一つ目は1991年、MayhemのヴォーカリストDeadの自殺。
同じくMayhemのギタリストEuronymousがDeadの死をきっかけとし、現在のブラックメタルのイメージ・方向性というものを固めたのは間違いない。
Euronymousはアンチ・デスメタルを標榜し、自らオープンしたレコード/CDストアHelveteで、若いメタルファンたちの洗脳を開始した。
その洗脳の最初の結実とも言える、人気テクニカル・デスメタルバンドDarkthroneのブラックメタル転向が第二段階であり、これにより当時エクストリームメタル界では最も人気のあったデスメタルのファンたちに、ブラックメタルというものの存在を知らしめることになった。
そして第三段階、ブラックメタルを一気にメジャーな存在に押し上げる決定打となった事件。
1993年3月、イギリスの音楽誌Kerrang!による突然のブラックメタル特集だ。
Varg Vikernes
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Burzumデビューアルバム
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Zippoライター付もリリースされた
Burzum / Aske
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自分が焼いた教会をジャケットに
何故メジャー音楽誌が突如、まだまだマニア向けの音楽でしかなかったブラックメタルを特集したのか。ファイル 26-3.jpg
Burzumデビューアルバム
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Zippoライター付もリリースされた
Burzum / Aske
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自分が焼いた教会をジャケットに
これについて語るには、まずBurzumというバンド、というよりもVarg Vikernesという人物について触れなくてはならない。
Darkthroneが突如ブラックメタルアルバム"A Blaze in the Northern Sky"をリリースした92年、Burzumもデビューアルバムを出している。
レーベルは、EuronymousのDeathlike Silence Records(以下DSP)。
DSPはDarkthrone所属のPeaceville Recordsとは比べものにならない弱小レーベルであったため、Burzumのデビューはエクストリームメタル・シーンへの衝撃という点では、Darkthrone転向のそれに遠く及ばなかった。
だが、ブラックメタル・シーンの形成という点においては、Burzumの果たした役割は、Darkthroneの比ではない。
元々ロックやへヴィメタルというのは反キリスト的、悪魔主義的な側面を持っていたが、それはあくまでイメージ上のこと。
だが、ノルウェーのブラックメタルバンド達は違った。
彼らは反キリスト主義というものを「実行」、その中心にいたのがBurzumのVarg Vikernesだったのだ。
反キリスト主義を実行するというのは、悪魔に関する書物を読むとか、そんな小さなことではない。
彼はノルウェーでも名のある、12世紀に建造された歴史的なキリスト教教会を含む、複数の教会を焼き討ちにして見せたのだ。
そして、そのようなVargの行動に賛同する者が多く現れたのである!
元々Helveteはエクストリーム・メタルファンの集う場所であった。
ところが、いつしかそれが犯罪者の巣窟になってしまったのだ。
Vargに触発され、教会に放火、その他墓荒らし、聖職者襲撃なども行われ、やがてHelveteに集まる者たちは「インナー・サークル」と呼ばれる、より悪質な犯罪を犯した者が尊敬される恐るべき集団となったのだ。
しかもそれらの犯罪は、秘密裡に行われたのではない。
Vargは93年1月、ノルウェーの大手新聞Bergens Tidendeの記者に対し教会を焼いたことを認め、放火は今後も続くであろうと予告したのだ。
Vargによれば、これはブラックメタルの宣伝のためであったというが、当然記者は警察に即通報、Vargは逮捕された。
(Vargは有名な弁護士を雇い、この時は証拠不十分で釈放となっている。)
この一件を大きく取り上げたのが、Kerrang!のブラックメタル特集であった。
すなわち、音楽的な理由でメジャー誌がブラックメタルに目をつけたわけではないのである。
サタニックなメタルバンドが教会を焼いて回っている!内容としてはそんなレベル。
しかし何しろ超メジャー誌の表紙がVarg、中身も4ページに渡るブラックメタルの大特集。
インパクトがないわけがない。
この一発で、エクストリームメタル・シーンはブラックメタル一色に染まったと言っても過言ではない。
世界中からコープスペイントを施したバンドが現れ、コープスペイントをしてさえいればディールが取れるなどと揶揄されたほど、ブラックメタルブームは凄まじい勢いとなった。
だが、ブームというのはいずれは終わる。
それがブームの宿命だ。
だがブラックメタル・ブームの終焉は、他のブームのそれとは大きく違っていた。
ブラックメタル・ブームを終わらせたもの。
それは殺人であった。
CREDIT: Sigh 川嶋