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全入時代

高専「脱皮」へ再編

2007年10月30日

 国立高等専門学校として初めての統合計画が、このほど発表された。背景には、少子化による志願者減に加え、国からの補助金の減少や産業界のニーズの変化なども重なる。高度成長期にスタートした高専は今、大きな岐路に立っている。

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●09年、4県8校が4校に

 今回統合されるのは、宮城県の宮城工業(名取市)と仙台電波工業(仙台市)、富山県の富山工業(富山市)と富山商船(射水市)、香川県の高松工業(高松市)と詫間電波工業(三豊市)、熊本県の熊本電波工業(合志市)と八代工業(八代市)の8校。同じ県内の2校ずつが09年10月に統合する。キャンパスは残しつつ学科など組織を再編、10年4月から新しい学校のスタートをめざす。

●地元に不安も

 「リカレンジャー」。宮城工業高専自慢の実験器具を積んだトラックの愛称だ。教員らがこのトラックで近隣の小中高校に出向き、子供たちに理科実験などを披露している。市民にも身近な進学先となっている高専に今回、統合計画が持ち上がった。山崎良治事務部長は「今後も少子化が進む中で、質のいい生徒を集めるには再編が必要だと考えた」とする。

 しかし、地元の関係者は複雑な気持ちだ。名取市教育委員会の高谷隆夫・学校教育課長は「キャンパスは残るので、大きな心配はしていない。ただ、募集する生徒数が減ったり、人気学科が仙台に移ったりと影響が出ないか不安はある」。

 八代工業高専も、熊本市から35キロ離れた八代市にとって、貴重な高等教育機関だ。市教委は「合理化が進んでも、小中学校への出前授業などの取り組みは残してもらいたい」とする。

 高専制度の創設は、60年に池田勇人内閣が閣議決定した「国民所得倍増計画」がきっかけだ。計画の実行には技術者の供給が間に合わないと考えられた。大企業では指導的な技術者の補助をし、中小企業では中心的に活躍できる「中堅技術者」の養成をめざしてつくられたのが高専だ。国立高専は62年に12校でスタートし、現在は55校ある。

●交付金削られ

 卒業生の能力は、高度成長期から現在まで評価が高い。06年度の高専卒業生への求人倍率は20倍近く、大学新卒の10倍だ。

 しかし、少子化で高専も志願者が減っている。国公私立の高専全校の志願倍率は05年度に初めて2倍を割り、07年度は過去最低の1.78倍まで下がった。

 また、国立高専は、国立大と同様に国からの運営費交付金が毎年1%ずつ減らされている。交付金などの国費が収入の8割を占めるため影響は大きく、築25年以上の建物が全体の73%、寄宿舎では78%に達する。産業界が求める人材が、腕のいい技術者よりも、ITを駆使して工程を管理できる人材などに変化してきても、そうしたニーズに応える教育を行うための設備の更新ができずにいる。

 国立高専機構は1県に複数ある高専を手始めに、再編統合に乗り出すことを決めた。河村潤子理事は「工業と、商船や電波という異なる性質の学校の統合で、各校の資源を集中し補完しあうのがねらい。新しい社会のニーズに対応できる高専に脱皮させるモデルにしたい」と話す。

 こうした動きと並行して、文科相の諮問機関の中央教育審議会にも今年度、高専を対象にした特別委員会が16年ぶりに設置された。今月上旬にまとまった中間報告では、機構の計画と同様に、再編・統合を本格的に検討するよう提案している。一方で、委員の間には「団塊世代の大量退職で日本の技術力の継承が心配される今こそ、むしろ高専をもっと増やして技術者を養成すべきだ」といった意見も根強い。特別委は年内にこうした意見を調整し、今後の高専のあり方を示した最終報告書を取りまとめる方針だ。

●国立高等専門学校の歩み

 1960 池田内閣が「所得倍増計画」を策定。計画の実現には約17万人の科学技術者の不足を見込む。

   62 学校教育法が改正され、高等専門学校制度を創設。12校でスタート。

   67 富山、鳥羽、広島、大島、弓削の5商船高専が開校

   71 仙台、詫間、熊本の3電波工業高専が開校

   76 主に高専卒業生を受け入れるために長岡、豊橋の両国立技術科学大を設置

   91 高専卒業生の進学需要の高まりを受け、5年間の一貫教育後に2年間の専攻科の設置が認められる。

 2004 全国55の国立高専の運営を担う独立行政法人の国立高等専門学校機構が設置された。

<キーワード>高等専門学校

 1962年の学校教育法の改正で、工業界、産業界に貢献する実践的な技術者の養成を目的に設立された。機械や電気・電子などのイメージが強いが、学校によっては情報デザインや商船なども学べる。42都道府県に64校(国立55、公立6、私立3)があり、学生数は約5万9000人。国立高専は04年4月に法人化され、国立高等専門学校機構が全校の運営主体となった。

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