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花束を高々と上げ声援にこたえる高橋尚子 |
【バンコク6日=アジア総局】第13回アジア競技大会が6日、当地で開幕。開会式に先立つ陸上女子マラソンで、高橋尚子(26)=積水化学=が2時間21分47秒の日本最高記録で優勝、大会第一号の金メダルに輝いた。自身の記録を4分1秒更新し、世界歴代5位の独走だった。甲斐智子(京セラ)も3位に入った。
7日は大会が本格化。16競技があり、21種目で決勝が行われる。開会式前に1次リーグを終えたサッカーは2次リーグが始まり、日本が韓国と対戦する。メダルが期待される柔道は男子60キロ級の徳野和彦(神奈川県警)、同66キロ級の中村行成(旭化成)、女子48キロ級の真壁友枝(住友海上火災)が登場。競泳では女子400メートル個人メドレーの田島寧子(東京立正高)、同100メートル自由形の源純夏(中大)が強豪の中国勢に挑む。
◆練習の虫「神様が味方」
大阪学院大4年だった94年夏、高橋選手は、富山に行った。全国高校総体が開かれていた。大会を見にきていた当時リクルートの小出義雄監督(59)のホテルを探して待ち伏せした。
「リクルートに入れて下さい」。大学出は採らない会社の方針だから、と断られても粘った。「自費でいいから、北海道の合宿に参加させて下さい」
大学までトラック専門だったが、小出監督にロード向きと見込まれる。昨年春、一緒に積水化学に移り、今年3月、2度目のマラソンだった名古屋国際女子大会で日本最高を出して優勝。押し掛け入部の経緯がバルセロナ、アトランタ両五輪メダリストの先輩、有森裕子選手に似ていて「有森二世」と呼ばれる。
練習好きだ。監督が止めないと、いつまでも走る。162センチ、48キロ。チーム一の大食で、すしを40個以上平らげる。食欲が練習量とスタミナを生む。「素質もなくて、地道に練習するしかない。自分を強い選手とは思っていません」
レースが終わると、結果がよくても悪くても、笑顔を見せる。気温30度を超えるバンコクでも同じだった。報道陣の質問にも丁寧に答える。「前半は曇りで、神様が味方してくれたと思いました」
質問が一呼吸とぎれた。「関係ないんですけど」と、自分から切り出した。「大会前に、そっけない顔をして、いやな思いをされたかもしれません。でも私は、レースが終わったあとに笑顔を見て頂けたらいいな、と思っていました」。急に目に涙が浮かんだ。
世界的な記録で勝った直後なのに、優勝確実の重圧から、ふだんの自分らしくなかったことを気にした。
有森選手もまだ届かない五輪の金メダル。2年後のシドニーを目指す高橋選手のきまじめさは、金の夢を実現する最大の武器になる。(バンコク=酒瀬川亮介)
アジア大会開幕 政治の影は逃れられず
【バンコク6日=西山良太郎】第13回アジア競技大会の開会式は6日、当地のフアマーク競技場で午後6時(日本時間同日午後8時)すぎからあった。2大会ぶりとなる朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を含むアジア・オリンピック評議会(OCA)加盟の41カ国・地域から、選手と役員約9000人が参加。アジア全体を覆う深刻な経済不況を乗り越え、約7300人が参加した1994年広島大会を大幅に上回る史上最大規模の「アジアの祭典」となった。大会は20日までの15日間で、これまで最多の36競技377種目を実施する。
90年北京大会以来の参加となる北朝鮮、財政難を克服して94年広島大会に続く出場を果たしたカンボジア……。どの顔も笑みに揺れている。
同競技場のスタンドを、約6万人の観客が埋めた。アジアの個性と調和を表現するアトラクションに続いて選手団が入場。
計820人を送った日本選手団は、11番目に登場。ソフトボールの宇津木麗華選手を旗手に、232人が行進した。
クライマックスは聖火の点火。最終ランナーはボクシングのソムラック・カムシン選手で、タイ初のオリンピック金メダリスト(96年アトランタ五輪ボクシング・フェザー級)が大役を果たした。選手宣誓は第5回大会の自転車金メダリスト、プリーダー・ジュラモントンさんが務めた。
大会は、今回も政治の影からは逃れられなかった。クウェートへの侵攻で資格を停止されたイラク問題は先送りにされ、国内オリンピック委員会の混乱で、アフガニスタンも資格停止に加えられた。
北朝鮮は、開会式で韓国のすぐ後ろに続く行進順に難色を示した。バンコク・アジア大会組織委員会(BAGOC)は当初の予定を大幅に入れ替えた。
経済危機に直撃された各国は、エントリーを次々とあきらめ、選手団を縮小。組み合わせなどの変更を迫られたBAGOCは、開幕当日まで対応に追われた。それでも、41カ国・地域が集まった。
「エバー・オンワード」
限りなき前進を合言葉にする「アジアの祭典」は、15日間の幕を開けた。