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コンサーティーナ入門(4)
西塚式音名表記法「ドデレリ」

最初の公開 2011-10-23
最新の更新 2016-10-17

[西塚智光氏の「ドデレリ」] [マリオ] [ドレミ式固定音名唱] [矢田部式「アカサタナ音名唱法」] [拡張イロハ音名唱法(昭和20年 文部省)]
【概論】さまざまな音名表記 −黒鍵の音を一言で表したい!
 世の中には、「移動ド」派と「固定ド」派がいるらしい。
 私は、京劇の音楽とか明清楽を研究しているが、これらの音楽は「弦楽器的」なので「移動ド」的唱法のほうが便利である。明清楽の「工尺譜」も、近代の数字譜も、「移動ド」的な発想による記譜法だ。
 一方、私は趣味でコンサーティーナとかアコーディオンなどを弾く。これらは音の高さが固定されている鍵盤楽器なので、「固定ド」的唱法のほうが便利である。
 以下、「固定ド」的な唱法の一部について、簡単に紹介しておく。

 ピアノの白鍵の音の高さは、「固定ド」唱法で「ドレミファソラシド」、英語式音名表記なら「CDEFGAB」と表せる。
 でも、黒鍵のそれぞれの音には、名前はない。黒鍵を差別するなぁ!
ソルフェージュ,読譜,黒鍵,音名,ドレミ

 黒鍵の音は、「ドのシャープ」とか「レのフラット」とか、長い言いかたしかない。不便だなあ。
 黒鍵の音は、ドイツ語だと「ツィス(Cis)」とか「デス(Des)」とか言うらしい。でも、日本語で「ツィス」とか「デス」とか言うと、2拍の音になっちゃう。白鍵の「ドレミ」のように、1拍で短く言えて、はじめて対等だぞ!
 そもそも「ドレミ…」は、歴史的な慣習でそう並んでいるだけで、理論的ではない。いっそ白鍵も含めて、論理的な音名に揃えちゃえばいい!
 そんな合理的な発想から生まれたのが、1944年、音楽心理学者の矢田部達郎氏が発表した「サタナハ」式だ。こんな感じ。
ソルフェージュ,読譜,サタナハマアカ,アカサタナハマ,矢田部達郎
 白鍵の基本音はア段、半音高い嬰音はイ段、半音低い変音はオ段。
 うん、ものすごく合理的だ。さすがは音楽心理学者が考案しただけのことはある。
 上の鍵盤図では割愛したけれど、ピアノでは弾けない「四半音」(四分音)も、エ段やウ段で表せるように、矢田部達郎氏は工夫した。すごい! ノーベル賞ものかも!! ……でも、残念ながら普及しなかった。

 おお、忘れてた。そう言えば、日本には「ハニホヘトイロハ」という日本式音名表記があったじゃないか。
 だったら黒鍵の音名も「ハニホヘト…」を拡張すればいい。
 1945年6月に文部省が通達した「いろは音名唱法」は、そういう発想にもとづいていた。でも、戦争の最末期の通達だったうえ、これで曲の旋律を歌うと学童も思わず笑い出してしまうような変な響きになってしまう。結局、普及しないまま終わってしまった。

ソルフェージュ,読譜,いろは音名唱法,日本音名唱法,ハニホヘトイロハ

 戦後、上記の「いろは音名唱法」の考案にも携わった人が、「ドレミ式固定音名唱 」を考案して推奨した。これも複雑なせいで、あまり普及しなかった。
固定ド,ソルフェージュ,読譜,佐藤吉五郎,岡本俊夫,ドレミ式固定音名唱
 うーん、この戦後の「ドレミ式固定音名唱」は、戦時中の「いろは音名唱法」の影を引きずってるみたいだ。
 両者の黒鍵の音名よく見くらべてみると、「モ」とか「ヤ」とか共通点がある。ファの白鍵の別名を「マ」と呼ぶところも、そっくりそのままだ。
 戦後のドレミ式固定音名唱が普及しなかった理由として、戦時中の音楽教育に対するマイナスの記憶も、多少はあったのかもしれない。

 そもそも、なんで学者のセンセイたちは、それぞれの黒鍵に2つづつ音名をつけたがるのだろうか?
 たしかに、音楽の専門家とか学者には、異名同音も大事だろう。
 でも、小学校の授業で鍵盤ハーモニカやリコーダーの演奏を学ぶ生徒とか、中高年になってから趣味で趣味で楽器を始める人にとっては、音名は簡単なほうがいい。
 黒鍵の音名は、それぞれ1個で充分だ。ただでさえ、♯とか♭とか、黒鍵の音を出すのは、めんどくさいのだから。
 という訳で、上記の「ドレミ式固定音名唱」の黒鍵の異名同音を成立して、黒鍵の音をそれぞれ1つにしぼったのが、西塚智光氏による「ドデレリ唱法」だ。
 2016年現在、確認できるめぼしいソースがWikipediaなどのネット情報だけ、というのがちょっと不安だけれど(^^;; うん、これはナカナカ便利だゾ!
ソルフェージュ,読譜,ドデレリ,西塚智光

 結論。私のコンサーティーナのサイトでは、この「ドデレリ唱法」を活用することにする。

関連記事[Yahoo! ブログ「「固定ド」唱法的な音名表記 黒鍵の音名も一音で言いたい!」]

【西塚式音名表記】
学童に対する音楽教育のために、西塚智光(にしづか・ともみつ)氏が考案した音名・階名の表記法。便利なので、参考までに紹介しておく。
音名,西塚式,ドデレリ,ドディレリ

音名,西塚式,ドデレリ,ドディレリ

音名,西塚式,西塚智光,dodereri,階名,ドデレリ,ドディレリ
白鍵部分の「ドレミファ…」の音名表記は従来と同じ「固定ド」。
黒鍵部分の音はそれぞれ「デ(de)、リ(ri)、フィ(fi)、サ(sa)、チ(chi)」とする。
低い音から高いほうへ順に「ド、デ、レ、リ、ミ、ファ、フィ、ソ、サ、ラ、チ、シ、ド」となる。

ドイツ語
German
CCis
Des
DDis
Es
EEis
F
Fis
Ges
GGis
Aes
AAis
B
H
英語
English
CC♯
D♭
DC♯
E♭
EFF♯
G♭
GG♯
A♭
AA♯
B♭
B
西塚式(西塚智光)do
de
re
ri
mi
fa
ファ
fi
フィ
so
sa
la
chi
si
同・全一字(加藤徹)
同・かなまぜ書き(加藤徹)ファふぃ
同・全漢字(加藤徹)

西塚式音名表記(ドデレリ)による、コンサーティーナ鍵盤図
40ボタンCG調アングロ・コンサーティーナ(ホイートストン配列)
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例)スーパーマリオ・ブラザーズのテーマの主旋律を西塚式・固定ドで口ずさんでみる
https://youtu.be/PEwfF68UUVA
【C'】
ミミッ、ミッ、ドミッ、ソ、ソ
【A】
ドッ、ソッ、ミー、ラーシ、チラ−、ソミソラーファソミードレシ、
ドッ、ソッ、ミー、ラーシ、チラ−、ソミソラーファソミードレシ
【B】
ソフィファリー、ミッ、サラドーラドレ、ソフィファリー、ミッ、ドッドド、
ソフィファリー、ミッ、サラドーラドレ、リッ、レッ、ドー
【C】
ドドッ、ドッ、ドレ、ミドッラソ、ドドッド、ドレミッ、
ドドッ、ドッ、ドレ、ミドッラソ、ミミッミ、ドミッ、ソ
【D】
ミドッ、ソッ、サ−、ラファーファラ、シラララソファ、ミドーラソ
ミドッ、ソッ、サ−、ラファーファラ、シファッファ、ファミレ、ド
【E】
ドドララチチ、ドドララチチ、
ファファレレリリ、ファファレレリリ、
リレデ、ドーリーレーサー、ソーデー、
ドフィファ、ミチラ、サリシ、チラサ

各ボタンの音名・音高
「固定ド」表記(西塚式)
40ボタン C/G調 Bastari式 W-40-M
左手 left hand
右手 right hand
【左手】left hand
IIIIIIIVVVIVII
【番号】21
【押】ミ3
【引】ファ3
22
ラ3
チ3
23
デ4
リ4
24
ラ4
ソ4
25
サ4
チ4
31
フィ4
デ4
1
ド3
ソ3
2
ソ3
シ3
3
ド4
レ4
4
ミ4
ファ4
5
ソ4
ラ4
32
チ4
デ5
11
シ3
ラ3
12
レ4
フィ4
13
ソ4
ラ4
14
シ4
ド5
15
レ5
ミ5
33
ファ4
サ4
34
ド4
ド4
【右手】right hand
IIIIIIIVVVIVII
35
フィ5
デ5
26
デ5
リ5
27
ラ5
ソ5
28
サ5
チ5
29
デ6
リ6
30
ラ6
ファ6
40
ド7
レ6
36
ファ5
ソ4
6
ド5
シ4
7
ミ5
レ5
8
ソ5
ファ5
9
ド6
ラ5
10
ミ6
シ5
37
チ5
サ5
16
ソ5
フィ5
17
シ5
ラ5
18
レ6
ド6
19
ソ6
ミ6
20
シ6
フィ6
38
リ5
ラ4
39
レ5
ミ5

[word文書・西塚式音名表記によるボタン鍵盤配列表]

ドレミ式固定音名唱
 学校における教育音楽において、佐藤吉五郎(1902-1991)氏や岡本俊夫氏が提唱した「固定ド」唱法の一種である。
(1)佐藤吉五郎「私はなぜ固定ドを主張するか−ドレミ式固定音名唱−」(『音楽教育研究』No50、1970年6月号、音楽之友社、pp72-84)
(2)岡本俊夫「子どもの可能性を伸ばすために」(『音楽教育研究』No50、1970年6月号、音楽之友社、pp125-126)
(3)岡本俊夫「固定音名唱による指導」(『教育音楽 小学版』昭和46年(1971)11月号(=第26巻11)、特集 読譜力を身につける系統的指導、p.28-p.31、音楽之友社)
 (1)と(2)は同じ雑誌の同じ号に載った別個の記事で、両氏はそれぞれの記事の中で「ドレミ式固定音名唱」の音名表を掲げている。なぜか、音名が微妙に食い違っている。しかも両氏は、このドレミ式固定音名唱をいつ誰が考案したのか明確には書いていないが、両氏の文章を見ると、自分が独自に考案したものであるようにも読める。
 ドレミ式固定音名唱の誕生の経緯については不明な点が多く、その解明については他日を期したい。
 さて、このドレミ式固定音名唱は、岡本氏や佐藤氏の熱心な推奨にもかかわらず、結果的に普及しなかった。とはいえ、音名を学童にも発音しやすい一音節にそろえること、名称の一部が「西塚式」に継承されていること、など、見るべき点もある。

佐藤吉五郎,音楽教育研究,ドレミ式固定音名唱,1970,6月号,ソルフェージュ,固定ド
♭♭や♯♯は割愛。

 この「ドレミ式固定音名唱」を、わかりやすいように鍵盤図で示すと、以下の通り(重嬰音と重変音は省略)。
固定ド,ソルフェージュ,読譜,佐藤吉五郎,岡本俊夫,ドレミ式固定音名唱

月刊誌『教育音楽 小学版』音楽之友社,昭和46年(1971)11月号(=第26巻11),特集 読譜力を身につける系統的指導,p.28-p.31
世田谷区立明正小学校教諭 岡本俊夫「固定音名唱による指導」
 p.30に掲載の「(例1)音名表」をもとに改写。
 上記の『音楽教育研究』No50に掲載された、佐藤吉五郎氏と岡本俊夫氏のそれぞれの記事に載っている音名表では「ふぉ」になっている音が、こちらの『教育音楽 小学版』第26巻11での岡本俊夫氏の論文では「ふ」になっている。その他の音の名前についても、同じ岡本氏のわずか1年違いの記事なのに、両者の音名表では微妙に食い違っている。その理由は不明。
岡本俊夫,明正小学校教諭,教育音楽,小学版,1971,11月号,音名表,ソルフェージュ,固定ド

 上記の21音による「ドレミ式固定音名唱」に対しては、佐藤氏や岡本氏の熱心な提唱にもかかわらず、「かえって繁雑である」などの批判が出て、学校教育の現場では普及しなかった。
 以下、古田庄平 「我が国の音楽教育における読譜の歴史的な変遷について[X] ―<固定ド>と<移動ド>の音感と唱法の問題を根底に―」(長崎大学教育学部教科教育学研究報告, 16, pp.29-38; 1991 )より引用
(引用開始)
それらの音名の派生音名に関しても,「ド」には「だ行」から「で」と「だ」を,「レ」には「ら行」の「り」と「ろ」をといったように,また,「ラ」の派生音名は「ら行」の「り」と「ろ」をすでに「レ」のところで使ってしまっているので残りの「ろ」と「や行」の「や」を,さらに,「シ」では「ソ」で「さ行」の「さ」と「せ」を使ってしまっているので「た行」の「て」と「ち」を使わざるを得ないといったような,安易な(思いつき的な)選択方法によって行ったきらいが感じられる。つまり,生音名の音階を歌ってみた場合,♯系は「でりまふぃさやて」♭系は「だるもふぁせろち」となって,それぞれの音名的因果関係あるいは,音階組織的必然性が感じられない。したがって,このような音名唱法を音楽学習の唱法として用いた場合,かえって煩雑さが感じられる。(中略)このような「手段を陶冶することを音楽教育の目的にすること」は全く今日の学校音楽教育の目的から大きく逸脱することであり,まことに危険なことであると言わざるをえない。しかしながら,このような「ドレミ式固定音名唱」をどこか学校以外の所で既に陶冶してしまった者が,自分の唱法として用いることは大いに結構なことであり,学校教育はそれまで否定してはならないと筆者は考えている。
(引用終わり)
加藤徹注=上記引用文中の「ふぁ」は原文のママ。正しくは「ふぉ」ないし「ふ」と思われる。


矢田部達郎氏の「アカサタナハマ」式音名
矢田部達郎(1893ー1958)著『言葉と心 : 心理学の諸問題』(盈科舎、1944年)より
矢田部達郎,ソルフェージュ,音名,固定ド,アカサタナハマ
 これは、音楽心理学者の矢田部達郎が発表した音名の試案である。
 梅本堯夫(うめもと・たかお)「唱法についての心理学的考察」(『音楽教育研究』No50、1970年6月号、音楽之友社、p.37)では「これは日本語の体系にもとづき、また母音性と高さとが関係するというケーラー(W.Köhler)の説をもとり入れ、嬰音は[i]に変音は[o]にし、さらに四半音まで命名して音感を鋭敏にしようという意図から作られたもので、非常に合理的な音名である」と高く評価されている。

 この「アカサタナ」式音名を、わかりやすいように五線譜で示すと、以下の通り(四半音=四分音は省略)。
ソルフェージュ,読譜,サタナハマアカ,アカサタナハマ,矢田部達郎,固定ド
 矢田部は「ニ」(英語式音名表記ならF)と「キ」(同C)と「ソ」(同B)と「ホ」(同E)を立てていないが、上掲の五線譜ではわかりやすくするために、あえて補った。
 この「アカサタナ」式音名を、わかりやすいように鍵盤図で示すと、以下の通り(四半音=四分音は省略)。
ソルフェージュ,読譜,サタナハマアカ,アカサタナハマ,矢田部達郎

文部省新音名採択実施通牒 昭和20年6月末(昭和19年(1944)年決定)
重嬰音
嬰音
幹音
変音
重変音
↑雑誌『音楽教育研究』6/'70(1976年6月号)p.27をもとに作成
 井上武士は「とにかく「日本音名唱法」すなわち「いろは音名唱法」は、わが国が経験した千古未曾有の非常時に生まれた異常児であって、これが育ち得なかったことは、むしろ当然といわなければなるまい」と酷評している(井上武士「日本における唱法の変遷」、『音楽教育研究』6/'70(1976年6月号))
 この、いわば「拡張イロハ式音名」を、わかりやすいように五線譜で示すと、以下の通り(重嬰音と重変音は省略)。
ソルフェージュ,読譜,いろは音名唱法,日本音名唱法,ハニホヘトイロハ,固定ド
 この、いわば「拡張イロハ式音名」を、わかりやすいように鍵盤図で示すと、以下の通り(重嬰音と重変音は省略)。
ソルフェージュ,読譜,いろは音名唱法,日本音名唱法,ハニホヘトイロハ


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