防災リーダーと地域の輪 第1回

"ものづくり"で交流を深める「防災かまどベンチ」

滋賀県の工業高校が始めた、災害時には「かまど」として使用できるベンチの製作を通じて地域と交流を図る取り組みは、幅広い年代がともに防災意識を高める例として注目されている。
かまどベンチ

彦根市金剛寺町グラウンドに設置された「防災かまどベンチ」通常は" ベンチ" として、災害時には" かまど" として使用できる
(写真提供 彦根工業高等学校)

地震や台風などの災害に備え、大切な命を守り、できるだけ被害を減らし、万が一被害にあったときにすぐに立ち直る力を養う―という考えから、全国で「防災教育」の取り組みが広がっている。滋賀県立彦根工業高等学校都市工学科が近隣の小学校や避難場所の公園などに「防災かまどベンチ」を設置する取り組みは、2009年、防災教育チャレンジプラン防災教育特別賞を受賞、また同年、阪神淡路大震災で被災した兵庫県などが主催する「1・17防災未来賞 ぼうさい甲子園」で奨励賞を受賞するなど、各方面から注目されている。

「防災かまどベンチ」は、災害時に"かまど"として利用でき、レンガ囲いの土台の上に、木製の座板を乗せたもので、通常はベンチとして使用できる。同校の生徒が、設置場所に出向き、小学生や地元の住民とともに製作する。基本的にすべて手作り。コンクリートの基礎づくり、レンガの積み上げ、座板の作成と仕上げ、完成後の炊き出し訓練など、工程ごとに数日間現地に通うことから、学校や地域住民との交流が深まり、地域全体で自然に防災についての意識が高まっていくことが特長だ。

活動の中心となっている同校の都市工学科は、測量技術などを学び、社会基盤施設や都市計画に生かす勉強が専門。「しかし、入学する生徒は都市工学をやりたいという目的意識をもっている生徒ばかりではありません」と都市工学科の田中良典教諭は話す。「自分の専攻に興味を持ってもらう意味で2006年ごろから、地域の安全マップづくりを始めました。生徒たちの中に、"安全"という意識が高まってくる一方で、『工業高校だからものづくりにも重点を』という教育の流れも大きかった。安全に対する意識と、ものづくりを両立させるものはないかと探している中で出会ったのがこのかまどベンチだったんです」。2008年、東京の防災関連の展示会で鋼製のかまどベンチを見つけた田中教諭は「材料などを変えれば、高校生でも作ることができる」と学校に戻りすぐに準備を始めたという。

最初の設置場所は、安全マップづくりや花壇製作などで交流があった近くの小学校に決定。安全マップの活動の中心となっていた「防災研究班」の高校2、3年生が、小学校6年生の児童を指導しながらベンチを共同製作する。「はじめは恥ずかしがって話しづらそうでも、1回行くと半日ぐらい一緒に作業を行いますから、次第に打ち解けて盛り上がってきます。生徒たちも、学校を離れての作業が新鮮なのか、回を重ねるごとに、楽しく取り組んでいるように感じました」と田中教諭。

この小学校での成果が、地元の報道機関に取り上げられると、県内各所からの問い合わせが相次ぐようになり、現在までに、5か所に8基のかまどベンチを設置した。小学生との共同作業だけでなく、避難場所の公園での設置では自治会の大人たちとの交流も経験、「災害時に使用する鍋などを収納している倉庫の近くが良い」などと設置場所についてのアドバイスも受けたという。また、生徒たちは基礎部分となるコンクリートの水の配分や練り方、レンガ積みに使うモルタルの作り方、鍋を乗せる鉄網の溶接など、工業高校らしい実技も身についてきた。

その後、防災教育チャレンジプラン、ぼうさい甲子園のダブル受賞で「防災かまどベンチ」の知名度は全国に広まった。次は、阪神淡路大震災の被災地、神戸市の小学校で設置を行うことが決まった。関東からの問い合わせもあるという。当初は、地域におけるベンチ作り程度と理解していた学校側も、その成果が現われるにつれ、今では「かまどベンチ」を通じた活動を全面的に支援してくれるようになった。1か所の設置費用は材料費のみの約3万円。これまでは防災教育チャレンジプランの支援金や、設置先の自治会が集めた費用などで賄っている。

田中教諭は「最近では、県内はもちろん、県外からの要望も多いです。設置要請の増加で、生徒や担当の教員たちの負担も増加してきました。しかし、我々は授業の一環としてやっているので、実際に出向いて設置するには限界があります。そこで、生徒を派遣しなくても、かまどベンチを製作できるような『活動の手引き』を作りました。それぞれの地元で作ってもらい、かまどベンチが出来た地域同士で交流ができるようになれば」と話す。

「防災かまどベンチ」を製作中、完成後は、訓練と地域交流を兼ねて炊き出しを行う

左:「防災かまどベンチ」を製作中の彦根工業高等学校都市工学科の生徒たち 右:「防災かまどベンチ」完成後は、訓練と地域交流を兼ねて炊き出しを行う
場所 金剛寺町グラウンド(写真提供 彦根工業高等学校)

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内閣府政策統括官(防災担当)

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