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梅雨は、時に大災害を引き起こすこともある(昨年7月、大雨による濁流に流されたJR越美北線の鉄橋=福井県美山町で) |
前回は「梅雨の発表」について教えてもらいました。普段何げなく聞いている発表にも、様々な苦労があるようです。最終回は、梅雨を知ることの「意義」について、引き続き、気象庁・天気相談所の日野修所長と一緒に考えます。
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――そういえば、梅雨の発表って昔からやっていたのでしょうか。
梅雨の時期に関する気象情報として発表を始めたのは、1986年からです。それまでは、気象情報ではなく「お知らせ」として、報道機関などに連絡していました。資料が残っていないためはっきりしませんが、1955年頃には、このような「お知らせ」が行われていたようです。
現在、「お知らせ」としているものには、「春一番」や「木枯らし一号」があります。
――海外には同様の例はないのでしょうか。
中国や韓国でどのように梅雨の情報を発表しているかは、はっきりとはわかりません。国が違えば気象情報の利用の仕方も変わってくると思います。それぞれの国に適した方法が取られているのではないでしょうか。
――やはり「梅雨」って関心が高いのでしょうか。
確かに梅雨の時期にはたくさんの問い合わせをいただきます。農業や工事関係者など普段から屋外作業に従事している方だけでなく、一般の方からの問い合わせも数多く寄せられます。
「いつごろ梅雨になりそうですか」という質問も多いのですが、梅雨入り日の予報は行っていませんので、平年の梅雨入り日をお答えしています。
――なるほど。気象現象という「生き物」を相手にするわけですから、あとは毎年の例を参考にするくらいでしょうか。
情報発表の時には「平年より○○日早い(遅い)」などの表現を使いますが、これをさらに正確にするため、毎年9月にその年の梅雨入りと梅雨明けを「検証」する作業を行っています。
――それは知りませんでした。つまり、6〜7月に出した「梅雨入り」「梅雨明け」の発表が正しかったかどうかがわかってしまうわけですね。
当初発表している各地の「梅雨入り、明け」の情報は、週間予報資料に基づいて発表しているためひとつの「予報」です。
後日、春から夏にかけてのより長い期間の天候経過を改めて見ることによって「梅雨の期間」を決定し、統計資料として季節予報などに有効に使えるようにしています。
当初発表の作業と事後検討の作業では使用する資料に違いがあります。事後検討の作業は、当初発表の評価が目的ではありません。
ちなみに、この情報もすべて公開しています。
――前回、「移り変わりの5日間」が特定できず、「入り」や「明け」が発表できない年の話がありましたが、こういう場合も9月には結果がわかるわけですね。
実はそうとも限りません。前回お話ししたとおり、すべての気象データをそろえてみてもやはり条件が合わず、梅雨が特定できないケースがこれまでに3回ありました。
最近では2003年の東北地方(南部・北部)の例があります。この年は6月12日ごろ「梅雨入り」したことはデータから確認できましたが、「梅雨明け」については結局、特定できませんでした。
――梅雨の発表を始めたのは1986年からということでしたが、何かきっかけのようなものはあったのでしょうか。
気象庁の役割の一つに『防災』があります。梅雨の期間は2カ月近くにもなり、降水量も多くなります。梅雨は水資源の供給という大切な役割がありますが、一方で大雨による災害を引き起こす原因にもなります。
「梅雨の入り、明け」の情報は、社会的に関心の高い事項です。「大雨に伴なう災害の防止に役立ってほしい」ということもあり、気象情報として発表することにしました。
「梅雨入り」の情報によって、洪水などの大災害への備えはもちろん、住宅周辺の排水路が詰まっていないか、通勤路や通学路にがけ崩れの危険がないかなど、身の回りを点検するきっかけにしていただければ、と思います。
(終わり)