2011.03.11.東北地方太平洋沖地震の
 

前兆現象に関するアンケート調査
 

最終まとめ

 

20111031日 石渡 明

 

[東北大学東北アジア研究センター] [石渡ページ] [東北大学防災科学研究拠点]

[東北大学理学部地球惑星物質科学科・大学院理学研究科地学専攻] 

[地震前兆現象アンケートのお願い] [地震の前兆の可能性がある自然現象]

[明治・昭和三陸地震津波の前兆] [2011年東日本大震災の前兆の可能性] [前兆アンケート中間まとめ]

2011年11月03日作成、2013年10月07日更新


  目次

A. 東北地方太平洋沖地震の前兆現象に関するアンケート結果

B. 8月に出版された地震の前兆に関する本の内容について

C東北地方太平洋沖地震の「誘発地震」の前兆について

Dニュージーランドのクライストチャーチの地震の前兆現象について

E.地震発生と月齢の関係について

F.2011年3月9日の発光現象について


 

A. 東北地方太平洋沖地震の前兆現象に関するアンケート結果

今回のアンケート調査で私宛てに寄せられた情報は次の5件でした.情報をお寄せ下さった方々に厚く御礼申し上げます。なお,震災後の引っ越しや工事,停電などによるメールサーバーの不調のために受信できなかったメールがあるかもしれません.もし,こちらに情報を送付したのに,ここに掲載されていないという方がいらっしゃいましたら,お詫びいたしますとともに,どうぞもう一度お知らせ下さるよう,お願いいたします.

1.【岩手県南部】名村栄治氏の「先人の知恵に学ぶ津波対策」(仙台郷土研究 復刊第361号(通巻282号),20116月)に「陸前高田市では約1ヶ月前から、朝夕、カラスの群れが空を覆い、市民の間でちょっとした話題になっていた。単なる偶然なのか、それとも災厄を告げる不吉な予兆だったのか、今となっては知るよしもない。」と書いてあるとのことです(東北アジア研究センターの教授からの情報).

2.【青森県】「東奥日報の324日付けの社会面の記事に、八戸市内の五戸川にて今年1月に大量のナマズがかかったという話が掲載されています。私はその記事のコピーを東奥日報の方から頂きました。これが地震の前兆と言えるかどうかは分かりませんが、そのような話があったことをお知らせいたします。」(2011713日,東京都豊島区の男性からの情報.この人は仙台駅東口のコーヒー店で311日の地震を体験されたそうです).

3.【福島県】「福島県立医科大学(福島市)の通気式電離箱のデータを用いて,東北地方太平洋沖地震前の大気中ラドン濃度変動を解析した.屋外空気中のラドン濃度に関係する通気式電離箱での測定指示値は,年周変動しながら経年的に減少する傾向にあったが, 2010 6 月頃から年周変動のパターンが崩れるとともに増加傾向に転じた.同年12月初旬からは指示値は減少を始めたが,その後東北地方太平洋沖地震の本震時までほぼ一定の値で推移していた」.東北大学理学部地圏環境進化学教室の長濱裕幸教授からの情報です(同教授ほかの研究成果報告書からの引用).

4.【宮城県北部】「311日の地震の3日前(38日?)に塩釜市の貞山堀で,ボラが網ですくえる程たくさん泳いでいた」という情報が寄せられました(東北大学理学部地学系職員が友人から聞いた話.私はこの職員から823日頃聴取).この件について,東北アジア研究センターを数年前に退職して塩釜市に在住の本学名誉教授に確認したところ,次のような答えを得ました.「塩釜港あたりの貞山堀におけるボラについてですが、ここでボラの群は時々見かけますが、3.11前に、その大群が見られたかどうかはわかりません。もっとも添付した写真(省略)のように本塩釜駅前あたりでは津波の一日後、駅前通りにボラが泳いでいるのは見かけました。また、写真はとっていませんが、貞山堀あたりではボラの多数の死骸が散在していました。」ということで,地震前にボラが「網ですくえる程たくさん泳いでいた」のは多分事実だと思いますが,それが異常なことか否か,地震の前兆か否かは,よくわかりません.

5.【宮城県北部】大崎市古川の女性から地震雲に関する多数の情報をいただきましたが,残念ながら311日の地震の前兆の地震雲については,携帯電話のメールの記録が既に消去されていて,よくわからないそうです.この方はご自宅で被災され,家の中ではクローゼットが倒れ,家の外では温水器が破損して水道管から水が噴き出したとのことです.

 

B. 8月に出版された地震の前兆に関する本の内容について

中間まとめ713日現在)を行った後で、「地震は予知できるか 次の巨大地震を教える150の前兆」(別冊宝島,2011812日発行)が出版されました.この本に記述されている東北地方太平洋沖地震の前兆に関連する内容を簡単にまとめます。

この本は,地震の前兆と考えられる現象について,日本や中国の地震の例を挙げて解説したものです.しかし,東日本大震災の前兆現象についての情報はあまり多く採録されておらず,代わりに阪神大震災の前兆現象についての話がたくさん載っています.この本の41ページには,地震予測の研究を行っている特定非営利法人「大気イオン地震予測研究会(e-PISCO)」がまとめた,これら2つの地震の前兆現象の報告数を,種類別に円グラフで比較しています.報告の総数をみると,阪神大震災が1711件であるのに,東日本大震災はわずか91件で,約1/20です.震源域の長さでは東日本大震災(500 km)の方が阪神大震災(40 km)より12倍以上大きく,被災地の人口も東日本大震災の方が多いのですが,阪神大震災の場合は震源が被災地の直下であったのに,東日本大震災の場合は震源が被災地から150 km以上離れていて,このことが地表で前兆現象が現れにくかった主な原因ではないかと思います.

報告された前兆現象の種類別の数を比べると,阪神大震災では動物関係の報告が全体の半数近く(46%)に達するのに対し,東日本大震災では21%と,大幅に割合が少なくなっています.今回の地震では,人間だけでなく動物もあまり前兆に気づかなかったようです.また,井戸水や温泉の異常,地鳴りや微動などの「地象」も,阪神大震災では11%だったのが,東日本大震災では2%しかありません.逆に東日本大震災では電気器具の異常(これは携帯電話やカーナビが普及してきたためでしょう),人間の異常(子供の行動,変な夢,体調の変化など),地震雲,雲以外の異常な天象・気象,などの割合が増えています.アンケート開始時点までの前兆情報のまとめやアンケート開始後の中間報告の中で既に述べたものは除いて,この本に掲載されている東日本大震災の前兆現象を要約して下に列挙します.

 1.【地震電磁波】井口和基さんは地震電磁波を観測する装置を用いて地震の予測を行っています.31022:49のブログの書き込みによると,「最近見かけた中では最大クラスの地震電磁波をとらえた・・・近々地球上のどこかで大きな地震が起こりそうである.噴火活動かもしれない・・・アジア日本を通る大円方向である可能性がある」と述べています.

 2.【微小地震の起こり方】「地震くるみる」サイト(地震を研究する女性が運営しているらしいが,詳細は不明)では,21009:06の書き込みで日本列島近海の海域地震が1週間〜1ヵ月後に発生すること,発生が遅くなるほど規模が大きくなることを予測.三陸沖のM7.3の前震が発生した後の3913:33の書き込みでは,「今朝から停止していた規則微動が再発・・・後続があるのではないかという疑いも」と述べ,31110:05の書き込みでは「念のため13日までは警戒とします」と述べました.

 3.【人間の感覚】岩手県の女性美容師「みゆ吉」さんは,彼女自身の耳鳴りの音により地震を予知しています.31102:27(本震当日の未明)のブログの書き込みで,「9日,10日の地震(前震)でも解消された感覚はなく,さすがの私もちょっと怖いです・・・列島も結構揺れそうですよ」と警告しました.同日14:35(本震発生の約10分前)の書き込みでも,「激しい重低音です.20058月(宮城県北部地震)の時とは違った音です・・・・まだ大きいものが東北太平洋にはいそうです」と述べました.

 4.【動物の異常】これに関しては次のような記事があります.

311日(本震当日)の朝,茨城県日立市の「かみね動物園」で2頭のアジアゾウが低いうなり声をあげていた.

3921時ごろ,猫が珍しく押し入れに入りたがり,鳴きやまず,ガリガリと爪を立てた(場所不明).

38日,ネズミが突如走り出し,長時間屋根裏を行き来していた(場所不明).

2月には珍しく死んで間もないセミの死骸を見た(場所不明).

12月ごろ,数千羽から数万羽の鳥が電線にとまっていて異常を感じた(場所不明).

 5.【電気器具の異常】愛車のGPSがいかれてしまった(場所・時間不明).

 

C.東北地方太平洋沖地震の「誘発地震」の前兆について

2011年東北地方太平洋沖地震に誘発されて複数の内陸直下型地震が発生しました.例えば長野県北部地震(31203:59M6.7, 静岡県東部地震(31522:31M6.4, 福島県浜通り地震(41117:16M7.0)などです.長野と静岡の地震については,前兆現象の記事はほとんどみつかりません.福島県浜通りでは,311日の本震後に地面から水が噴出したり、井戸水の湧出量が増えたり,地下から異常な音が聞こえたり、土地が陥没したりする異変が、特にいわき市内で多く報告されていましたが,当センターの佐藤源之教授によると、これは地下にある昔の炭鉱跡の崩落と関係しているようです。これらの現象の中に411日の誘発地震の前兆が含まれるかどうかは、はっきりしません.

 

D.ニュージーランドのクライストチャーチの地震の前兆現象について

 これはカンタベリー地震とも呼ばれ,2011222日に発生したM6.16.3とも)の都市直下型地震で,日本人28人を含む148人が死亡しました.日本人の語学留学生が建物の倒壊に巻き込まれて多数死亡したため,日本でも大きく報道され,この報道が下火になった17日後の311日に東日本大震災が発生しました.カンタベリー地震は比較的小規模な地震ですが,世界中で大きく報道されたためか,宏観異常現象がいくつか報告されています.最もよく知られているのは,ニュージーランド南島の南端にあるスチュアート島の砂浜に地震の2日前(220日),107頭のクジラが座礁したという事件です(中間報告参照).ただし,この地点は南島中部東岸にあるクライストチャーチから550 kmも離れており,例えば北海道の十勝の海岸にクジラの群れが座礁したのを仙台の地震の前兆と考えるようなものです.M6程度の地震の震源域の長さは10 km程度です.それから,地震の3日前と2日前にシドニーで異常に赤い夕焼けが見られ,これをクライストチャーチの地震の前兆とする記事もネットに載っています.しかし,クライストチャーチからシドニーまではタスマン海を挟んで約2000 kmの距離があり,しかも夕焼けは西に見えるのでクライストチャーチとは逆方向になります.また,この地震は現地時間で昼の12:51に起きたのですが,地震後に発行された日本の週刊誌によると、クライストチャーチ市内では、飼い猫が「地震の約1週間前から、『ギャアーッ』と奇声をあげたり、家の中をウロウロしたりと落ち着きがありませんでした」という住民の話を載せています.また、この週刊誌の記事によると、地震の翌日(23日)の朝,多数のハリネズミ(ヘッジホッグ)が道路上で死んでいたそうです.これは前兆ではなく、地震後の話で、もともと同市内にはハリネズミがたくさん住んでいたようです.彼らが死んだのは、震災のストレスによる可能性が高いですが、地中から浸み出したメタンなどのガスが原因だった可能性も否定できません.もしそうだとするとハリネズミだけでなくミミズなど地中で生活する他の動物も被害を受けたはずで,一部の人間や家畜も気づいたはずだと思います.また,この地域では201094日にもやや規模の大きい地震(M7.0)が発生していますが,その前兆についての記事はみつかりませんでした.一方、この記事には「月が近地点にあって、しかも満月の時は地震が起きやすくなる」というオーストラリアの気象予報士の説が紹介されていますが、日本の過去の大地震について、月齢と地震の関係をチェックしてみましたので、次の項目をお読み下さい。

 

E.地震発生と月齢の関係について
 世間ではよく、「満月のときに大地震が起きやすい」という話を聞きますが、これが本当かどうかはっきりさせるため、理科年表に発生日の日付が載っている日本の歴史上の大地震367個の旧暦日を、インターネット上の計算ソフトを使って調べてみました。旧暦は月の満ち欠けを基準にして日を数えるので、ほぼ新月が1日、満月が15日に対応します。

 1995年以前の発生日がわかっている367回の日本の地震について、5日ごとに区切って地震数のヒストグラムを作ってみると、旧暦の21日から25日の5日間に起きた地震が最も多く(71回)、6-10日と16-20日に起きた地震が最も少なくなります(それぞれ55回)。つまり、前者の期間は後者の期間よりも地震が発生する確率が30%ほど高いわけです。また、21日から翌月5日までの半月間は、6日から20日までの半月間に比べて20%ほど地震の発生確率が高くなります。これは、満月を過ぎて1週間ほど経過した下弦の月の頃が最も地震の発生確率が高く、その時期から新月の後まで比較的発生確率が高いけれども、上弦の月の頃から満月の前後にかけては比較的地震発生確率が低い、ということを示しています。
 なお、旧暦では大の月が30日、小の月が29日なので、「26-30日」の範囲にカウントされる地震は他の区間よりも平均して約半日分(つまり10%)少なくなります。これを考慮してこの区間のカウントを10%増やしてやると、この区間に起きる地震が最も多くなります。従って、「地震は旧暦の月の下旬(つまり新月の前)の10日間に最も起きやすく、比較的地震が少ない初旬や中旬に比べて、下旬は約20%地震発生確率が高い」という言い方もできます。ということで、世間で流布しているような「満月の頃に大地震が発生しやすい」という話は、統計的にみて明らかにウソであり、むしろ満月の1週間後から新月にかけての時期に地震が起きやすいと言えます。
 しかし、試みに月齢とは無関係の新暦の日付と地震発生日の関係を見てみると、やはり期間によってかなり差があり、月初めの1〜5日に発生した地震が最も多く(67回)月の半ばの16〜20日に発生した地震が最も少なくなります(49回)。そして、これら両期間の地震数の差は37%に達し、上で述べた旧暦日(月齢)による地震の多い時期と少ない時期の差よりも大きいことがわかります。このことから判断すると、上で述べた月齢と地震発生日との関係は、単なる統計的なばらつき以外の何物でもなく、月齢すなわち太陽・地球・月の位置関係と地震発生との物理的な因果関係を示唆するものではないと考えられます。さらに、地震がどの月に発生したかの頻度分布をみると、3月と8月が最も多く、2月がもっとも少なくて、その差はほぼ2倍に達します。これも単なる統計的ばらつきなのでしょう。従って、月齢と地震発生の間に何か関係があるかということについては、新暦の月や日によるばらつきよりも、旧暦の日によるばらつきの方がむしろ少ないので、地震の起きやすさと月齢の間には何も関係がない可能性が高い、というのが地震と月齢の関係についての結論です。

 

F.2011年3月9日の発光現象について(120223 トップページから移動)

福島県の人から、下記のような太平洋上での2011年3月9日の発光現象に関する情報提供がありました。2011年3月9日の午前11:45には東北地方太平洋沖地震の前震があり、宮城県北部で震度5強を記録しました。そして、その前後には同じ震源域で群発地震が起きていました。当日の福島での日の入りは17:40頃で、16:00頃はまだ夕焼けには間があり、しかも海側は夕焼けが見える西の方向とは逆です。また、雲の後ろに月があると雲が光ることがありますが、当日は月齢4で三日月に近く、月は西側にあったはずで、東側の雲が月によって光ることは考えられません。虹や彩雲の場合はオレンジ以外の色も見えるので、この発光現象とは違います。この発光現象は午後の明るい時間帯に見られたので、かなり強い光だったはずです。もしこの発光現象が地震に関連するものであれば、この時刻だけでなく、群発地震が発生していた8日〜11日頃に何回も発光現象があった可能性もあります。これらの発光現象をご覧になった方がいらっしゃいましたら、石渡までご連絡下さい(アドレスは本ページのトップにあります)。その際、年月日、時刻、場所、方向、光っている雲の色や光る範囲の大きさ・形などの様子、そしてそれらの変化など、詳しくお知らせいただくよう、お願い申し上げます。

 39日の16時頃、国道6号線でいわき市久ノ浜あたりを仙台方面に向かって運転していました。運転席側は東で海が見えます。雲の一角がオレンジ色でした。ほんの一角です。海の向こうなので違和感を感じ、「気象庁に電話しなくちゃいけない」と同乗者に言いました。車がそこを通過したら、そのあとに見た雲に異常はありませんでしたので何もしませんでした。ずっと気になっていました。一時帰宅でパソコンを持ってきたので役に立てばと思い連絡します。(原文のまま。情報提供者のご要望により匿名とします)

追記 なお、2012年1月1日の14:28に伊豆諸島の鳥島附近を震源とするマグニチュード7.0の深発地震(震源の深さ370 km)があり、関東〜東北地方の広い範囲で震度3〜4の揺れを感じましたが、東北地方太平洋沖地震の数ヶ月前にも、次の通り同じような深発地震がその地域で起きていたことに注意する必要があります。(参照

2010.11.30. 小笠原諸島西方沖,深さ480 kmM6.9,東北地方の広い範囲で震度3

(2010.12.22. 小笠原父島の東北東130 km, 深さ10 km, M7.4, 父島・母島で震度4,八丈島で津波60 cm)

2011.01.13. 小笠原諸島西方沖,深さ520 km, M6.6,震度は父島・母島2, 東北地方1

2011.03.09. 11:45に宮城県はるか沖でM7.2の地震.宮城北部で震度5強.大船渡で60 cm,石巻で50 cmの津波.

2011.03.11. 14:46にM9.0の東北地方太平洋沖地震発生.

●この発光現象の発見者からの最初の情報提供は、2011年12月30日に受信しましたが、年末だったので対応が遅れ、年明けに発見者と何回かメールのやりとりをして、年明けの1月6日頃から私のホームページにこの報告と情報提供の呼びかけを掲載しました。しかし、2012年2月23日の時点で、他の人からのこの件に関する情報提供は全くありませんでしたので、この場所に記事を移しました。この発光現象についての詳細は残念ながら不明のままです。
 


 

2011年11月03日作成、2013年10月07日更新

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