メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ことば談話室

知られざる もう一つの朝日題字

山室 英恵

 校閲センター内にあるフォント部門で、文字を作ったり管理したりする仕事をしている筆者。最近では紙面で使われる見出し用の平仮名や片仮名、拗促音(ようそくおん)のデザインに手を加える作業に関わりました。

 その中で、1面で使われている「朝日新聞」という題字も記事で使われている文字と同じように「変化」していないのかが気になり、この「ことば談話室」のコーナーで創刊からの題字の変遷をたどり、別コーナーの「観字紀行」では、題字の基となった石碑の複製を山梨県の大門碑林公園まで見に行く旅に出ました。

 実は、朝日新聞では、紙面以外にも専用の題字を持っています。スマートフォンなどでデジタル版をお読みになっている方は既にお気づきかもしれません。「朝日新聞デジタル」のアプリ起動時に現れる題字です。

 この題字のデザインは紙面用の題字と少し異なります。創刊にあたり、筆者が働くフォント部門の大先輩、平原康寿・元フォントデザイナー(63)が2011(平成23)年に新しくデザインしたものです。

 ◇欄外の横題字を基に

 現在の朝日新聞の紙面には、すべてのページの枠の上(ここを「欄外」と言います)に横書きの題字が入っていますが、朝日新聞デジタルの題字の漢字はこの横題字を基にして作られました。

右横書き拡大昭和21年12月31日付の朝日新聞紙面。右横書きだった
 紙面の横題字は、現在朝日新聞で使っているフォントを最初に設計した太佐源三さん(故人)が縦書きの題字を参考にして作ったと言われています。太佐さんは朝日新聞書体の特徴である、ふところが広い見出し用活字と、本文用の扁平(へんぺい)活字をデザインしました。

左横書き拡大昭和22年1月1日付紙面から左横書きが併用され始めた
 横題字は縦に配置されていた題字をそのまま横に並べるのではなく、「日」の天地を他の文字と同じぐらいの大きさに見えるまで高くし、横幅も広くしてあります。この横題字は、1946(昭和21)年12月31日付までは右書きでしたが、1947(昭和22)年1月1日付から左横書きに変わりました。このときに、紙面内でも左横書きが使われ始めました。

 ◇ウロコの形をはっきりと

 紙面の横題字とデジタル用の題字を比べてみます。文字の縦横の比率が変わり、デジタル用は始筆や終筆が力強く、角に付くウロコの形もはっきりとしています。デザインをした平原元フォントデザイナーは「主にスマホやタブレットで表示されるということだったので、画面上でくっきり見えることを意識し、部分的に文字の太さや角度などを変えました。また、印刷されることも想定し、大きく印字されたときにも輪郭が粗くならないように、細かい部分の曲線にも細心の注意を払いました」と話しています。

 デザインの基にした横題字は欄外の極めて狭いスペースに収めるためにとても強い扁平がかけられているので、そのまま天地に文字を伸ばして正方に近い形にすると全体のバランスが崩れてしまいます。そこで、4文字の中で「日」だけが大きくなり過ぎないようにしたり、「新」の「立」部分のバランスを調整したりするなど全体的に変更を加えたそうですが、なるべく紙面の横題字のイメージを残すようにデザインをしたとのことです。

 フォントを作るにあたって、文字をじっくり見るというのはとても勉強になります。題字も朝日新聞書体も、参考にしているのは欧陽詢(おうよう・じゅん)の書。来年は欧陽詢の書のどれか一つでも全臨(全てをまねての練習)をしてみたいと思っています。

(山室英恵)