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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第192号

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ISASメールマガジン   第192号       【 発行日− 08.05.20 】
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★こんにちは、山本です。

 梅雨の季節もまだなのに、台風が接近中です(第4号)。相模原キャンパスを強い風が通り抜けていきます。先月までとは違ったちょっと生暖かい風です。

 「きみっしょん」の締め切りまで、あと2週間になりました。参加希望のみなさん!申し込みは、6月3日(火)必着ですよ。

 今週は、宇宙航行システム研究系の森 治(もり・おさむ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:勇気一つを友にして♪
☆02:多摩地域天文施設スタンプラリー
☆03:大樹町/JAXA 連携協力協定締結 記念講演
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★01:勇気一つを友にして♪

 小学生のころ、朝の全校集会でこんな歌を歌いました。

♪昔ギリシアの イカロスは
 ろうで固めた 鳥の羽根
 両手に持って 飛び立った
 雲より高く まだ遠く
 勇気一つを友にして♪
(勇気一つを友にして  作詞:片岡 輝)

 これは、「勇気一つを友にして」の1番です。イカロスはその後、太陽めざしてぐんぐん飛んで行った結果、なんと、ろうが溶けて墜落してしまうため、強烈なインパクトとともに記憶している人は多いのではないでしょうか?

 「仮にろうで固めた鳥の羽で飛び立つことができても、宇宙には空気がないので、翼を使って飛び回ることは無理ではないか?」 ということを考えた人は私だけでないと思います。(もっとも「イカロスは空気がなくても生きられるのか??」という疑問が先かもしれませんが・・)

 羽ではありませんが、膜を広げて宇宙空間を飛ぶということはずっと前から提案されています。これが、ソーラーセイルです。

 一般に航空機は、ジェットエンジンによって、吸い込んだ空気を高速に押し出すことで、加速します。鳥が翼で飛ぶのも空気の流れを変えて、その反力を用いているという点で同じです。しかし、空気のない宇宙空間ではこの方法を用いることが出来ません。そこで、宇宙機は、蓄えておいた燃料を噴出し、その反作用で加速・減速するという方法をとっています。燃料がなくなればおしまいです。ちなみに、小惑星に行って、サンプルを持ち帰るというようなミッションでは全体で大きな加速量が必要になります。これを少ない燃料で実現するために、はやぶさではイオンエンジンを採用し、燃料を高速噴出することで、燃費をよくしているのです。

 一方、ソーラーセイルは、太陽光の微小な圧力を受けることで加速します。もちろん燃料は不要です。その代わり、ソーラーセイルはその名が示しているように、太陽光圧をまとめて受けるためのセイル膜(帆)を広げる必要があります。

 「ソーラーセイルは太陽から遠ざかる方向にしか飛べないのではないか?」
という疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。分かりやすくするために、ソーラーセイルが地球と同じように太陽のまわりを一定の半径で回っているとします。実は、セイル膜が太陽を向いていてもこの半径はあまり変化しません。しかし、セイル膜を少し傾けると接線方向に太陽光圧を受け、加速または減速することができます。これにより、回転半径を変化させることができ、地球の外側だけでなく、内側にも行くことが可能になります。

 「せっかく広いセイル膜を広げるのであれば、その一部に薄い太陽電池セルを貼り付けておいて、大電力(kW級)を発生させよう!」
これが、私たちが提案しているソーラー電力セイルです。この電力を用いることによって、はやぶさよりも高性能なイオンエンジンを駆動できます。
また、太陽から遠く離れても、ヒータによる温度制御が可能です。近い将来、ソーラー電力セイル探査機で木星等の探査を実現したいと考えています。

 ソーラーセイルは、まだだれも実現できていません。
「巨大なセイル膜をどうやって広げるのか?」、
「太陽光圧を用いて思い通りに航行できるか?」
さらに、
「電力セイルとして、安定的に電力が得られるか?」
これらは難しい技術課題です。地上で試験して分かることも少なくありませんが、飛ばさないと分からないこともたくさんあります。そこで、ソーラー電力セイルとしての最初の計画では、これらの技術課題に挑む決意を表明し「イカロス」と名付けました。

 そういえば、冒頭で紹介した「勇気一つを友にして」という歌の4番はこんな歌詞でした。

♪だけどぼくらはイカロスの
 鉄の勇気をうけついで
 明日(あした)へ向かい飛びたった
 ぼくらは強く生きて行く
 勇気一つを友にして♪

 「勇気」とは、この歌を歌う人にとってさまざまでしょう。「イカロス」にとっては、技術課題に挑むチャレンジ精神こそが勇気だと信じて、がんばりたいと思います。

(森 治、もり・おさむ)

ISASニュースから
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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※