落ちていたエスカレーター 震災で建物と設備の連携不足が露呈
東日本大震災の際、大手スーパー「イオン」の3店舗で計4基のエスカレーター本体が建物く体から外れて下の階に落ちていたことが分かった。
落下したのは、仙台市にあるイオンタウン仙台泉大沢の2基とイオン仙台幸町店の1基、福島県郡山市にあるイオン郡山フェスタ店の1基。いずれの店舗も、鉄骨造の2階または3階建てとなっている。
2011年3月11日の本震や4月7日の余震によって、2階と屋上階または2階と3階を結ぶエスカレーターが、下層のエスカレーターを押し潰すように落ちた。当時、人は乗っておらず、けが人はなかった。
イオンタウン仙台泉大沢の2階売り場に勤める店員は、以下のように振り返る。「揺れがしばらく続いた後、ドーンと大きな音がした。見ると、屋上の駐車場につながるエスカレーターが目の前に落ちていた」。
アングル材が外れる
イオンの3店舗で落ちたエスカレーターは、日立製作所とフジテック、三菱電機がそれぞれ納めていた。
いずれのエスカレーターも、上下の両端にL字形の「トラス支持アングル」を取り付けて、建物く体のH形鋼の梁(はり)に引っ掛けていた。
アングルの一端は溶接して梁に固定。もう一端は固定せず、エスカレーター本体が水平方向に動けるようにしていた。地震で建物が変形しても、エスカレーターに無理な力が加わらないようにするためだ。
非固定側のアングルと梁とのかかり代は、「昇降機耐震設計・施工指針」で十分な長さを確保するよう計算式が定められている。同指針は、日本建築設備・昇降機センターと日本エレベータ協会が1998年にまとめた。イオンコーポレート・コミュニケーション部によると、「(指針などに照らして)明らかな設計ミスや施工ミスはなかった」という。
それでもエスカレーターは落ちた。地震の揺れで建物の層間変位が大きくなり、非固定側のアングルが梁から外れたことが、落下の引き金となった。
落下防止策の義務付けを検討
地震でエスカレーターと建物く体とが相対的に動いた痕跡は、首都圏にある商業施設などにも残っている。もし、地震の揺れがさらに大きければ、これらの施設のエスカレーターも落下した可能性は否定できない。
国土交通省は、これまで業界団体に委ねてきたエスカレーターの地震対策の見直しに着手した。「告示などで落下防止策を義務付けることも検討している」(国交省建築指導課)
まず、建物が地震時に想定している層間変位のほか、層間変位に応じたエスカレーターの落下防止策の仕様や工法などの技術的知見を収集。次に、現状の課題や新たに必要となる安全策の有無について整理する。
国交省は2011年11月、建築基準整備促進事業としてこれらを検討する会社や大学を公募。12月中に事業者を決定して、12年3月までに報告書をまとめてもらう方針だ。
エスカレーターが落ちたイオンの一部の店舗では、設計と異なる方法で施工していたことが判明している。天災だけが落下の原因ではない。
(日経アーキテクチュア 瀬川滋)
[ケンプラッツ 2011年12月1日掲載]