労働契約法制及び労働時間法制に関する労使の主な意見


【労働契約法制】
 法整備の基本的な方向性
 (使用者側)  まず法律ありきで考えるのではなく、労使自治を基本として、本当に必要な事項についてのみ対応を検討すべきである。
 (労働者側)  判例法理の法制化に加えて、労働者保護の視点が必要。
 人事管理の個別化、多様化、複雑化、雇用・就業形態の多様化、企業組織再編や人員整理などのリストラクチャリングなど、職場で起こっている問題に対応できる法律とすべき。要件と効果を定めた民事法とすべき。

 基本的事項
 (使用者側)  契約内容についての了知は当事者の義務であり、過度な情報提供義務を使用者に課すべきではない。
 いかなる雇用形態に対していかなる人事制度や処遇を行うかは経営の自由であり、均衡考慮を法令で規定することは妥当ではない。
 (労働者側)  労働契約は労働者と使用者の「合意」が基礎となるべき。
 労働契約の締結・変更プロセスにおいて、「合意が適正に形成できる」ような情報を使用者が提供する義務を課すなど、労使の非対等性を補正する手法を検討すべき。
 「均衡考慮」ではなく、「均等待遇」又は「差別禁止」と明確に規定すべき。

 労働契約の締結及び変更
 (1)  労働契約の締結・変更のルール
  (使用者側)  我が国では就業規則による労働条件の変更が行われるのが実態であり、就業規則の変更によって労働条件を集団的に変更する場合のルールについて、過半数組合等との間で合意している場合には、労働基準法の意見聴取や届出を失念した場合も含め、合理性の推定効を認めるべきである。
  (労働者側)  労働契約は労働者と使用者の「合意」が基礎であり、就業規則に合理性があればそれを契約内容とする合意があったと推定するルールを中心に法律化するのは反対。使用者が一方的に作成する就業規則を労働契約の変更手段とすることを盛り込むことには反対。
 契約は当事者双方の合意がなければ変更できないのが原則であり、合理性があるからといって「合意」を推定すべきではない。また、「労使委員会」などの労働組合以外の労働者集団を就業規則の変更の合理性判断に活用することには反対。

 (2)  労働者の意見を代表する制度
  (使用者側)  企業の実情を考慮し、過半数組合がなくても、過半数組合がある場合と同様に対応できるようにすべき。
  (労働者側)  労働基準法の過半数代表者には問題があるので、労働者代表制度とすべき。しかし集団的労使関係にも多大な影響があるので、労働契約法から切り離して議論することや、労働組合との役割分担を明確にするためにも現行の過半数代表者等が担っている役割に限定することが必要。

 重要な労働条件
 (1)  重要事項の説明
  (使用者側)  書面説明を効力要件にすべきではないし、違反に対して罰則を課すべきではない。
  (労働者側)  労働者が承諾したつもりがなくても、使用者に書面で明示・説明されることによって、承諾したものととらえられる懸念がある。

 (2)  採用内定、試用、出向、転勤、転籍、安全配慮義務、懲戒、損害賠償、留学費用、その他
  (使用者側)  紛争解決のためのルールを明確化する際には、実務に与える影響なども考慮し慎重に検討すべきである。
  (労働者側)  ルール化に当たっては、判例法理に加えて、労働者保護の視点を取り入れるべき。

 (3)  いわゆる変更解約告知
  (使用者側)  個別の労働契約により決定されていた労働条件について、使用者が変更の申入れを行いうる権利があることを明記すべきである。
  (労働者側)  労使が合意しなければ労働条件は変更できないようにすべきであり、いわゆる変更解約告知制度には反対。

 労働契約の終了
 (1)  整理解雇
  (使用者側)  四要素は最高裁で確立していないため、法制化すべきではない。
  (労働者側)  四要件として法制化すべき。

 (2)  普通解雇
  (使用者側)  普通解雇の態様は様々であり、そのための手続もケースバイケースでなされるものである。これに対して是正機会の付与等、画一的な手続規制を設けることは、実態を無視して企業に不相当な負荷をかけるものである。
  (労働者側)  普通解雇には「契約関係を継続しがたい正当な理由」を必要とすべき。

 (3)  解雇の金銭的解決
  (使用者側)  紛争解決の選択肢を広げ、解雇紛争の早期の妥当な解決を可能とするために早急に実現すべき。その際、金銭の額は、中小企業の実情を考慮したものとすべき。
  (労働者側)  裁判で解雇が無効とされた場合にも、使用者が金銭で労働契約を解消できる制度には反対。

 (4)  退職の強要
  (使用者側)  民法の一般法理(強迫、錯誤等)で十分である。
  (労働者側)  退職の意思表示の撤回についてもルール化すべき。

 有期労働契約
 (使用者側)  ルールの明確化の名のもとに有期労働契約を規制することによって、かえって企業は厳格な手続のもとで短期の雇止めを余儀なくされ、労使の望まない結果となる。
 (労働者側)  「入口規制」(有期労働契約を利用できる理由の制限)「出口規制」(更新回数や期間の制限)「均等待遇」の3点がそろわない限り、本質的な解決にはならない。

 国の役割
 (使用者側)  仮に制定するとしても労働契約法は労使の権利義務を規律する法律であり、指導は不要である。
 (労働者側)  周知、啓発は必要。

【労働時間法制】
 時間外労働
 (1)  健康確保休日
  (使用者側)  中小企業は人員も少なく、仕事の受注先との関係もあるため、休日付与を義務付けられても対応できない。
  (労働者側)  疲労回復の観点から健康確保休日を設けることは評価できる。ただし、中小企業の特例措置は反対。

 (2)  割増賃金
  (使用者側)  割増賃金がどの程度長時間労働の抑制に資するのか疑問。企業のコスト競争力が落ちることにつながるし、中小企業の負担増に直結するため、反対。
  (労働者側)  メンタルヘルス不調者や過労死の増加、少子化など長時間労働がもたらす弊害が顕在化しており、ワーク・ライフ・バランスの視点から労働時間の在り方を検討すべき。
 諸外国の割増率や均衡割増賃金率との関係も踏まえ、時間外割増率はすべて50%に引き上げるべき。

 年次有給休暇
 (1)  使用者による時季聴取
  (使用者側)  年休の取得率向上のためには、使用者が一定日数について時季指定できる制度も有用であるかもしれないが、中小企業では対応が難しい。
  (労働者側)  年休取得促進の観点から前向きに検討すべきだが、労働者の時季指定権は阻害しないこととすべき。

 (2)  時間単位年休
  (使用者側)  企業運営に障害が生じる懸念があり、中小企業では対応が難しい。
  (労働者側)  制度化に賛成だが、暦日単位での取得を阻害しない措置や上限日数の設定等が必要。

 (3)  退職時清算
  (使用者側)  結果として年休取得を抑制し、コスト増となるため反対。
  (労働者側)  年休の取得抑制につながらないことを前提に検討すべき。

 自律的労働にふさわしい制度
 (使用者側)  裁量性の高いホワイトカラー労働者については、労働時間の長短でなく、成果を評価することで処遇を行う必要がある。
 労働者の公平性、労働意欲の創出、生産性の向上、企業の国際競争力確保等の点から、ホワイトカラー・エグゼンプションを早期に導入すべきである。その際、各企業の労使の自治による健康確保措置を図りつつ、法律の要件は、中小企業等多くの企業が導入できるようなものとすべきである。
 (労働者側)  変形労働時間制、フレックスタイム制、専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制があり、労働時間規制が適用除外される新制度を創設する必要性はない。このような制度は長時間労働を助長するので反対。

 管理監督者
 (使用者側)  仮に法制化するなら、実態に合わせ管理監督者の範囲を広げるべきである。
 (労働者側)  具体的な定義を法律で明確にし、不適切に拡大されて運用されている実態を是正すべき。深夜業の割増賃金支払いからの適用除外は反対。
 実労働時間の把握、休息時間の保障、長期連続休暇の保障等を義務づけるべき。

 現行裁量労働制
 (使用者側)  専門業務型裁量労働制は、対象業務の範囲が明確であり、本人同意を要件にする必要はない。
 裁量労働制は、特に中小企業については、対象業務の範囲を広げるなど、活用できるようにすべき。また、手続を簡素化し、導入要件を弾力化すべき。
 (労働者側)  専門業務型裁量労働制は、本人同意を要件にすべき。
 企画業務型裁量労働制は、労使委員会の設置は要件として維持すべき。また、対象業務の安易な拡大は行うべきではない。中小企業の特例措置は反対。

【検討の進め方】
 (使用者側)  重要な事項を絞った上で労使のニーズの高い順から議論を進めていくべき。ホワイトカラー・エグゼンプションと時間外労働規制をセットで議論すべきではない。スケジュールありきではなく、特に労働契約法制は時間をかけて慎重に検討すべき。労働契約法制と労働時間法制は切り離して議論すべきで、まず労働時間法制から先に審議すべき。
 (労働者側)  労働契約法の議論にあたり検討すべき項目は多岐にわたるが、労使の一致する項目について検討し法制化すればよい。

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