そうした功績をひっさげて、GAZOO Racingは、トヨタのカンパニーへ昇格したわけだ。そしてブランドの再構築が行われた。トヨタはGRをスポーツカーブランドと位置付けた。ベンツにおけるAMGや、BMWにおけるMスポーツのようなものとして、新たに「GR」ブランドに再構成したのである。GRブランドは4つの階層に分かれる。
(1)エンジン
(2)ドライブトレーン
(3)ボディ&シャシー
(4)専用デザイン
これらすべてを盛り込んでトヨタにもここまでできると主張するのが頂点に位置する「GRMN」。(2)以降を取り入れた量産型スポーツモデルが「GR」。(3)と(4)を備える「GRスポーツ」。最後にオプションパーツ群として、ユーザーがチョイスして装備できる部品群としての「GRパーツ」がある。ここまでたびたび登場したG'sは「GR」と「GRスポーツ」に分割されてG'sの名前はなくなる。
カンパニー化と同時にリニューアルされたこの「GR」シリーズは、インパクトを狙って9車種11モデルがアナウンスされた。すでにリリースされているモデルもあれば、来春リリースのモデルまであるが、11モデルという物量作戦に力の入れ具合が見て取れる。
筆者はプロトタイプを含むこの11モデルと比較用のベース車両を袖ヶ浦フォレストレースウェイでテストしたが、G'sの伝統を受け継ぎ、全体としてそのでき上がりは納得のいくものだった。特にベース車両のできがお粗末なアクアまでがあれだけの仕立てになるのかという点については驚かされた。逆に車両重量が重すぎてサーキット走行ではいかんともしがたかったのはマークX。「FRだから」と期待すると残念な結果になる。
筆者の印象ではヴィッツはGRシリーズ全モデル素晴らしかった。限定のGRMN(プロトタイプ)もGRもGRスポーツも走っていて十分以上に楽しい。それ以外では、GRシリーズの意義として挙げられるのはノア系だろう。クルマ好きの人であってもライフステージのいかんによって、どうしてもミニバンをチョイスしなければならない時期もある。もちろんヴィッツと同等に走るかと言えば、物理法則には抗えないが、それでもノアのGRスポーツはサーキットですら楽しめる余地が残っていた。
筆者はトヨタに提案がある。例えばヴィッツのGRスポーツは、欧州製の小型車を選ぶ人にも、ハンドルを握ってみれば「おっ!」と思わせるだけのできになっている。しかしながら、あのエアロと大径ホイールという出で立ちでは、そのあたりのユーザーにとってはハードルが高すぎる。
かぶき者的スタイルが格好いいと言う層もいれば、オーバーデコレートは格好悪いと思う層もいるのだ。スポーツを極めることを目標としたGRMNは別だろうが、GR以下、特にGRスポーツが琴線に触れる層には、細いタイヤ+小径ホイールの方が理知的だと思う顧客層が確実にいる。もちろん内装にも赤いステッチや加飾はいらない。地味で普通で構わない。というか、そういう普通さが嬉しいのだ。例えばフォルクスワーゲン・ポロのガチンコのライバルとして各媒体がヴィッツGRスポーツを取り上げるのが当然というところを目指してみるべきだと思う。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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