夕暮れになるとネオン瞬く大阪市内有数の歓楽街として昭和の時代を彩ってきたディープな街、十三。駅から徒歩3分ほどのところに、"ナナゲイ"という愛称で親しまれているミニシアター『第七藝術劇場』がある。前身は昭和21年に設立された"十三劇場"と"十三朝日座"というふたつの映画館。昭和47年に現在の総合ビルに建て替えられてからは、館名を"サンポードアップルシアター"として松竹の直営館として運営を続けるが平成5年に閉館。ちょうどその頃、関西で映画館を立ち上げようとしていたシネカノンが館名を『第七藝術劇場』と改め再オープンする。"月はどっちに出ている"や"幻の光"などがヒットするも3年ほどで撤退。そのまま、ビルを所有するサンポード株式会社が運営を引き継いだのだが、平成11年より事実上の休館状態がしばらく続く事となる。

再オープンを果たすのは3年後の平成14年。現在の支配人である松村厚氏にオーナーから支配人をやってもらえないか?と話が持ちかけられた。「元々、シネカノンから運営が変わった時に支配人をしていたのですが、興行の経験も無いところで上手く行くはずもなく…一度退社して"梅田プラネット"でボランティアスタッフとして働いていたんです」という松村氏は、十三から映画館を無くしてはならないと同じ思いを持つ地域の人々に出資を募り、一口株主で300万円を集めて有限会社第七藝術劇場を設立。再オープンしてから、ほどなく"元始、女性は太陽であった 平塚らいてうの生涯"が大ヒットを記録して以来、ナナゲイと言えばドキュメンタリー映画というイメージが定着した。そして、ナナゲイの名を全国的に知らしめたのは平成19年、全国の映画館が思想団体の妨害を懸念して上映を躊躇していた問題作"靖国 YASUKUNI"の公開に一番で名乗りを上げた事だった。 「確かにドキュメンタリーは多いですが、別にドキュメンタリーにこだっているわけではないんです」と松村氏は言う。






「正直、劇場を再開した時に、実績も無い映画館に目玉の作品はなかなか回してもらえなかったんです」そんな時、松村氏が出会ったのがドキュメンタリー映画だった。「ドキュメンタリーは個人で製作したものが多く、持ち込んで来る方も多かった。そこで観てみると意外と劇映画よりも面白いものがあるじゃないか…と」松村氏は"靖国 YASUKUNI"の公開に踏み切った理由についても、ドキュメンタリーをやってきたナナゲイの一本であって、たまたまああいう騒動になっただけ…と述べる。「でもそこで劇場のイメージは完全につきましたね。今ではドキュメンタリーといえば関西ではナナゲイを思い浮かんでいただけているようで配給会社から話がくるようになりましたね」

そしてもうひとつ、ナナゲイが積極的に取り組んでいるのは、若手クリエイターの作品を上映する事だ。「まぁ興行としては厳しいですけどね(笑)その代わりアベレージは決して高くないからこそ、何とかやっていける。だから、才能のある監督は紹介してあげる機会を出来るだけ多く作ってあげたいと思っています」かつては、山下敬弘監督と共に"バカの箱舟"を一緒に作っていたという経験を持つ松村氏だからこそ、若い監督にもその楽しさを感じてもらいたいと語る。

確実に十三のナナゲイから全国的に認知されてきた『第七藝術劇場』だが、再オープンから現在に至るまで決して順風満帆というわけではなかった。再オープンから3年後のミニシアターブームも下火になりつつあった平成17年、再び閉館の危機に直面したのだ。「今も当時とミニシアターの置かれている状況が厳しいのは変わらない…むしろ悪くなってきていますよ。ミニシアターブームの時に来ていた当時20代の人たちも今は40代でしょう?仕事も責任を持たされて忙しくなって映画を観ている余裕がない、だから映画から離れてしまったんです」それでは今後、ナナゲイはどう進んでいくべきなのか?「そんな答えを持っていないから皆さん苦労しているんでしょうけど(笑)まず、どうやって若い子に映画館に足を運んでもらえる工夫をするか?だと思います。せめて年に3回くらいは若い子も映画館で映画を観たくなるような施策をしなくちゃダメですよね。"たまに映画館で映画観るのもイイよなぁ"と思えるような環境作りを考えないと…」




でも映画館から離れている若い人たちでも何か引っかかるものがあるはずと、松村氏は続ける。「例えば、ドキュメンタリーは年輩の方が多いけど、最近やった"立候補"を観に来ているのは明らかに"選挙2"の客層とは違いましたからね。ほぼ若い子ばかりで、少なくとも普段映画館に来るような子じゃない。彼らにとって、どこに興味があるんだろうなぁとは思いますよ。全く問い合わせもなかったのに初日は満席でしたから。こういう現象を見ていると、若い子が映画館に来る可能性が全く無いわけじゃない」そのキッカケを見極める事が今後の重要なキーポイントになるであろうと松村氏は分析する。「例えば、学生のためにスチューデントデイを設けているのに、自分が観たいものだったら惜しみなく正規の金額でも観に来るんですよ。だから金額では決してないんです」やみくもに価格サービスをする事に懸念を示す松村氏は、その世代に合った"ナナゲイでしかやれないこと"を模索して行きたい…と最後に語ってくれた。(取材:2013年8月)

【座席】 96席 【上映】 デジタル

【住所】大阪府大阪市淀川区十三本町1-7-27サンポードシティ6F 【電話】06-6302-2073

  本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street