TPP、日米事前協議大詰め 7月交渉参加へ綱渡り
環太平洋経済連携協定(TPP)を巡る日本と米国の事前協議が大詰めを迎えた。米国が懸念していた自動車分野の協議はほぼ決着し、かんぽ生命保険の事業拡大を巡る争点や知的財産権問題で最後の詰めを急ぐ。7月にも開くTPP拡大交渉会合(本交渉)への参加を米国に認めてもらうには綱渡りの日程だ。オーストラリアやニュージーランドの同意手続きもカギになる。
日本がTPP交渉に参加するには、すでに参加している全11カ国の同意を取りつける必要がある。最大の焦点は米国だ。
昨年から続けてきた事前協議で、米国はなお日本郵政傘下のゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の事業拡大に歯止めをかけるよう粘り続けている。日本は米側が特に懸念していたかんぽ生命のがん保険への参入見送りは認めているものの、すべての新規事業を止めるのには慎重。かんぽ生命が4月発売を予定していた学資保険の新商品を当面延期した背景にも、米国への配慮があるとみられる。
非関税分野の交渉も焦点だ。例えば著作権の保護期間。日本では原則、著作権者の死後50年間は権利を保護する。米国はこの期間を70年に延ばすよう求めている。期間を延ばせば映画や音楽などコンテンツの輸出拡大が見込める一方、古い作品の普及を妨げ、二次利用しにくくなる面もある。
商標権関連では、実際に受けた損害額を証明をできなくても裁判所が賠償金額を決められる「法定損害賠償」の導入を米国が要求。日本は今のところ、実損害分しか賠償を求めることができない。権利を持つ企業には導入を求める声があるが、賠償額が高額になり訴訟が増える可能性があるため、日本側は慎重姿勢を崩していない。事前協議で決まらない場合、本交渉に持ち越す可能性も取り沙汰されている。
米側が懸念していた自動車問題はほぼ決着した。米国の乗用車やトラックの輸入関税を当面維持することや、一定台数までの輸入車は簡易検査で済ませる「輸入枠」の拡大はすでに合意済み。残る争点として、米国は日本独自の安全基準が非関税障壁であり、米国車が売れない原因だと主張していたが、この点でも折り合ったもようだ。
米政府は日本との事前協議が終わり次第、議会に日本の交渉参加を通知して承認を得る必要がある。議会の承認には90日間が必要なルールで、4月上旬に通知しても日本の交渉参加は最短で7月上旬になる。日本が7月にも開かれる会合参加に間に合うかは微妙だ。ある省庁の幹部は「官邸から事前協議を早く終わらせるようにはっぱをかけられている」と明かす。
日本の交渉参加にまだ同意していないオーストラリアとニュージーランドの意向も焦点だ。米国が両国の動向を見極めたうえで議会に通知するとの見方も根強い。
政府は交渉に臨む体制を5日閣議決定する。関係閣僚会議の下に省庁横断の100人規模で編成する対策本部を置き、交渉に約70人、国内対策に約30人を配置。交渉を統括する「首席交渉官」に鶴岡公二外務審議官(経済担当)、国内対策をまとめる「国内調整総括官」に佐々木豊成・前官房副長官補を起用した。
TPPは21分野に分かれる幅広い交渉で厚生労働省や国土交通省など、通商交渉にほとんど加わった経験がなく規制緩和の壁となり続けてきた省庁まで巻き込む必要がある。農林水産省など一部の役所には「米国との事前協議の情報が一切伝わってこない。交渉に参加できても政府一体となって交渉に当たれるのか」との不満が漏れる。呉越同舟では対外交渉も国内調整もままならない。