「イスラム国」勢い衰えず 警戒強める欧米諸国
【ドバイ=久門武史】イラクとシリアの一部を支配する過激派の武装組織「イスラム国」の勢いに欧米諸国が警戒を強めている。資金や武器が豊富で、中東・アフリカのほか欧州からも戦闘員が集まっている。米国人ジャーナリストを殺害したイスラム国メンバーが英国人だとの疑いも浮上した。中東では、米国がイラクに続き、シリア領内のイスラム国に対しても空爆を実施する可能性があるとの観測も流れ始めた。
ヘーゲル米国防長官は21日の記者会見でイスラム国が「長期的な脅威」だと述べた。シリア空爆の可能性について「あらゆる選択肢を検討している」と否定しなかった。
長官が「これまでに見たどの組織よりも洗練され、資金も豊富で、単なるテロ組織を超えている」と驚くイスラム国の"強さ"の背景は何か。
イスラム国の台頭を許したのは、3年に及ぶシリア内戦だといえる。アサド政権の打倒を目指す反体制派のイスラム教スンニ派武装組織は複数ある。いずれもサウジアラビア、カタールといった湾岸産油国のスンニ派政権が支援してきた。
シリアの隣国で国民の大半がスンニ派であるトルコからの越境ルートなどで提供される武器のほか、資金はモスク(イスラム礼拝所)などを通じ、スンニ派のジハード(聖戦)を支援する名目で反体制派に流れている。
湾岸のスンニ派政権は、シーア派の一派とされるアラウィ派の影響力が強いシリアのアサド政権と関係が悪い。イラクの政権も同国では多数派のシーア派が主導してきた。シリア、イラクの背後にはシーア派の大国イランがいるため、湾岸諸国はスンニ派の武装勢力を支援することでシーア派に圧力をかけてきた。
■ネットを駆使
イスラム国は「強盗」もはたらいている。6月にシリア側からイラク北部に進撃すると、同国第2の都市モスルにある中央銀行支店から4億ドル以上を強奪した。さらに敗走したイラク軍から重火器や車両を奪い、装備を拡充した。密輸や原油の横流しも資金源だ。
イスラム国のメンバーは1万人以上との見方もある。インターネットを駆使して都合のよい情報を発信し、戦闘員などを募っている。バグダディ指導者は預言者ムハンマドの後継者である「カリフ」を自称している。イスラム法に基づき、イラクやシリアのような世俗国家の国境を無視した「領土」を持つ共同体のための国家建設をうたう。こうした過激な理念に共鳴する教徒を世界中から集めている。
欧米に衝撃を与えたのは、イスラム国が19日にインターネット上で公開した米国人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー氏の殺害映像だ。覆面姿の実行犯がロンドンなまりの英語を話していたことに英政府は反応した。キャメロン英首相は20日、英国人関与の可能性があることを重視。休暇を途中で切り上げ、事件への対応を協議した。
■英、追跡調査急ぐ
シリア内戦では約500人の英国人が反政府勢力として参加したとの情報がある。ベルギーなどほかの欧州諸国からもジハードに加わる教徒が絶えない。欧州出身の過激な教徒の多くはトルコ経由で陸路シリア入りしているとみられる。これをトルコ当局は事実上、黙認してきたといわれている。
欧州各国はいま、過激思想を持ってシリアやイラクで実戦に加わった自国民が帰国し、欧米の政権を揺るがすテロリストになる可能性があるとして警戒している。英メディアによると、同国の治安当局は過激派に加わった可能性のある英国民の追跡調査を急いでいる。