イチロー、ヤ軍残留決定的 気になる背番号
スポーツライター 丹羽政善
イチローがヤンキースに残留することが濃厚となった。身体検査の後、正式発表が行われる予定だ。
結果だけを見れば、予想通りというか、既定路線にも見えるが、取材する側にしてみれば、この結論を単純に導くことはできなかった。ヤンキースが必ずしも、積極的とは映らなかったからだ。
ヤ軍に必要なのは右のパワーヒッターだったが
当初、ヤンキースは1年、500万ドル程度の条件しか出さないのではと伝えられていた。これでは到底、イチローの後半の働きを評価したとは言えなかった。
また、ヤンキースはイチローに、7月にトレードで入団する際、1)打順は下位、2)ライトの守備位置は保証しない、3)相手先発が左投手の場合はスタメンを外れることもある――といった屈辱的な条件をのませたが、それを撤回するつもりもなかったようだ。
そもそも、ヤンキースの戦力バランスを考えたとき、必要なのは右のパワーヒッターだった。
■イチローのメンツ立つ提示
対照的に、ブレーブスやレッズなど「複数年」、「1番・ライト」を用意できるチームもあった。「求められる、必要とされる」という基準だけなら、そういったチームの方がはるかに適していたといえるだろう。
実際にオファーをしたというジャイアンツとフィリーズも、条件を考えれば「1番・ライト」、「常時出場」を保証していたはずである。
イチローにしてみればいくつかの選択肢があり、ヤンキースだけにこだわる必要もなかったのだ。
ところが、最後の最後にふたを開けてみれば、ヤンキースは条件をアップ。年俸は当初予想の約1.3倍となり、契約も複数年になっていた。これならばイチローのメンツも立った。
■「複数年」に大きな意味
「複数年」の持つ意味が特に大きかったのではないか。ヤンキースはこのオフ、マリアノ・リベラ、アンディ・ペティットら、チームの功労者と1年契約しか交わさず、それをベテラン選手に対する方針としていた。それにもかかわらず、イチローについては例外を適用したのである。
2003年にイチローがマリナーズと再契約を交わしたときも、マリナーズは異例の4年契約を提示。それが決断の要因になったと、後にイチローは語っていた。
条件アップはフィリーズが2年総額1400万ドル、ジャイアンツが2年総額1500万ドルのオファーをした、という話が流れた直後の話だっただけに、無関係ではないだろう。
とくにフィリーズ以上に、ジャイアンツが交渉の大詰めを迎えた段階で、どんな動きをしていたかが気になる。
■ジャイアンツとは今夏に"ボタンの掛け違え"
実は先日、テネシー州のナッシュビルで行われたウィンターミーティングで、今夏にイチローがヤンキースにトレードされる前、ジャイアンツといったんは話ができていた、という話を耳にはさんだ。それはジャイアンツがイチローに興味があった――というレベルではなかったそうだ。
最終的に破談になった理由までは分からなかったが、どこかで"ボタンの掛け違え"があったようだ。
今回、ジャイアンツがボタンをはめ直そうとしたにもかかわらず、しかも十分な評価をしたにもかかわらず、イチローサイドが選択しなかったのは、その7月の時点でこじれたいきさつが、ジャイアンツが思っていたよりも複雑だったのだろうか。
それとも、単にヤンキースでの居心地の良さがイチローにとっては勝ったということなのだろうか。
いずれにしても、プライドをズタズタにされ"過去の選手"という評価の中で今夏、再出発を迫られたにもかかわらず、ヤンキースに移籍後の3カ月で再び存在感を証明し、こうした契約を勝ち取ったのはイチローらしいともいえる。
■2年契約をリスクととらえる見方も
もっとも、2年契約をリスクととらえる見方がないわけではない。
「It's not much of a surprise that Ichiro Suzuki is going to be returning to the Yankees in 2013.
But 2014, too?(2013年、イチローがヤンキースに戻ることは、驚きではない。しかし、2014年も?)」
ある地元紙は、イチローとの契約がほぼ決定的となった14日、そのニュースをそんな書き出しで伝えた。
14年にイチローは41歳になる、という一文がそれには添えられていて、2年という複数年契約については理解できない部分もあるようだ。
地元紙のブログのコメント欄にも「ようやく決まった。戻ってきてうれしい」というファンの書き込みがある一方で、「もう、キャリアのたそがれを迎えている選手になぜ?」という指摘もあった。
■バーニーの51、イチローがもしつけないなら…
「それより世代交代を図るべきでは」という意見もあり、それは30歳代の選手が多くを占めるヤンキースの戦力を考えれば、決して的外れなものではないといえる。
イチローも39歳。2年契約を勝ち取ったとはいえ、おそらく今後は常にそうした視線の中でプレーし、そうした評価を覆す作業を日常的に迫られるのかもしれない。
ところで、そんなファンの中には「イチローが、(背番号)『51』をつけるべきでは?」と訴えている人がいた。
「チームもイチローも、バーニー・ウィリアムス(ヤンキースで2336安打した名選手、背番号51をつけていた)のことを気遣っているんだと思うが、イチローがつけられないなら、もう誰もつけられないのでは」
これも、なかなか鋭い。
イチローがマリナーズ時代と同じ51番をつけることがあるのか?
案外、それも再契約の条件に含まれていたりして……。