第7章 放射能調査
§1 概説

29年3月I日,マーシャル群島ビキニ環礁において米国による原爆実験が行なわれ同日同環礁の東方約91浬の地点,当時の航行禁止海面境界外の約19浬東方で,まぐろはえなわ漁操業中の第5福竜丸はその降灰を浴び,船体および漁獲物の汚染をもたらすとともに,乗員も放射線による障害を受け,不幸にしてそのうち一名は帰国後死亡した。その後同方面からの漁獲物の汚染が増大したため,政府は同年5月俊鶻鶴丸を派遣して同方面海域の放射能汚染状況の調査を行なわせた。
 次いで31年にもふたたびビキニ海域で水爆実験が行なわれ,同年5月政府は再度俊鶻丸を調査に派遣した。しかしこの年には高空の実験も加わり,その規模も大きくなった上に,ソ連も核実験を盛んに行なうようになったために,単に実験地周辺の汚染のみならず,遠く離れたわが国土の放射能汚染も増大しつつあることが明らかとなり,国民に強い不安を与えることとなったのである。
 この情勢にかんがみ原子力委員会においても31年10月に従来の臨時的かつ各機関ばらばらに実施している放射能調査について,体制整備と常時測定の樹立を申し合わせ,この趣旨に基づき原子力局が中心となり,関係各省の協力のもとに放射能調査要綱が作られた。32年以降はこの要綱に基づいて各年度の放射能調査実施計画がたてられ,これに要する予算は原子力局において一括要求し実施されることとなった。
 その後32年5月には英国がクリスマス島において水爆実験を開始し,また米国もネバダにおいて実験を再開し,ますます科学的総合調査の重要性が加わってき,衆議院科学技術調査特別委員会においても,放射能調査を早急かつ総合的に行なうよう機構等の整備についての決議が行なわれた。
 これら四囲の情勢ならびに従来からこの方面の組織および調査が比較的等閑視されていた状況にかんがみ,放射能調査実施のための総合計画,調査結果,国際協力の方針その他調査に関する必要事項を審議するため32年5月原子力委員会に放射能調査専門部会が設けられた。部会設置後は前述の各年度放射能調査計画は部会において審議されている。
 調査の予算額は32年度3,299万円,33年度3,624万円,34年度5,939万円である。


目次へ          第7章 第2節へ