありがとう」と声を掛け、お酒やおすしを振る舞う姿も見られた。

 一方、花柄のワンピースとカメラを泥だらけにされた観光客の若い女性は「ここまでとは思わなかった」とショックを受けた様子。近くにいた中年の男性も泥を塗られ、「本気で怒っている」と不満げだった。

 関係者によると近年、観光客から苦情が寄せられ、対応に苦慮しているという。「服を汚された」「抱きつかれた」といった女性のクレームに加え、数年前には、怒った男性にパーントゥが暴行される事態になった。「中止も検討した」と、地元の男性は語る。

 トラブルを防ぐため、パーントゥの周囲には複数の付添人を配置。不勉強な観光客が大挙して押し掛けないよう開催日を直前まで知らせない工夫もした。

 島の観光資源としてアピールしてきた宮古島観光協会も地元の意向を受け、大々的に宣伝するのを控えている。ホームページ上には日程を載せず、直接問い合わせがあった場合のみ伝える対応に変えた。担当者は「必ず『汚れてもいい服で来てください』と念を押しています」と話す。

■「神様尊重して」須藤沖大教授

 パーントゥに類似した行事は全国にある。鬼のような仮面を着け荒々しい言動で集落を練り歩く秋田県の「ナマハゲ」(国指定重要無形民俗文化財)も、観光客への対応に苦慮している。

 「泣く子はいねがあ」とすごむ姿で知られるが、近年は幼児虐待との批判が絶えない。泥酔したナマハゲが2007年、観光客が泊まるホテルの女湯で暴れる事件も起きた。再発を防止するため荒々しさは影を潜め、弱々しい言動の「草食系ナマハゲ」が増え、魅力が失われたとの声もある。

 沖縄大学の須藤義人准教授=映像民俗学=は「こうした祭りはお化け屋敷のアトラクションではない。訪れる側は事前に意味合いを調べ、地元の人が大切にする神様として尊重する必要がある。迎える側はパンフレットに明記するなどの注意喚起をしてほしい」と指摘している。

 [ことば]パーントゥ 災厄を払い福をもたらす3体の神様が旧暦9月初旬に現れる。約30キロのツル草を身につけ、お酒を振る舞われながら、数時間も集落内を暴れ回る。数百年前に島尻の浜に恐ろしい形相の仮面が流れ着いたことが起源とされる。1993年に国の重要無形民俗文化財に指定された。