根粒菌はすごい

 

中西教授東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授 (醸造学科食品微生物学研究室)

東京農業大学前副学長。醸造学科食品微生物学研究室。応用酵素学、バイオプロセス学。

中西 載慶

主な共著:

『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

最も身近な空気には、水蒸気を除くと窒素78%、酸素21%、アルゴン1%、炭酸ガス0.03%が含まれています。今回は、空気の最大成分である窒素の話です。窒素は、酸素(O2)や水素(H2)と同様に窒素原子(N)が2つ一緒になって窒素分子(N2)となり、化学的に安定な構造となっています。無色、無臭で通常は気体として空気中に存在していますが、−196℃にすると液化します。従って、工業的には空気を冷却して、窒素と酸素(−183℃で液化)とアルゴン(−186℃で液化)を分離し製造しています。窒素ガスは、半導体の製造や化学薬品の酸化・災害の防止、食品の封入ガスなどに、液体窒素は、化学や物理実験の冷却剤、その他様々な工業用冷却材として広く利用されています。また、窒素は肥料をはじめ多くの有用な窒素化合物製造の原料として利用されています。  窒素は、生物の生命活動に必要なアミノ酸、タンパク質、遺伝子を構成する核酸など多くの物質の中に含まれています。植物や動物は様々な窒素化合物を利用できますが、残念ながら、空気中に大量に存在する窒素ガス(N2)を直接利用することができません。しかし、土壌中にはその窒素を植物が利用できるアンモニアに変換してくれる微生物が数種存在し1)、その代表格がマメ科植物の根に共生する根粒菌です。つまり、植物は微生物の力を借りて間接的に空気中の窒素を利用しています2)。たんぼ一面のレンゲ(マメ科)は、根粒菌による土壌への窒素供給を目的にしたものです。花が咲いた後は土にすき込んで緑肥とします。花は人を楽しませ、蜂蜜製造にも役立つわけですから、レンゲは一石三鳥です。つまり、空気中の窒素は、微生物→植物→動物→微生物などを経由して様々に形を変えながら地球を循環しています。しかし、近年、作物を増産するために安価な窒素肥料を大量に使用した結果、自然界での窒素循環に破綻が生じ、窒素化合物が土壌中に蓄積してしまいました。現在、地下水汚染など環境の悪化が問題化しています。その話はいずれまた。

 ところで、地球の空気には、どうしてこんなに窒素があるのか? 地球は、水星、金星、火星などと同様、太陽系惑星の1つとして約46億年前に誕生したと推定されています。地球に近い水・金・火星の大気のほとんど全ては炭酸ガスで、窒素が1〜2%存在するとのこと。勿論、原始地球の大気も、これらの惑星と同じだったのですが、地球の場合には、炭酸ガスのほとんど全てが海水に溶け石灰岩などになり大気中から消滅しました。一方、窒素は、海水にも岩石にも取り込まれず残ったので、必然的に、窒素比率が高くなったのではないかといわれています。しかし、それだけではこの膨大な窒素量の十分な説明とはいかないようで、窒素の起源は未だ謎につつまれています。なお、地球は約30億年前、酸素を放出する微生物の誕生と、その後の植物の大発生にともない大量の酸素が大気中に蓄積され、約4億年前に現在の空気の組成になったと考えられています。7月は七夕、牽牛と織姫伝説、竹笹に短冊の願い、古来からの行事は、生活の節目、心の節目でもあるようです。大切にしたい、伝えたいと思うのですが。天の川など眺め、暫し仕事を忘れ悠久の宇宙に思いを馳せてみませんか。次号「窒素A」につづく。

1) 窒素固定菌という。土壌中の窒素固定の約60%はこれら微生物の働きによる。

2) 雷などの空中放電により窒素の一部は硝酸に変換され植物が利用できる物質となる。
×CLOSE