第30回「人工芝」

「人工芝」…日本のフットサルコートの多くが人工芝のピッチを採用しているが、これは日本オリジナルの発想だった。現在では大きく分けて2種類の人工芝ピッチが存在している。


人工芝ピッチを
仕掛けたのはあの人

私たちが、普段フットサルコートで当たり前のように目にしている人工芝のピッチ。実はこれは海外から持ち込まれたスタイルではなく、日本から生まれたもの。最近はあまり認識されなくなった事実だ。

僕は2005年の頭に、フットサルネットさんと共同でサッカー雑誌ストライカーから「フットサルの達人」というムックを出したのだが、このとき人工芝ピッチの仕掛け人としてインタビューさせていただいたのが、あのスポーツナビを立ち上げた、広瀬一郎さんだった。

広瀬さんが電通でFIFAの担当をされていた当時に、フットサルは誕生した。広瀬さんが、これを日本に広めようと考えたとき、知り合いの人工芝メーカーから「人工芝を使った新しいスポーツを考えてくれ」といわれていて、「フットサルを人工芝で」というアイデアが浮かんだのだという。

早速千葉県で第1号の人工芝フットサルコートを作った後、今度はテニスコートからの転用という案を思いついた。そこで都内に第2号の人工芝コートを作る。ここはテレビのバラエティー番組でも使われたりして有名になり、以後全国各地で次々と人工芝のフットサルコートが作られることになった。

フットサルは本来、屋内の木やウレタンのピッチで行われるものであり、人工芝ピッチでの公式戦は基本NGになっている。しかし、この人工芝ピッチは、フットサルブームの大きな火付け役になった。

当時は、草レベルでボールを蹴るとなると、土のグラウンドでサッカーをやるのが通常。これ、一般の人から見れば、「キツイ、汚い、危険」のまさしく3Kである。だが、人工芝で行うフットサルが誕生すると、まず土とは違って「汚れずにすむ」と喜ばれた。

激しいチャージや、スライディングタックルなどを禁止する、当時のルールも後押しし、フットサルは「汚れずに、気軽に、楽しく汗をかけるミニサッカー」として、広まったのである。プレーから離れていたサッカー経験者が続々とフットサルコートに集まるようになり、またそれまでボールを蹴ったことがなかった人々も、「サッカーの疑似体験」をしたいがために、フットサルコートを訪れるようになった。


今は大きくわけて2種類
どのタイプが好きですか?

初期のブームから約10年が過ぎ、今、ピッチの人工芝の種類は大きくわけて2つあるようだ。

一つは毛足が短く、比較的明るい色の人工芝で、芝の中に砂が一緒にまかれているもの。耐久性に優れているとのことで、コスト面から考えるとコート側にとっては重宝されるもののようだ。

砂入り人工芝は、足元が滑りやすい難点がある。特に毛足が短い人工芝は、年月が経つとたくさん踏まれることで芝が寝てしまうから、余計にたくさんの砂が浮き、さらに滑りやすくなる。

ただ、この「滑る」というのは、実は人それぞれ。適度に滑ってくれたほうが、逆に芝が引っかかって足を取られ、足首、ヒザなどの関節をやられることがなくていいという人もいる。ここは、好みが分かれるところなのかもしれない。

もう一つは「ロングパイル」と呼ばれる、毛足の長い人工芝で、色も濃い緑ものが多い。最近ではサッカーのピッチでも採用されることが多く、本当はサッカースパイクを履いてプレーできる。もっとも、フットサルコートとしては、芝が傷みやすいなどの理由で、スパイクシューズを禁止しているところがほとんどのようだが。

ロングパイルにも下層部に砂がまかれているらしいのだが、その上に細かいゴムチップがたくさん入っているのが特徴だ。靴の中に必ず入って、自宅にお持ち帰りしてしまうアレ。色が移りやすいみたいで、黒いゴムチップなんかだと、白いボールがあっとう間に真っ黒になってしまう。

ロングパイル人工芝は、絨毯のようにやわらかく感じ、体にやさしい感じがするのがなんともいい。転んだり、倒れたりしたときの痛みはあまりない(はず)。ただ、芝が深いために、ボールの走りはあまりよくないし、意外と疲れる! と僕は感じている。

実はもう一つ、人工芝ピッチには毛足の短いタイプで砂が入っていない、「砂なし人工芝」というものがある。この人工芝ピッチを採用しているコートを見ると、僕は「あっ、本格派だな」とか思ってしまう。

なぜなら、木やウレタンピッチと似た感じで、ボールが非常によく走ってくれるからなのだ。以前は競技フットサルのトップチームが、体育館を練習場として確保できないときに、普段プレーするピッチに近いからと、この砂なし人工芝のピッチでの練習にこだわっていた時期があった。

ところが、この芝は耐久性が悪いらしく、数年すると芝が寝てピッチ自体がカッチカチに堅くなってしまう。競技系の人たちにとっては、むしろ堅くてボールが走ったほうがよかったりもするのだが、一般の人にとっては、転んだり倒れたりしたときのケガが心配だ。

そこでクッション性を少しでも高めようと、後になってから砂を入れたりするコートもあるのだが、そんな状況だからすぐに砂が浮いてしまい、先述のとおり今度は「足が滑りやすい」問題が出てきてしまうのだ。

それぞれに長所、短所がある人工芝だから、プレーヤーの方たちは、ピッチによってシューズを変えたり、プレーを変えたりして、うまいこと楽しまれていることと思う。

だが、めくれている芝をなかなか修理してくれなかったり、明らかに耐久年数を過ぎているのに、芝の張替えを引き伸ばしたりと、せっかくの日本フットサル界の偉大な文化「人工芝ピッチ」に対していい加減なところもある。自分のお気に入りコートがどんな感じの人工芝だったか、今一度チェックしてみるといいかもしれない。せっかく高いお金を払って使用しているですから。

そうそう。人工芝といえば、昼間の日差しの照り返しがすごくありませんか? 僕はワンデイ大会などで半日フットサルコートにいると、顔がすぐに真っ赤になってしまいます。これからの時期、みなさん、人工芝焼けにご注意を!

プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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