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週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。
内容は紙雑誌掲載当時のものですので、詳細の状況等は変わっている場合があります。ご了承ください。

週刊ゴルフダイジェスト 9/3号
2002年更新
ドライバー反発係数規制がようやく決着
5年限定の“上限0.86案”は立ち消え
 小誌でも折に触れて報じてきたドライバーの反発係数規制問題。5月9日、米国ゴルフ協会(USGA)とロイヤル・アンド・エンシェント(R&A)の両団体間における合意、そして提案内容の突然の発表は各方面に波紋を投げかけたが、8月6日(英国時間)、前回の提案内容に修正を加え、ようやく最終合意案が発表された。

 まず、5月の合意提案内容を簡単におさらいすると、プロ競技等では、ドライバーのクラブフェースの反発係数(COR)の上限を0.83に、一般アマについては、来年から5年間限定で上限を0.86に定めるとしていた。しかし、R&A傘下で反発係数規制のない日本では、5月の時点ですでに自社測定で0.86を超えるドライバーが数社から発売されており、まだ提案段階にもかかわらず、上限0.86という数字があたかも決定事項のように独り歩きした。結果、それらを購入した一般アマが不利益を被るのではと心配され、混乱を招いていた。

 そうした事態に、ユーザーへの影響と混乱を懸念した国内のメーカー各社は、日本ゴルフ用品協会(JGGA)、日本ゴルフ協会(JGA)とミーティングを開き、JGAはR&Aに対しおおよそ次のような意見書を提出して“抗議”した。

『2000年9月の発表ではCOR値制限を設けないとしていたのに、なぜ突然それを設けることにしたのか? その発表にもとづき、日本のメーカーはCOR値の制限にこだわらず0.86を超えるドライバーを発売しており、突然来年から0.86が上限とされたら、経営的にも消費者にも様々な問題が発生するので少し猶予期間を設けるべきだ』(要約)

 JGAは「世界でも日本はアメリカに次いで大きな用品市場のはず。それなのに何の事前通告もなく、5月にああいう唐突な形で発表されたことについては大変遺憾です」(事務局長代行・塩田良氏)と、決定内容のみならずとくに合意案決定に至るプロセスについてはかなり不満を抱いていた。そして、今回の修正発表である。こちらは最終合意で、基本的な柱は、(1)日本などR&A傘下の国では、一般アマに関しては07年末までは従来通りCOR値規制を行わなわず、08年から0.83を上限とする、(2)上級選手対象の競技では来年からCOR値を0.83に定めることができる、というもの。

 R&Aからのリリースによれば、今回の修正理由について『用具規則が世界で一本化されることは歓迎するが、5月の提案は今回のルール過渡的調整案を伴う不十分なものだった。また、現在のCOR値テストに替わる簡便なテスト方法がなかったことも懸念を呼んだ要因』としており、JGAでは「メーカー、用品協会、私どもで提出した意見書が今回の修正に影響を及ぼしたと聞いてます」(事務局)と話す。

 高反発をウリにしたドライバーを発売していた国内メーカーの立場としては、“0.86騒動”に振り回された怒りは残るだろうが、現実的には一般アマについては07年までは、COR値の上限がなくなったことが正式に決まり、ホッと胸を撫で下ろしているはず。あとは「どのレベルの競技までを上級選手対象の競技とするかについて、できるだけ早急に決めようと思います」(事務局)というJGAの決定を待ちのみで、一時的に収まった感のある“高反発競争”もまた再燃しそうだ。

高反発ブームが予想されていた米は混乱

 今回の合意案修正で、大きな影響を受けるのはむしろ米国のゴルフ用品界だろう。つまり、これまでプロも一般アマも上限0.83だった規制が、5月の提案発表時点では、プロはそのままだが、一般アマについては5年間限定で0.86まで引き上げられることになっていた。

 ところが、「0.86までを5年間に限って許可するという内容は、ゴルファーをはじめ、ショップやメーカーに混乱を招いた」(W・ドライバー、USGA用品・ボール委員長)ということで、今回、米国ではすべてのゴルファーに対して、現状通り、反発係数が0.83までで統一されることになったのだ。

 一説には、ヘッドスピードの速いプロやアマチュアの飛ばし屋ならCOR値0.86のドライバーだと0.83のものに比べ、15ヤード前後飛距離が伸びるともいわれている。それだけに、米国では5月の発表以来、5年間限定とはいえ、来年から高反発ドライバーが解禁になるということで、各メーカーがこぞって、高反発ドライバーを開発し、早いところではすでに販売を開始していたのだ。

「この“ごまかし”には当惑を覚えるばかりだ。どうしてルールを作るような頭の良いはずの人たちが、データを見ずに感覚でルールを作ってしまうのか、理解に苦しむ」と怒りを隠さないのはキャロウェイゴルフのCEO、R・ドラポー氏だが、同社にすれば、今春以降、高反発ドライバーの象徴ともいえるERCIIを、来年からルール適合となるということで、大々的にプロモートしており、これが一転、米国ではやはり違反になるというのでは怒るのも無理はないだろう。

 同氏によれば、この10月にも反発係数が0.83以下のビッグバーサIIの販売を開始する予定だが、5月9日の提案発表以降、ERCIIを米国で購入したゴルファーは、今後は同社の他のドライバーと無料で交換に応じる予定というから、こうした面での損害も無視できない。一方、高反発ドライバーの500シリーズを販売していたテーラーメイドも「すぐにというわけではないが、COR値の低い500シリーズをできるだけ早く市場に出して、切り替えていきたいと思っている。公式決定は数日中に発表する予定だが、すでに高反発クラブを購入した顧客に対しては、どうしてもといわれれば返品を認めざるを得ないかもしれない」(同社米国プロダクトマーケティング・山脇氏)とし、こちらも混乱を隠せないでいる。

 すでに販売されているもの以外にも、来年の解禁に合わせて、米国の多くのメーカーは、すでに高反発ドライバーの開発に巨費を投じてしまっており、高反発ドライバーを販売していないタイトリストのように「ゴルファーやゴルフ界にとって良い決断」(W・ユーライン会長)と今回の修正内容を高く評価するメーカーもあるが、大方では、あまりに予想外の決定に混乱をきたしているといっても過言ではない。

 これに対し、USGAのD・フェイ専務理事は、メーカーサイドに同情しながらも「5月9日の発表は、あくまで提案で結論ではないことは誰もが知っていたはず。(これで損失が出たとしても)メーカーの勝手なフライングの結果」と冷たく言い放つ。

 それにしても、USGAとR&Aがこのようなドタバタ劇を演じることになった背景には何があったのか?

 ひとつには、米国内の各地区のゴルフ団体などが、自ら主催する大会では、違反クラブどうかを試合会場で図る手間などを考えると事実上判断が不可能なので、一般アマレベルの競技でも来年からの5年間も0.83を超えるドライバーの使用は禁止を表明するなど全国的に反対の圧力がかかったことがある。

 さらに、ある用品業界関係者によると「7月15日までに日本のメーカー数社がCOR測定のためR&Aにドライバーを送っていますが、恐らくその中に本来、USGAがその存在を想定していないはずの0.86を超えるクラブが何点かあったのでは。しかし、R&Aがすでにルール適合と認定しているものを違反とすれば裁判沙汰となる可能性もあるし、かといって今さら数値を変えられなかった」といった事情が、今回の修正の背景にあるというのである。

 真相は藪の中だが、よくよく考えれば、今回の修正案はごく当たり前のアイデア。最初から0.86の上限を期限付きで設けるような複雑な案を発表しなければ済んだ話。今回、決定に至るプロセスでまったく蚊帳の外に置かれた日本のゴルフ界。確かに日本側の反対も今回の修正に大きな影響を与えたのも事実だが、今回の騒動を契機に、今後は後手後手に回らないよう、もっと早い段階でイニシアチブをとってほしいものだ。

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