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「胸毛の横綱」再来か 高安=力士と「毛」あれこれ

脇毛、ひげ、謎の胸毛

 脇毛がしっかり生えていて、「脇毛の大関」と呼ばれたのは大受(だいじゅ)。入門当時、身長170センチ以上の基準に届かず、頭にシリコンを入れて合格したことでも知られる。じわじわと押していく泥臭い押し相撲で、稽古熱心。名解説者の玉ノ海梅吉さんが「土のにおいがする力士」と評した。1973年秋場所、大関に昇進し、けがもあって5場所だけで地位を明け渡したが、その後もまじめに土俵を務めた。脇毛が擦り減らなかったのは、左右のおっつけが強く、脇が固かったからではないかといわれるが、定かではない。

 力士はひげがご法度。73年夏場所、大関輪島が途中から縁起をかついで14日目までひげを剃らずに土俵へ上がった。場所後に横綱昇進を果たしたが、無精ひげについては横綱審議委員会の席上、辛口の高橋義孝委員(ドイツ文学者、のち委員長)から「見苦しい」と物言いがついた。

 最近では2012年秋場所まで現役だったジョージア出身の黒海がひげで苦労した。黒くて濃いひげが顔の下半分ほども生え、毎日剃るのは大仕事(?)とあって、数日おきにしていた。そのうえ縁起かつぎでもすると、盗賊のような風貌になる。観客の中には「お相撲さんなのにひげを生やしていいの?」と思う人もいたが、相撲協会は大目に見ていた。困ったのは対戦相手。四つに組んで黒海のあごが自分の肩に乗ると、ジョリジョリと当たって痛かったそうで、赤くなった肩を見せて苦笑する力士もいた。

 擦り切れるのではなく、生えてきた例もあった。八角理事長(元横綱北勝海)が現役時代、右胸に産毛のような毛がうっすらと生えてきて、本人や記者たちは「なぜだろう」と首をひねった。ぶつかり稽古で若い衆に胸を出し(左胸は心臓があるので右胸を出す)、相手の頭がぶつかることによって毛根を刺激するからではないか、という話になり、確たる根拠はないが、みんな納得していた。

 一般社会で男性が体毛を気にするようになって久しいが、相撲場では女性ファンがそんなことに関係なく、好きな力士を応援する。十両で奮闘する小兵の里山も根強い人気者だ。7月の名古屋場所で、新大関高安がどんな土俵を見せるか。ファンの楽しみが増えた。

(時事ドットコム編集部・若林哲治=元運動部編集委員)

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