大関稀勢の里(30=田子ノ浦)が、横綱白鵬を倒して優勝争いに踏みとどまった。強烈な左おっつけで主導権を握り、1度は俵に詰まったが、右上手を引いて形勢逆転。熱い相撲で2敗を守った。横綱鶴竜がただ1人全勝を守り、今日11日目に両者は直接、対決する。

 オレを忘れるな。まるで、そう言わんばかりだった。息が切れた横綱に対し、呼吸を乱さずに勝ち名乗りを受けた。20秒7の激しい攻防。その真っ向勝負で、稀勢の里が白鵬を倒した。名古屋場所からの白鵬戦2連勝は、大関昇進前の11年初場所以来。「思い切っていけた」と息をついた。

 横綱を狂わせたのは、最大の武器だった。取組前、若い衆相手に繰り返していたのは左からのおっつけ。その強烈な武器で立ち合い、白鵬の体勢を崩した。突き、押しの応酬となったが、熱くなって張ったり、引いたりしたのは横綱の方。1度は俵に詰まっても、反応が遅れた相手に左足1本で残すと、肩越しから右上手をつかんだ。そうなれば「しっかり慌てないこと」。激しさの中にも忘れない冷静さで、難敵を倒した。

 3場所連続の綱とりが途切れた今場所。「今思えば…」と、精神的な重圧はやはり大きかった。それが吹っ切れた秋巡業では、16日間連続で土俵に上がった。途中、左腕の蜂窩(ほうか)織炎で休んだのは「連チャンで稽古したから、ちょっと疲れが出ちゃった。こんな連チャンは久しぶり。感覚的にはものすごく良かった」と言う。猛稽古を積んできた昔に立ち返れた。

 終盤に幾度となく優勝争いを演じてきた白鵬と、10日目で対戦するのは11年名古屋以来だった。場所の注目は綱とり豪栄道ら。前半で2敗を喫したことで蚊帳の外に置かれかけた。忘れるなという気持ちだったかと問われると「それ以上に納得できる相撲を取ることだけです」と言った。まさにこの日の相撲だった。

 日馬富士と並んで年65勝目。9年連続で続いた白鵬の年間最多勝をついえさせた。11日目は全勝の鶴竜。止めなければ、逆転優勝の望みはない。「集中して、自分の相撲を取ることが大事」。注目を、自らの手で引き寄せた。【今村健人】