<大相撲九州場所>◇14日目◇23日◇福岡国際センター

 異例の万歳コールが起こった。大関稀勢の里(27=鳴戸)が横綱白鵬(28)を上手投げで破り、2日続けて全勝横綱を止めた。今場所最多6986人の観客は、万歳三唱とスタンディングオベーションで盛大に祝福。結びの一番で横綱日馬富士(29)が勝ったため、逆転優勝の目は消えたが、来場所の綱とりへ大きな1歩を刻んだ。

 興奮冷めやらぬ館内に、声が響いた。最初は静かに。だがやがて、波のように大きなうねりとなって広がった。7000人近い観客が、一体となって声を上げた。立て続けに起こった万歳三唱。その数、10度。立ち上がる人もいた。異例の光景。その声を、稀勢の里は全身で感じ取った。「すごいことですよね。本当にうれしかった。相撲を取って良かったと思います」。優勝の目は、もうない。だが、主役はこの男だった。

 全勝の白鵬戦。取組前から闘志むき出しだった。1度目のそんきょから、にらみ合い。立ってもじっと目を合わせ続けた。2度目の仕切りも立ったまま25秒。計3度で1分になった。そのため早くも時間いっぱい。「たまたまです」と振り返ったが、その気迫には横綱の方が目をそらした。

 迎えた立ち合い。けんか四つの差し合いで、当たり勝った。左をねじ込み、胸を合わせる。すかさず右上手を引いた。ここが、勝負の分かれ目だった。

 場所中、亡き先代鳴戸親方(元横綱隆の里)の言葉を思い出していた。「上手はじょうず、下手はへたと書く」。差すのはいつでもできるが、上手は難しい。だからこそ、上手を取れ、と。何度も諭された。現鳴戸親方(元前頭隆の鶴)も言う。「下手は自分十分でも、相手十二分の形。下手の相撲より、上手の方が大成すると言われました」。

 敗れた2番はいずれも左を差しただけで攻め急いだ結果。反省し、稽古場では右上手を引く形で終えるすり足を続けた。その右だった。投げの打ち合いに勝ったのは。白鵬に初めて決めた上手投げ。「前に前に行くことだけ考えていた。いい流れでいけた。いい波だと思う。今後に生かさなきゃ」。静かに息をついた。

 優勝には届かず「いい課題。まだまだだということ」と悔しさを押し殺した。だが、堂々たる相撲で全勝だった2横綱を連破した。千秋楽は鶴竜戦。今までは、ここであっさり負けた。「しっかり、いい相撲を取りたい」。来年初場所が綱とりとなるかどうか。答えは稀勢の里自身に懸かっている。【今村健人】

 ◆稀勢の里の2横綱撃破

 今年名古屋場所以来、2度目。綱とりだった名古屋場所は13日目で日馬富士を浴びせ倒しで破ると、14日目は43連勝中だった白鵬を寄り倒し。次の秋場所へ綱とりをつなげる上で大きな2連破だったが、千秋楽で大関琴奨菊にあっさり寄り切られた。綱とりも振り出しに戻った。