最近、文房具屋さんを見ると、どこの店でも水性ボールペンの売り場はずいぶん減っている。絶滅の危機……という印象すらある。


代わりに増えているのは「ゲルインキ」、さらに「油性ボールペン」も再び息を吹き返したように見える。

そもそも、かつてはボールペンというと「油性」だけの時期があり、その後、水性ボールペンの登場によって、とって代わられた印象があった。
そんな水性ボールペンが、なぜ減ってしまったの? 水性ボールペンの歴史について、日本筆記具工業会に聞いた。

「水性ボールペンは、1964年にオートが最初に開発したのが始まりです。広く普及しはじめたのは、72年にボールぺんてる(ぺんてる)が発売されてからとなるでしょう」
これまでの油性ボールペンと違い、さらさら書けて、滲まず、裏写りしない「水性ボールペン」の登場は画期的だった。
ちなみに、73年生まれの自分をはじめ、いま30~40代の人にとっては、「ボールペン=水性」というイメージを持っているのは、この「ぺんてる」の人気による部分が大きいよう。

とはいえ、水性ボールペンには、「徐々にインクが薄くなる」「インクがどれだけ残ってるかわからない」などの問題点もあった。
そこで、開発されたのが、油性と水性の「いいとこどり」した「水性ゲルインキ」である。

「ゲルインキボールペンの開発はサクラクレパスが最初で、1984年の発売でした。 これも広く普及しはじめたのは90年代に入ってからで、なめらかな書き味と多色化がヒットの要因だった思います」

さらに、このヒットをきっかけに、メーカー各社によるゲルインキボールペンの新製品開発競争が始まった。

ボールペン出荷数量推移のデータ(出典:雑貨統計/繊維・生活用品統計)によると、1985年時には油性ボールペンが512,336千本だったのに対し、水性は394,235千本。この売り上げが逆転したのは、1993年で、油性602,425千本に対し、水性が658,809千本。

2000年時には油性ボールペン507,738千本に対し、水性ボールペン1,381,293千本と、圧倒的な差を誇るまでになった。

とはいえ、「水性ボールペン」人気を支えていたのは、ゲルインキの台頭であって、その分、従来の水性ボールペンは着実に減っていくこととなったという。
「その後、ゲルインキボールペンは海外でも高く評価され、2000年まで大きく販売数量を伸ばしてきました。ただし、それ以降は安い中国製品に海外市場を取られた形になっています」

ところで、水性ボールペンに完全に抜かれた存在になっていた「油性ボールペン」も、最近再び売上を伸ばしている。
「最近、ジェットストリーム(三菱鉛筆)やアクロボール(パイロットコーポレーション)のように、従来の油性ボールペンとは違った、『滑らかな書き味の新しいタイプの油性ボールペン』が登場してきましたので、これらが新しいブームを起こすかどうかを注目しているところです」

いまや売場の片隅の小さなコーナーにひっそりある、従来の「フツウの水性ボールペン」。ちょっぴり寂しい存在です。

(田幸和歌子)