コンピュータグラフィックス研究紹介

2016年度

彩度と輝度を考慮したハーフトーニングによる色鉛筆画風画像の生成
2016年卒業論文,研究実施:高橋 悠香
本研究は従来研究における色鉛筆画風画像の生成手法を拡張し,色の要素に注目して色鉛筆画風画像の生成を行いました. 元画像の各画素において,色鉛筆に見立てて用意した34色から,色の関係が分かりやすいHSB色空間をもとに色味を表すH値が近い色を正・負各方向から1色ずつ選び,さらに明暗を表現する黒白を足した4色を用いてハーフトーニングを行います.このハーフトーニングは独自に考案したもので,4色を結ぶ空間内に必ず元画像と同じ色のH値が含まれるという利点があります.このようにハーフトーニングで色を塗ることにより,色鉛筆独特の淡い色の塗り方を表現することができます. また,隣接する画素の色のH値を取得し,似た色が続く方向へ線を引く処理を追加しました.これにより物体間の境界や材質の描写能力を向上させることができました. その他,描写する程度や量を変更させることができるようにし,ユーザー好みの色鉛筆画を生成することを可能にしました.
実測に基づく化粧品の反射と透過の高精度な再現
2016年卒業論文,研究実施:小川 かなえ
コンピュータ・グラフィックス(CG)は幅広い分野で多用されており,化粧品業界もそのうちの一つとして挙げられます.この業界では,メイクアップシミュレーションにCGが活用されています.メイクアップ化粧品では塗布の厚みが見た目に大きな影響を与えます.化粧品は厚く塗ればよいというものではなく,素肌の凹凸を活かしながら自然に変化させる必要があります.この化粧品の厚みと見た目(発色)に関する研究はこれまでも行われていますが,実際にシミュレーションに用いられている例は少ないです.そこで本研究では,化粧品の厚みの変化に対する色の変化を,実測に基づき高精度に再現することを目的とします. まず,リップの厚みに対する色の変化を実際に計測・解析することで,そのリップが持つ固有の発色特性を求めました.そして得られた特性をシミュレーションに用いることで,実際に近い色で再現できることが確認されました.今後は光沢表現を可能にすることで,さらに実物に近い再現が可能になると考えられます.
太陽周辺の輝度分布モデルを用いた光源環境推定の高精度化
2016年卒業論文,研究実施:掛谷 大登
近年のCG技術の発展に伴い,簡易的に実環境の照明情報をモデル化する手法が求められています.モデル化した照明情報を基にライティングを行うことによりCGで作成された物体の質感を現実に近づけることができます.ライティングを再現する手法として,実写画像を使ってライティングを行うイメージベーストライティング(IBL)があります.しかし,太陽光のような高輝度な光源は白飛びを起こしてしまい精度を欠く場合が存在するため,本研究では,太陽光により白飛びを起こした高輝度な領域のより詳細な光源推定を行いました.まず放射基底関数を高輝度領域周辺の天空の輝度値に近似し太陽周辺の天空の輝度分布モデルを作成し,次に従来手法により推定した高輝度領域の輝度値の総量を用い,太陽の輝度分布モデルを作成し2つのモデルを組み合わせ高輝度領域輝度分布の推定を行いました.推定した結果を用いイメージベーストライティングを行った結果,実写に近い影付けを確認できました.
2層薄板状物体の透過率と反射率の独立制御
2016年卒業論文,研究実施:畑谷 愛結
近年,あらゆる形状の物体を自由に出力することの出来る3Dプリンタが注目を集めています. しかし,3Dプリンタは依然として,物体の形状を再現することが最優先であり,物体の表面の滑らかさなどの質感における細部の再現性は不十分であり,実物そっくりのレプリカを作成するためには表面の色だけでなく,鏡面反射特性(つや)や透過率(透け感)なども再現する必要があります. そこで本研究では反射率と透過率を独立に制御することを目的とします. つまり乳白色と黒色の2層の薄板状物体の前面から光を当てた場合と後面から光を当てた場合に見え方が変化する物体の作成を行います. 2層の厚みの双方が反射率と透過率に関係していることから2層の様々な厚みの組み合わせにおける反射率と透過率を計測し,反射と透過で表現したい入力画像の各部の厚みを設計し3Dプリンタで出力しました. 反射率と裏側からの光の透過率を制御し,見え方が光の入射方向により変化する物体を生成することが可能となりました.
人体の動きと形状を表現した立体作品の生成
2016年卒業論文,研究実施:舩本 勇汰
芸術作品において人体の動きと形状を表現する作品群があります.従来はCGを用いて制作していましたが,モーションキャプチャツールの普及により,実際の人体の動きを取得したものを用いて制作できるようになりました.モーションキャプチャツールを用いて取得した動きのデータは棒人間のような形で表され,人体の形状は加味されません.人体の動きだけでなく形状も表現するために,人体の形状を表現した3DCGモデルを利用しました.3DCGモデルを動かすためのモーションファイルを生成しました.このとき関節の位置座標から関節の回転角度への変換が必要になりますが,直接変換するのは困難であったため,最小二乗法を用いて近似値を求めることでモーションファイルの生成を実現しました.生成したモーションファイルに沿って3DCGモデルを動かし,時系列に沿ってモデルを合成することで,人体の動きと形状を表現した立体作品を生成しました.

2015年度

3Dプリンタ出力とCGの視覚的特性のマッチング
2015年卒業論文,研究実施:田邊 智美
近年,3Dプリンタ市場規模は拡大しています.規模の拡大に伴い高性能化が進んでいます. 3Dプリンタはデータの変更により多様な物体形状を容易に生成できるという利点を持ちます. しかし,3Dプリンタは物体形状を再現することを第一に開発されているために,視覚的再現度については不十分です. その要因の一つとして造形方法が挙げられます.樹脂を積み重ねて立体を造形するために, 物体表面に微細な凹凸(積層段差)が生じ,物体の見え方が異なる場合があります. そのため,出力物体の視覚雨滴な再現度を向上させることを目指し, 出力物体とCGの光学特性を求め,その差を小さくするようにCGで光学特性に関するパラメータ操作を行い,見えのマッチングを行いました.
ハーフトーニングを応用した色鉛筆画風画像の生成
2015年卒業論文,研究実施:坂本 知弘
本研究は従来研究における白黒鉛筆画風画像の生成手法を拡張し,色鉛筆画風画像を生成しました. 色鉛筆は限定多色なので入力画像の色をそのまま使わず, 色を赤,桃色,橙,薄橙(肌色),茶色,黄色,黄緑,緑,水色,青,紫,黒,白の一般的に手に入れやすい13色に限定しました. 入力画像の色のHSB値と限定した13色のHSB値を比較して最も近い2色を選び出して ハーフトーニング処理を行い中間色を表現することで,実際の色鉛筆画の重ね塗りを表現しました. ハーフトーン処理とは2値しか出力できない表示装置でグレースケールを表現するための技術で,本研究ではディザ法を使いました. ハッチングの線の色をハーフトーニング処理して出来た画像から色を抜出して使うことで色鉛筆画風画像を生成することが出来ました.
顔部品の配置に基づく顔画像からのイラスト画の生成
2015年卒業論文,研究実施:清水 彩香
近年,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(Social Networking Service:SNS) が急速に発展しています.SNSを使用する際には初めにプロフィール画像を設定することが多く,適度にプライバシーを確保でき,ある程度本人を特定できる,似顔絵を使用するユーザーが増えています.そこで本研究では顔写真を用い,似顔絵を容易に生成する方法を提案しました.似顔絵を生成するにあたり,まず頭の最上部,顎,両目の目尻・目頭・上側・下側の計10ヶ所の特徴点を計測します.これらの値を用いて,顔の高さや目の幅,高さ等似顔絵の生成に必要と思われる値を算出します.その後,プログラムにより算出した値を元にベースとなる下絵に目のパーツを当てはめます.より自然な似顔絵になるよう,特徴点をそのまま用いたもの,相対位置を用いたもの,目を拡大したもの,y座標を手動で設定したものの4種類の似顔絵を生成しました.
3Dモデルに基づくイラスト画の頭部ハイライト描画
2015年卒業論文,研究実施:堀内 美里
CGやアニメーション制作で物体に立体感を出すために光の反射現象の表現(ハイライト)が用いられます. イラスト画においてはキャラクターの違いや表情の変化などを持たせる役割があります. その中でもキャラクターの個性を表現する要素の1つである髪の毛のハイライトに注目しました. ハイライトを描く際,光源の位置に関係なく描かれることが多く, また様々な種類が存在するため制作者のセンスや好みを反映させる必要があります. それを無くすため,3Dモデルを用いてハイライトを生成し,自動でハイライトが描かれたイラスト画の生成を行います. まず,制作者が下絵の準備と3DCGソフトを用いてハイライトの大きさなどのパラメータを設定し3Dモデルを作成します. 次に,作成した3Dモデルの2値化や塗りつぶしを行います. 下絵とハイライトの画像(2値化したもの)を平行移動で位置合わせを行い,マスク処理を用いて合成します. また,ロングヘアの時の肩にかかる髪の毛のハイライトなどの特殊なものは追加項目として制作者が行います.

2014年度

実レンズのチルト効果の高精度レンダリング
2014年修士論文,研究実施:中根 智絵
チルトシフトレンズは実際の風景をミニチュア風に撮影することができるレンズとして注目を集めています.撮像面に対してレンズを傾けることで合焦面を傾け,被写界深度内に入る範囲を変えぼけをコントロールすることができます.この仕組みを分散レイトレーシング法を用いてCG上で再現することで任意の合焦面を設定することと,従来手法では表現できなかった無限遠に合焦するピクセルを含む画像の生成を可能にしました.また,撮影画像からレンズの傾き角を取得することで,実写画像と同様のぼけを持つCG画像の生成を行いました.
グラフカット法によるシームレスなBTFレンダリング
2014年修士論文,研究実施:大下 淳平
視点依存テクスチャ(BTF)を用いて3Dモデル表面を表現することで現実感のあるレンダリングを行うことが可能となります.しかしBTFは視点・光源により変化するテクスチャであるため異なるテクスチャをつなぎ合わせると継ぎ目に違和感が生じる問題があります.また,BTFは膨大なデータ量となるために解像度の低い画像しか提供されず,テクスチャの伸縮が起きてしまうという問題がありました.そこでBTFの画素ごとに統計量をとることで生成された画像を重ね合わせグラフカット法により領域分割することで特定のBTFに依存せず,違和感の少ない継ぎ目を生成しました.これを3Dモデルの三角形メッシュ三辺に最適化し,視点・光源方位が変化するたびにBTFを切りかえることでシームレスなBTFレンダリングを行いました.
実絵画の制作技法を参考にした鉛筆画風画像の生成
2014年卒業論文,研究実施:石嶋 瞳
近年,コンピュータグラフィクス(CG) の研究分野において,非写実的レンダリング(NPR) が注目されています. NPR は人間の手による創作美術の表現をCG によって目指しています.本研究では,実際の鉛筆画の制作手順を参考にした方法で,与えられた2次元画像から鉛筆画風画像を生成しました.鉛筆による単純な線の集合である鉛筆画を表現するため,本手法ではテクスチャ画像を用いず線分の一描きの集合によって表現を行いました.下描き,影つけ,ハッチング,消しゴムかけのステップを模倣し,線分の描写を行う際の線の長さ・太さ・色・透過度・発生確率を線のパラメータとして設定しました.各ステップでそれぞれ鉛筆のタッチを表現するよう作画意図に合わせてパラメータを変更することによって様々な画像から鉛筆画風画像を生成することができました.また,実絵画に似せてパラメータを調整することで,様々なタッチの鉛筆画風画像を表現できました.
多視点レンダリングに等価な物体形状変形ツールの実装
2014年卒業論文,研究実施:松井 笙悟
現実の世界のように遠近を感じる透視投影では得ることが出来ないような,複数視点から撮影した画像を滑らかに繋ぎ合わせた画像を,CGによりレンダリングする研究が注目されています.仮想空間において高品質な合成画像の描画を行う場合,レイトレーシングを用いた手法では計算量が膨大となってしまうため,従来研究ではFree-Form Deformation(FFD)で対象物体を変形させ,それを正射影することによって簡易かつ高速に多視点合成画像の概形を確認する技術が提案されました.本研究ではこの技術を生かすため,ユーザインタフェース機能を組み込むことで利便性の向上を図りました.図はツール実行時の例です.obj形式のファイルを指定しての読み込み,合成に用いる2つの視点情報の変更,単視点と多視点の画像の切り替えがツール実行中に自由に行えます.また,変形後の対象物体をobj形式のファイルとして出力し,同時に合成画像生成に用いた2つのカメラ情報を出力することも可能としました.
物体領域を考慮した3次元形状からの絵画風画像の生成
2014年卒業論文,研究実施:大庭 宜明
3次元オブジェクトを入力とし,油絵風画像を生成しました.入力物体の形状が既知であることと,物体の領域分割が容易な利点を生かし,物体の輪郭をきれいに表現した油絵風画像を生成することを目的としました.3次元オブジェクト上に,無数のパーティクルを発生させ,そのパーティクル上にブラシストロークと呼ばれる絵画の一筆に相当するテクスチャ画像を配置することで生成します.ブラシストロークの大きさや色などといった属性値と呼ばれる値を適切に設定することで絵画風の外観を得ることができます.ブラシストロークの色は,色参照画像から取得します.ブラシストロークの形状を決定する,大きさや方向といった値は,物体判別画像を対象の物体に対して2値化した画像に対して画像モーメントを計算することにより決定します.これらの属性値を反映させたブラシストロークをパーティクル上に配置することで,生成画像を得ることができます.
文字フォントの濃淡分布を考慮したアスキーアートの生成
2014年卒業論文,研究実施:横田 華奈
アルファベット,数字,記号などの文字列を用いて絵を表現するアスキーアートと呼ばれる手法があります.アスキーアートの生成手法には,文字の形を線と見なし連結させ表現すStructure-based,文字を1つのドットと見なし,文字の違いを濃淡の差として扱うTone-basedの2 通りがあります.本研究では, 1つの文字画像の中にそれぞれ異なる濃淡の分布があり,この濃淡分布を考慮して,適切な文字を選ぶことで文字フォントの濃淡を考慮したアスキーアートを生成します. 文字画像が表現できる輝度値の範囲に対象画像の階調補正を行い,その画像と各文字画像に対し,モザイク処理を行うことで各領域の平均輝度値の高速な計算を行います.階調補正,モザイク処理により対象画像の階調を適切に変換し,文字フォントの濃淡分布を考慮することで濃淡のあるアスキーアートを生成することができました.

2013年度

実画像の空間周波数特徴を利用した光輝材CG表現のパラメータ推定
2013年修士論文,研究実施:中原 なつみ
メタリック塗装は,自動車や携帯電話などの工業製品の塗装に多く用いられるようになり,そのメタリック塗装をCG上で再現することで,製品の開発やデザインなどを支援することができます.従来研究では,メタリック塗装の施された物体表面で観測される反射を,カラー層の反射,光輝材の層の反射,クリア層の反射の3 種類から成っていると考え,3 層からなる簡易多層モデルを用いることで少ないパラメータからメタリック塗装の施された物体を再現しました.そこで本研究では,実画像の周波数特性を利用し,簡易多層モデルにおける光輝材層のパラメータ値を推定しました.本手法のパラメータの推定は,パラメータを変化させて得られる生成画像の光輝材成分画像をフーリエ変換し,得られるスペクトルデータから特徴ベクトルを作成し,実画像の特徴ベクトルとの差が最小となるパラメータを選ぶことで推定しました.本手法での生成画像は光輝材の輝度の違いはありますが,手動に頼らずとも実画像に似た光輝材による反射の特徴を表現できました.
手持ちカメラ映像からのシネマグラフの自動生成
2013年卒業論文,研究実施:桑田 尚幸
自分の研究はシネマグラフを自動で作成できるようにすることです.シネマグラフとは動いているものが複数ある動画から1部分だけを動くようにした動画のことで,その動いている部分に注目を集め不思議な感覚を味わうことができます.今までのシネマグラフの作成方法では作る側の技術により結果が良いものでないことがありました.また,カメラは固定した場合が多くあまり自由なシネマグラフを作ることはできませんでした.そこで本研究ではだれでもシネマグラフを簡単に作ることを目的としました.プログラムはSIFT特徴点による手ぶれ補正を行いシネマグラフにする動画はある程度手持ちカメラからの映像をつかうことができるようにしました.また動く物体の抽出は手ぶれ補正した動画をグレースケールに変換し画素ごとに中央値を求め大きく外れている領域を選択しました.そして動画がループするときのつなぎ目は画像差分を用いることで自動で検出するようにしました.

2012年度

手持ちカメラによる実画像列からの非中心投影レンダリング
2012年修士論文,研究実施:立野 翔平
近年,通常の透視投影(中心投影)では得ることのできない,対象物体を複数の方向から見たような画像をCGレンダリングする技術が研究されています. このような単一の視点では得ることのできない画像を非中心投影画像と呼びます. 従来研究ではCGモデルを変形させることで非中心投影画像の効果を再現していましたが,実物体に適応する場合には3次元形状を取得する必要があります. 実空間ベースのレンダリング手法に光線空間法があり,通常はカメラを格子状に並べたカメラアレイなどの装置を用いて撮影が行われます. 本研究では実物体を対象とした非中心投影画像の生成を目的とし,実空間の3次元形状およびカメラアレイなどの大規模な装置を必要としない特徴があります. レンダリング手法には光線空間法を用い,手持ちカメラによる実画像列を入力とします. 光線空間は視点(カメラ)の位置姿勢を用いて構成されるため,トラッキングソフトウェアにより画像列の視点位置情報を取得します. レンダリングの際,線形補間による平滑化を行うことにより,鮮鋭な非中心投影画像が生成できました.
多重散乱光を考慮した画像生成に基づく関与媒質の散乱特性の推定
2012年修士論文,研究実施:石丸 功一
関与媒質とは,雲・牛乳・石鹸のように媒質内部の微粒子によって,光が何度も散乱する多重散乱光を媒質内部で発生させる物質のことです.実物体の関与媒質をコンピュータグラフィックスで忠実に再現するには実物体の散乱特性などの散乱特性を推定する必要があります.本研究では,最初に関与媒質をハイダイナミックレンジカメラで撮影し,実写画像を作ります.次に実写画像と同じシーンで関与媒質を様々な散乱特性でレンダリングを行います.レンダリングには,関与媒質を物理的に正しくレンダリングできるフォトンマッピング法を使用しました.これにより,得られた複数枚の生成画像と実写画像を比較し,実写画像に最も一致する生成画像を求めます.この生成画像で使用された散乱特性が推定結果とすることで散乱特性の推定を行いました.これにより,従来手法では推定不可能であった複雑な形状を持つ関与媒質の散乱特性の推定が可能となりました.
イメージベーストライティングにおける光源サンプリング手法の評価
2012年卒業論文,研究実施:春田 啓裕
近年では,実写画像を元にCG の生成をするアプローチを用い,画像から物体を照らす光の情報を復元するイメージベーストライティングという手法が研究されています.この手法では点光源による近似手法がいくつも提案されています.点光源による近似ではHDR環境画像から光源となるピクセルをサンプリングし,結果として得られたピクセル位置の極座標を求めることで光源位置の推定を行います.この手法を同一シーンで用いた際の差異が明確ではないため,シーンに適した手法の選択が困難です.そこで本研究では点光源での光源近似手法の比較評価を行いました.結果として,用いた手法の中でそれぞれの手法の特徴を考察し,求積法によるサンプリングが最も良い結果を得ることができました.
チルトシフトレンズの被写界深度効果のCGによる再現
2012年卒業論文,研究実施:中根 智絵
CGが実写に近づくためには,実際のレンズを基にしたカメラモデルの用いる必要があります.チルトシフトレンズは撮像面に対してレンズを傾けることによって合焦面を傾け,被写界深度内に入る範囲をコントロールできるレンズです.今までのCG上のカメラモデルでは,ぼけの大きさや範囲を変えたいとき被写界深度を変える必要がありましたが,チルトシフトレンズの効果を用いれば被写界深度を変えることなく実現することができます.通常のレンズでは撮像面とレンズと合焦面は平行ですが,合焦面を床と平行にしたり,垂直にしたりすることで異なる生成画像が得られました.CG上ではレンズの口径を任意に大きくすることができ,それによってぼけを大きくすることが可能です.チルトシフトレンズの効果を用いれば,口径を変えずにぼけの大きさを変えられるだけでなく,合焦する位置もコントロールすることができました.
グラフカット法によるシームレスBTF画像の生成
2012年卒業論文,研究実施:大下 淳平
視点によって変化するテクスチャをイメージベースドレンダリングによって表現する手法として,視点依存テクスチャマッピングがあります.しかしテクスチャをつなぎ合わせる継ぎ目に違和感が生じるという問題があります.そこでグラフカット法を用いることを提案しました.しかし視点依存テクスチャを用いる場合,視点の変化に応じて画像の切り替えを行う際に継ぎ目が変化してしまい,見え方の時間的な連続性が欠けてしまうという問題があります.また,レンダリング時間を考慮するとグラフカット法を反復することは現実的ではありません.本研究では,視点依存テクスチャであるBTFを走査し,画素ごとに輝度変化の統計量を取ることでBTF全体に平均的に違和感の少ない継ぎ目の生成を行いました.BTFの平均値または分散値から統計量画像を生成し,それを用いてグラフカットすることで継ぎ目を決定します.その継ぎ目により,視点が変化してもシームレスにテクスチャ合成をすることができました.

2011年度

頂点シェーダによる多視点合成画像の実時間レンダリング
2011年卒業論文,研究実施:伊藤 徹弥
近年,通常の透視投影では得られない複数の視点から見た物体を一枚の画像に合成した多視点合成画像をコンピュータグラフィックスでレンダリングする技術が研究されています.従来,多視点合成画像は複数の視点から各視点間のレイを計算し,様々な手法で補間することでレンダリングされてきました.しかし,レイの補完には時間がかかります.そこで本研究では頂点シェーダを用いることで,レイの補完を用いずに多視点合成画像を実時間で生成する手法の提案を行いました.本手法では複数の視点から通常の透視投影をすることで複数の透視投影像を得,それらの視点と投影像の位置を利用した加重平均をとることで多視点合成画像の生成を行っています.これにより,従来とは異なり通常の透視投影と同等の速度でのレンダリングが可能となりました.
簡易多層モデルを用いたメタリック塗装の再現
2011年卒業論文,研究実施:中原 なつみ
メタリック塗装は,自動車や携帯電話などの工業製品の塗装に多く用いられるようになり,そのメタリック塗装をCG上で再現することで,製品の開発やデザインなどを支援することができます.しかしメタリック塗装に含まれる光輝材の微細な形状や配置を正確に測定しCG上で再現することは,多くのサンプルからのデータが必要となり非常に困難です.そこで本研究では,シェーディング言語を用いた簡易多層モデルにより,少ないデータとパラメータからメタリック塗装の再現を行いました.本研究ではメタリック塗装を,物体の表面にカラー層,光輝材層,クリア層を施したものとします.カラー層では,鏡面反射モデルと拡散反射モデルを用いて,塗装の下地の色を表現しました.光輝材層では,鏡面反射モデルとバンプマッピングを適用することで面法線の向きを変更させ,擬似的に光輝材の表現を実現しました.クリア層では,鏡面反射モデルを用いてハイライトを表現しました.実験結果から,生成モデルの各パラメータの値を変更することで光輝材による反射の効果を表現できることが確認できました.
メタメリズム生起のための分光輝度のHDR計測
2011年卒業論文,研究実施:中村 一貴
近年,チョークアートやネイルアートといった新たなアートが誕生しています.そこで,メタメリズムを制御することで新たなアートの作成を目指しました.メタメリズムとはある光源では同じ色に見える二つの物体が,違う光源では異なる色に見える現象です.この現象の制御は光源と物体のスペクトルデータを用いることで行いますが,ハイパースペクトルカメラで取得したままのスペクトルデータはノイズや検出範囲の限界により,正確なデータとは言えません.よって露光を変えた複数のスペクトルデータを取得し,それらを最小二乗法を用いてHDR合成することで,より正確なスペクトルデータを取得しました.これにより,取得時のままのスペクトルデータを用いた場合よりもはっきりとしたメタメリズムの生起に成功しました.
幾何学的統計量に基づく3次元形状鮮鋭化フィルタの最適化
2011年卒業論文,研究実施:横溝 将成
本研究では3次元形状データに対してバイラテラルフィルタでのノイズ除去を行い,LoGフィルタを用いて鮮鋭化を行います.3次元形状の先鋭化は,風化してなめらかになってしまった文化財を3次元計測し,それをもとに制作当時の形状を推定することに利用されます.鮮鋭化の際のパラメータにより出力結果の精度が大きく変化するため,最適な鮮鋭化を行うためのパラメータの推定が本研究の目的となっています.最適なパラメータの推定方法として,本研究では対象となる風化した文化財と同年代,または同じ作者の文化財で,エッジが良好に残ったままものを計測し,よりそのエッジ部分の鮮鋭度に近づくようにパラメータを推定することで可能となります.本実験では2つの角材を用意し,1つの角材の角をなめらかにしたものの3次元データをもう1つの角材の形状に近づくように鮮鋭化を行いました.結果として,図のように鮮鋭化後の形状が元の角材の形状に近い形状に変化しました.

2010年度

カメラ較正法に基づく原爆きのこ雲の形状推定
2010年修士論文,研究実施:小川文夫
1945年,広島と長崎に投下された原子爆弾は多大な被害をもたらし,今なお多くの人々がその後遺症に苦しんでいます.被災地域は正確に特定されておらず,補償を受けられていない被爆者も多く存在しています.特に,きのこ雲から降った黒い雨に関しては,実際に降った地域よりも狭い範囲しか認定されていません.その一因として,きのこ雲の高さが正確に推定されていないことが挙げられます.本研究ではカメラ較正法(カメラキャリブレーション)に基づいて,きのこ雲の写った写真から海岸線や水平線を元に,写真が撮影された位置の推定を行いました.また,推定された視点位置などの情報から,雲の形状を扁球により近似し,推定された形状から雲の高さや幅を求めました.推定された数値は観測における誤差を含んでいるため,統計的手法を用いて有意検定を行うことにより,観測誤差や雲の位置の変化に伴う高さや幅の最小値・最大値を求め,現存しているきのこ雲の写った写真における時系列変化の推定を行いました.
多重散乱光を考慮した関与媒体のレンダリング
2010年卒業論文,研究実施:石丸功一
煙・霧・雲・炎・塵の充満した大気などの自然現象では,一定の領域を満たしている微粒子によって,光の吸収・散乱が何度も起こります.また,濁った水晶などの完全に透明でもなく不透明でもない物体でも,物体表面から物体内部に入り込んだ光は,物体内部で散乱を繰り返し起こします.このように物体内部で光の吸収・散乱が繰り返される物体は『関与媒体』と呼ばれます.したがって,関与媒体を物理的に正しくレンダリングするには物体内部での複雑な光の散乱と吸収を計算することが不可欠です.しかし,物体の散乱特性にあった散乱した光を物理的に正しく再現するには,複数のパラメータを散乱特性にあわせて設定する必要があります.このことが,関与媒体のレンダリングを容易にできなくしている要因の1つになっています.そこで,本研究では物体内での散乱の特性を表すパラメータが関与媒体のレンダリングに与える影響について調べました.
光線空間法を用いた実写画像からの非中心投影レンダリング
2010年卒業論文,研究実施:立野翔平
本研究では実物体を対象とし,実写画像を用いて,その実物体を複数の視点から見たような画像を生成しました.背景として,多視点絵画のような画像の歪みについて,単一の物体を多方向から見ることが,変形させた空間にある物体を一方向から見たことに等しいという考えにより空間の変形として解釈を行うことをCGモデルを用いた研究があります.実空間のCGモデルデータすべてを得ることは難しいので,実写ベースのレンダリング手法のひとつである,光線空間法を用いました.光線空間法は,あるシーンをレンダリングするとき,予めシーン中を飛び交う光線を視点位置情報を用いて計算しておき,それらの光線の中からその視点に届く光線を取り出し画像平面上に並べるというものです.通常の光線空間法では,カメラを格子状に並べたカメラアレイ等の装置を用いるのに対し,本研究では視点位置が既知でないカメラから撮影された画像を用います.本研究では知能工学のアプローチとして,写真を用いて写真のような絵画を描くスーパーリアリズム絵画が描かれるまでのメカニズムの解析の一助になると考えています.
メタメリズム生起のためのスペクトル解析に基づく顔料調合
2010年卒業論文,研究実施:平松実佳
近年,チョークアートやネイルアート,サンドアート,トリックアートといった新たなアートが誕生しています.また,それらは注目され,町おこしに役立っているものもあるといいます.そこで本研究ではメタメリズムの特性を用いた新たなアートを作成したいと考えました.メタメリズムとは,ある特定の光源下で同じ色に見えるものが,それ以外の光源下では異なる色に見える現象です.複数の光源の中から2種類の光源を選択し,その光源下でメタメリズムの生起する2色を探索する手法を提案します.2色は三刺激値の差を用いて探索し,油絵の具を調合することによって作成します.手法を用いて実験を行った結果を図に示します.左図が赤い光源を照射している状態,右図が黄色の光源を照射している状態です.赤い光源下では2色が同じ色に,黄色の光源下では異なる色に見えることを確認しました.
画像劣化に頑健な位置合わせ手法に基づく原爆きのこ雲動画像のモザイキング
2010年卒業論文,研究実施:松丸寿子
アグニュー映像は,広島に投下された原爆により生じたきのこ雲の様子を撮影した貴重な動画像ですが,航空機から撮影を行ったため,手ブレ,露光ブレが生じています.きのこ雲の高さや幅,位置などを解析するため,本研究室では動画像から一定の間隔で静止画を抽出し,各画像の 雲の位置を合わせ,広範囲が写った静止画を生成しました.しかし,位置合わせの際のズレや露光ブレした画像の影響により静止画にはぼやけが生じてしまいました.本研究では露光ブレした画像を取り除き, 雲の位置合わせの精度向上による鮮明な静止画の生成を目的としています.位置合わせにおいては,2 枚の画像の類似度が最も高くなるよう,テンプレートマッチングで粗い位置合わせを行い,さらに非線形最適化でより細かな位置合わせを可能にしました.位置合わせの精度の良い画像を用いて,モザイキングにより画像を繋ぎ合わせ,空や地面,鮮明な雲など広範囲が写った 1 枚の静止画を得ることができました.