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ISASコラム

第6回:PADLES宇宙放射線計測実験がスタート!

(ISASニュース 2009年1月 No.334掲載)

 スペースシャトルやミール宇宙ステーション、国際宇宙ステーション(ISS)の飛行高度は約300〜550kmです。このような低地球軌道(LEO:low earth orbit)での宇宙放射線被ばくの最も重要な原因は、銀河宇宙線、地球磁場に捕捉された陽子線、太陽粒子線です。LEOを飛行する宇宙船内の線量率は、飛行高度、飛行傾斜角、遮蔽条件、11年周期で変動する太陽活動に依存して、常に変化します(図1)。長期宇宙滞在のリスク評価や遮蔽設計、飛行計画策定のために、被ばく線量測定データの蓄積が求められています。宇宙飛行士のフライト当たりの滞在日数や生涯搭乗日数は被ばく量で制限されるため、宇宙放射線計測には高い精度が必要です。
図1 低地球軌道(LEO)宇宙放射線環境
 宇宙放射線環境特有の広い線エネルギー付与(LET)領域(0.2〜1000mm/keV)の高精度の被ばく線量計測をするために、熱蛍光線量計とプラスチック飛跡検出器を組み合わせた線量計測原理を採用した受動・積算型宇宙放射線計測システム(PADLES:Passive Dosimeter for Life Science Experiments in Space)の技術開発と、ISSへの搭載準備を進めてきました。開発したPADLES線量計は2.5cm角、厚さ5mm程度と小型なので、生物試料のごく近傍に設置が可能であり、人体への装着も容易です。また、複数のソフトウェアを組み込んだ解析プログラムを構築したことで、帰還後2週間以内に線量計の解析が可能となりました。
 日本実験棟「きぼう」の打上げと同時に、PADLESによる3つの宇宙放射線計測実験(Area PADLES、Bio PADLES、Crew PADLES)がISSで実施されています。
図2 左:Area PADLES線量計の「きぼう」船壁への設置例
右:Area PADLES線量計の「きぼう」内での設置個所(丸印)
 Area PADLESは、「きぼう」運用期間中の継続的な定点環境モニタリングを行う実験です。2008年6月、STS-124/1Jミッションで「きぼう」船内にArea PADLES線量計が搭載され、環境モニタリングが開始されました。今後は、約6〜8ヶ月ごと(年1〜2回)に線量計が回収・交換される予定です。
 Bio PADLESは、国際公募テーマや1次選定テーマ公募で採択されたライフサイエンス実験の研究者からの依頼を受けて線量計を搭載し、生物試料の被ばく線量計測を行う実験です。生物試料のごく近傍で測定するために、生物試料とともに幅広い温度環境(冷凍庫の−80℃から細胞培養装置の37℃まで)での運用が要求されます。
 Crew PADLESは、ISS搭乗宇宙飛行士の被ばく管理を行うための個人被ばく線量計測実験です。Crew PADLES線量計は、ポリカーボネート製のケースにストラップが付いた、軌道上で宇宙飛行士が携帯しやすい形状になっています。宇宙飛行士は、船内・船外活動を通してフライト期間中は、この線量計を常時携帯します。「きぼう」の搭載と同時に、土井隆雄・星出彰彦宇宙飛行士の個人被ばく線量計として利用されました。
 Area PADLES、Bio PADLESの測定結果は、ISS船内宇宙放射線環境データベース(PADLESデータベース http://idb.exst.jaxa.jp/db_data/padles/NI005.html)で一般に公開されます。「きぼう」船内で行う宇宙実験テーマの提案者に実験計画立案のための放射線環境情報を提供するとともに、宇宙飛行士の長期滞在における宇宙放射線のリスク評価に役立つと期待されています。