12月からテレビの地上波デジタル放送が始まる。大きな特長の一つが、高精細度なハイビジョンの映像だ。画面の走査線の数が現在のテレビに比べて2倍になり、ぐっと鮮明になる。在名局でもハイビジョンカメラを使ったドラマの収録がスタートするなど放送開始に向けた準備が始まっており、現場ではクリアな画像を生かすための試行錯誤が続いている。
CBCがこの春、名古屋市中区新栄1丁目の同局に完成させたデジタル放送対応スタジオでは、昼の人気ドラマシリーズ「キッズウォー5」の収録が進む。窓際に立つ俳優井上真央をハイビジョンカメラがとらえると、モニターテレビには光の筋までもが、くっきりと映し出された。
「外光と室内光が交錯する様子まで表現できる。その効果を利用しようと窓を多めに使っています。まだ試行錯誤ですが、美術的に凝ることができるのでやりがいがあります」と堀場正仁プロデューサーは話す。
ハイビジョンは俳優の肌合いやセットの質感まで映し出す。これまで樹脂製の代用品を使っていた台所のタイルは本物に替え、壁の板も1・5ミリ厚くした。セットの費用は15%も増えた。放送は開始はデジタル化前の7月末だが、再放送もにらんでハイビジョンで収録している。
スポーツ中継でもハイビジョン放送は生きる。画面が横長のため、「スポーツは長方形のフィールドが多いので画角的にも合っている」とCBCの原裕二郎テレビ編成局長。カメラをひいてもくっきり映るため、例えばサッカーなら広い視野の画面を多用でき、フィールド全体の動きを追いやすい。野球では、メーンのカメラをバックネット裏に据え、打った瞬間から打球の方向を映し出せる。
高精度ゆえの注意点もある。NHK名古屋放送局は、00年12月に始まったBSデジタルのハイビジョン放送も念頭に、すでにニュースや情報番組もハイビジョンで撮影している。企画総務室の横井康和副部長は「通常の放送では判別できなかった車のナンバーなども分かってしまうこともありうる」と指摘する。
また、時代劇でもかつらと肌の境が鮮明になるなど高精細度な画質が難点になる。「メ〜テレ」が昨年放送し、文化庁の芸術祭優秀賞や民間放送連盟優秀賞など4つの賞に輝いた時代劇「SABU〜さぶ〜」は、最近では珍しくフィルムで撮影された。松本国昭常務執行役員は当初、ハイビジョンでの撮影も検討したという。「そのまま使うと時代劇には画面がクリアすぎて不向きだった。フィルムだとソフトで美しい映像が作り出せる」
「SABU」の撮影に使ったフィルムは劇場映画用の35ミリ。テレビでは異例だ。これまでテレビドラマに通常使われてきた16ミリワイドに比べて、表現力がはるかに高い。「SABU」は、すでにハイビジョンのテープに変換されている。高精細度で忠実な再現力のあるハイビジョンで再放送されれば、フィルムそのものに近いソフトできめ細かい映像が楽しめるはずだ。
○映像表現に新しい試みも
映像文化に詳しい愛知芸術文化センターの越後谷卓司学芸員の話 ハイビジョン草創期には、細部の表現性が優れているといわれたが、その特徴がどう生かされてきたかというと、具体的な成果はなかなか見えない。だが、最近は映画の撮影にもハイビジョンカメラが多用されるようになった。その中で新しい試みも生まれている。ハイビジョンで撮影した映像をフィルムに転写した映画「エルミタージュ幻想」は、フィルムでは膨大な量になるため不可能だった90分間の連続撮影を実現し、フィルムに見劣りしないハイビジョン映像の可能性を示した。
(06/23 19:33)
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