首相官邸に到着した鳩山由紀夫首相=3日午前、飯塚悟撮影
鳩山由紀夫首相が、退陣の記者会見を開かずに首相官邸を去ろうとしている。4日の総辞職後の会見も予定されておらず、このままではフリーの記者にも開かれた会見を重視したいと公言していた自分の言葉を裏切ったまま、表舞台から消えることになる。
首相は2日、民主党の両院議員総会で退陣表明した直後に秘書官を通じ、「会見はしない。(立ったまま短時間記者団との質疑を行う)『ぶら下がり取材』も今日が最後」と内閣記者会に伝えてきた。その後、記者会側の再三の要請も拒んでいる。平野博文官房長官は3日の会見で「首相の判断だ」と説明した。
平野氏は「(議員総会がテレビ)中継されたし、自分のメッセージとして発信している」と話す。2日は急な退陣表明だったため、首相周辺は「フリーを含む会見参加者を調整する時間的余裕がなかった」と説明するが、時間的余裕があるはずの4日についても予定はない。
首相が辞任に際して会見を開かないのは極めて異例だ。自民党政権時代の中曽根康弘内閣以降15人のうち、宮沢喜一、小渕恵三、小泉純一郎の3氏だけ。このうち小渕氏は病に倒れて入院するという緊急事態だった。小泉氏は党総裁の任期を全うしての退陣で、普段通りのぶら下がり取材に応じて、任期を終えた。
歴代首相の退陣会見は、その個性がかいま見える「名場面」を生んできた。
総選挙で大敗した麻生太郎氏は「大胆な経済対策を打ったことが実績だ」と、最後まで「政局より政策」を貫く姿勢にこだわった。
福田康夫氏はひょうひょうとした口ぶりに終始。記者から「ひとごとのように聞こえる」と問われると、「私は自分自身を客観的に見ることができる。あなたとは違うんです」とムキになった。
参院選大敗後に国会運営に苦しんだ安倍晋三氏は「私が首相であることで、野党の党首との話し合いが難しい状況が生まれている」と述べたが、のちに体調不良が理由だったことが明らかになった。
鳩山首相の場合は、民主党の国会議員を前に一方的に演説しただけ。その後、記者のぶら下がり取材に応じたものの、10分ほどで質問を打ち切った。
鳩山首相はもともとは、記者会見に積極的だった。記者クラブに加盟しないフリーの記者に開放する「オープン化」にも前向きだった。だが、退陣を決めて、国民に説明する意欲をすっかり失ってしまったように見える。
退陣を表明した2日、首相は簡易型ブログの「ツイッター」に「これからは総理の立場を離れ、人間としてつぶやきたい」と書き込んだ。この後、官邸近くの中国料理店で秘書官ら官邸スタッフをねぎらった。感極まって大泣きするスタッフと対照的に、首相は「これで自由だ」と漏らしたという。(岡本智、山岸一生)