接合・溶接技術Q&A / Q05-02-53

Q種類の異なるステンレス鋼の異材溶接についての注意点を教えて下さい。

ステンレス鋼の異鋼種間の溶接においても,基本的な考え方は炭素鋼/ステンレス鋼の異材溶接の場合とまったく同じであり,両母材への溶込み率(希釈率)と選定する溶接材料の組成によって生じる溶接金属の組織を,溶接施工面と溶接部の使用環境の両面からみて最適化することが必要となる。

一般的にステンレス鋼の異鋼種間での異材溶接では,大きく分けて以下の3つの組合せが存在し,表1に示される溶接材料が選定される。

(1) フェライト/マルテンサイト系ステンレス鋼間での異材溶接

この場合,溶接部強度としてはフェライト系母材相当で十分なことから,フェライト系の溶接材料を選定する。ただし,マルテンサイト系母材からの希釈によって溶接金属中にマルテンサイトが生じやすくなるため,母材希釈率を抑えた溶接条件の設定や十分な予熱・パス間温度の管理が必要である。309系のオーステナイト系溶接材料を選択することも可能であるが,溶接部の熱膨張係数差に起因する熱疲労が問題となる場合や,耐SCC性が求められる場合には適用を避けるべきであり,場合によってはインコネル等のNi基溶接材料を選定する。

(2) フェライト系・マルテンサイト系ステンレス鋼とオーステナイト系ステンレス鋼の異材溶接

この場合,通常溶接後熱処理が不要の場合にはオーステナイト系の309系の溶接材料を選定する。この溶接施工に当たっては,両母材の希釈をうけても溶接金属組織としては少量のフェライト相とオーステナイト相の混合組織となるような希釈条件で施工する。

しかし,溶接後熱処理を行う場合,309系のようなフェライトリッチなオーステナイト系溶接材料では,母材希釈の少ない溶接部は熱処理による炭化物析出やシグマ相脆化が問題となる場合がある。このような場合には,希釈の大きくなりやすい部分のみ309系溶接材料を使い,その他は308系溶接材料を使用するといった使い分けが必要となる。また熱処理を行う場合は,最初からすべてインコネル系溶接材料を使用することも選択肢の1つである。この種の異鋼種間の異材継手で繰り返し加熱・冷却される使用環境においては,両者の熱膨張係数差に起因する熱疲労による疲労破壊が問題となることがあり,この場合は両者の中間的な熱膨張係数をもつインコネル系溶接材料を選択することが望ましい。

(3) オーステナイト系ステンレス鋼間での異材溶接

この場合も基本的な考え方は炭素鋼とステンレス鋼の異材継手と同様であり,溶接金属組織を少量のフェライト相とオーステナイト相の混合組織となるような材料選定することがポイントである。通常はSUS304/304L,316/316L,317L等のステンレス鋼間の異材継手ではNi,Cr,Moの合金量の少ない方の母材に合わせた溶接材料を選定する。しかし,一方の母材が高Cまたは高Ni組成である場合には,溶接金属のフェライト量を確保するために309系等の高フェライト溶接材料を使用する場合もある。また,母材にNbを含有するSUS347や多量のNを含有する高窒素ステンレス鋼が相手の場合は,溶接作業性(スラグ剥離性)確保の観点から,それぞれSUS347用の溶接材料や高窒素ステンレス鋼用溶接材料を使用することもある。

〈丸山 敏治 / 2012年改訂[字句修正]〉

このQ&Aの分類

ステンレス鋼

このQ&Aのキーワード

異材溶接材質:ステンレス鋼施工法:一般

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