「お前の目玉は節穴か season1」や、その前身「実況野郎B-TEAM」のころから、「俺は『プリキュア』の製作者たちにインタビューに行きたいんです!」とずっと言っていた。
「プリキュア」が大好き。しかし、なぜ好きなのか、と聞かれたときに上手に答えることができない。キャラクターが可愛いからなのか、戦闘シーンが激しいからなのか。考えるほどにわからなくなってくる。
だったら、わかるようになるまで、話を聞き続ければいいのではないか。例えば製作に携わっている人たちから話を集め、ひとつずつ考えていけば、いずれ答えが見つかるのでは? そう思い、俺はインタビューに向かっている。
season1で「映画 プリキュアオールスターズDX」シリーズの監督、大塚隆史さんにインタビューをした。演出という仕事を通して、ぼんやりとアニメの作り方はわかってきた。製作のすべての土台に脚本という仕事があることも理解した。それで、今回は「プリキュア」テレビシリーズや「DX」シリーズの脚本家、村山功さんに話を伺うことに。同じ「ライター」の先輩として、文章に対する考え方も気になる。
3月19日には、村山さんが脚本を担当し、大塚さんが演出を手がける「映画 プリキュアオールスターズDX3 未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花」も公開予定。「DX3」へのワクワクを高めつつ読んでもらいたい。




「ふたりはプリキュアMaxHeart」の見学から参加


PROFILE


村山功(むらやま いさお)

1975年生。千葉県出身。日本大学芸術学部卒業後、映像の世界に憧れ制作会社に入り、ディレクターとして活動。2006年、東映アニメーションに契約ライターとして入社。2008年に退社。現在はフリー。「ふたりはプリキュアSplashStar」から脚本として参加。「Yes!プリキュア5」「Yes!プリキュア5GoGo!」とテレビシリーズを重ね、2009年から「プリキュアオールスターズDX」の脚本を担当。3月19日には「映画 プリキュアオールスターズDX3 未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花」が公開。同じく19日に「トリコ3D 開幕!グルメアドベンチャー!!」も公開する。3月19日には「映画 プリキュアオールスターズDX3 未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花」が公開予定。同じ日に「トリコ3D 開幕!グルメアドベンチャー!!」も。3月20日発売、「プリキュアオールスターズDX3」のノベライズも担当。

村山功(むらやま いさお)



加藤レイズナ(かとう・れいずな)

1987年生まれ。フリーライター。「実況野郎B-TEAM」 でインタビューの面白さに目覚め、日経ビズカレッジにて「ゆとり世代、業界の大先輩に教えを請う」 を連載中。3月2日発売「プリキュアぴあ」に参加。NHK-BS2「MAG・ネット」のプリキュアシリーズ特集に出演。「エキサイトレビュー」 レギュラーライター。「SQUARE ENIX」「アルティメットゲーマーズ」 ではゲーム実況プレイヤーとしても活動。「プリキュア」イベントを追いかけて、東奔西走の日々。

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──今日は、3月19日に公開予定の「映画 プリキュアオールスターズDX3 未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花」を中心にお話を伺えたらな、と思っています。とうとうプリキュア大集合映画も今回で3作目ですね!

村山 はい、事前に質問表をもらったんですけど、細かくてびっくりしましたよ。僕で大丈夫でしょうか。「DX3」の脚本を書いたのは随分前なんで、覚えているかな(笑)。

──大体どのくらいの時期に「DX3」の脚本作業をされていたんですか?

村山 えーと、打ち合わせを始めたのが昨年の春ぐらいからで、原稿を書き終えたのは8月の末から9月の頭くらいです。

──「DX」シリーズは毎年3月の公開なので、映画が上映してすぐに次の作品の打ち合わせに入るんですか?

村山 ガッツリとした打ち合わせというより、みんなで集まって、「『DX3』やることになりそうだけど、どうしようか?」みたいな、軽い雑談から始まるって感じです。

──24分のTVアニメだと、どれくらい前に書き上がっているものなんでしょう。

村山 基本的に、放送日の5、6ヶ月前に書き終えています。でも、現場によっては、放送日の3ヶ月前に書き終えるというか、まだ、書いている途中って事も(笑)。

──村山さんがアニメの脚本家を目指したきっけかはなんだったんでしょうか。

村山 アニメの脚本家を目指していたわけではないです。大学卒業後は制作会社でディレクターみたいなことをやっていました。シナリオはその時から書いています。

──なんの制作会社に?

村山 イベントの展示映像とか、会社案内のビデオなんかを制作する会社です。ドラマ仕立てのもの、ドキュメンタリー調のもの、バラエティチックなものといろいろやらせてもらいました。仕事をしているうちに、映像を作るうえでやっぱり脚本は大事だなぁと思いまして。いい脚本が書けるようになりたい、本格的に脚本を書いてみたいと思いました。その時、たまたま、東映アニメーションで3年契約の社員のライターを募集しているのを知って。で、まぁ東映アニメに拾っていただいて、アニメーションの脚本を書くことになったんです。

──募集! 応募して面接を受けたと。

村山 はい。たしか小論文と面接だった気がします。何を書いたか聞かれたのかは、全く覚えてませんが。



ライター募集を見て東映を受けた


プロデューサーの鷲尾さんは元秋田朝日放送の記者。村山さんも似た経歴ということで、入社当初は鷲尾さんに色々教わっていたそう。

プロデューサーの鷲尾さんは元秋田朝日放送の記者。村山さんも似た経歴ということで、入社当初は鷲尾さんに色々教わっていたそう。


──へええ、いきなりアニメの脚本なんて、最初はどうやっていいか困惑したりも?

村山 僕が脚本に参加したのは「ふたりはプリキュアSplashStar」(06〜07年)からなんですけど、「ふたりはプリキュアMaxHeart」(05〜06年)の後半から見学という形で、打ち合わせに参加させていただいたんですよ。

──まずは見学からなんですね。

村山 「プリキュア」は、成田良美さん、影山由美さんのように、アニメ作品を数多く手がけられているライターさんだけではなくて、シリーズ構成はバラエティの構成作家もされている川崎良さん。実写の舞台や映画の脚本を書かれている羽原大介さん。たくさんのコント番組も手がけられている清水東さんと、あらゆる方面からライターさんが集まっていたので、僕にとっては入りやすい現場でしたね。

──もともと実写のノウハウはあったわけですもんね。ライター募集を見て東映を受けたということは、書くことに興味があったからですよね。昔から書くことが好きだったり?

村山 そこまででもないんですよ。あ、でも子どものころはテレビっ子だったので、ドラマのシナリオには興味がありましたね。

──アニメよりもドラマが好き。

村山 はい。親の影響かもしれないでけど、小学生のときは、向田邦子さんや山田太一さん、倉本聰さんのドラマは、好きでよく観ていました。

──へええ、当時よく観ていた番組はなんでしょう?

村山 東芝日曜劇場は毎週観ていましたね、まぁ、クラスの友だちとは話が合いませんよ(笑)。でも、作品の中身はサッパリ理解してなかったと思います。ドラマの雰囲気が好きで観ていた感じです。

──めちゃくちゃ渋い子どもですねえ。普通の子どもはドラマよりもアニメの話をしますもんね。

村山 もちろん、「ガンダム」や「ドラゴンボール」、「聖闘士星矢」なんかも観ていましたよ。でも、特に好きなのは、藤子不二雄先生の作品です。中でも、「オバケのQ太郎」と「パーマン」は大好きで、アニメを作る上では、影響を受けているかもしれないです。

──知っている作品が続々と。

村山 「新オバケのQ太郎」は月曜から土曜日に毎日15分ずつ放送していたんですけど、その日に放送したサブタイトルとあらすじを毎回手帳に書いていました。

──おお、脚本家への最初の1歩のような。

村山 いやいや、そんなことはないですよ。今の子たちが「ポケモン」のモンスターを集めるのだとか、データカードを集める感覚と同じだと思います。趣味「オバQのサブタイトル集め」みたいな。

──オリジナルのキャラクターを作ったりも。

村山 あ、「パーマン」はそれをやっていましたよー。オリジナルのパーマンの漫画っぽいものは描いてました。あと、架空のヒーロー「鍋マン」をでっちあげて、友だちに「俺、鍋マンと知り合いなんだ」って吹いたことはありました。取り返しつかなくなって、鍋でヘルメットを作って自分がなろうとしたり。馬鹿ですね。その後、「鍋マン」がどうなったかは全く覚えてません。僕の脳が消し去りたい過去なんでしょう(笑)。まぁ、とにかく、それくらい藤子不二雄作品は好きだったし、今でも大好きです。

キャラクターの履歴書を作るんです


アクションシーンを動、日常シーンを静のように使い分けはしない。「感情の流れに合わせて脚本を書いているので、区別する必要がないんです」

アクションシーンを動、日常シーンを静のように使い分けはしない。「感情の流れに合わせて脚本を書いているので、区別する必要がないんです」


──それ、本当に「パーマン」のエピソードにあってもおかしくないですよね(笑)。なんか小さいときから脚本家的というか。

村山 いやー、子どもの頃はみんな、やらかしてるでしょう、そういうの。

──脚本家という仕事を始めて、やりがいというか、やっていてよかったと思うことはなんでしょう。

村山 うーん。仕事柄、ずっと妄想してられることですか(笑)。

──映画館に行って、子どもの反応を見たりはしていますか?

村山 もちろん映画館にも行きますし、「DX」に関して言えば、映画館観終わった後にプリキュアになりきっている子なんか見ると、ああ、やっていてよかったと思います。

──子ども目線でお話を考えるのって結構大変なのでは、と。

村山 友だちの子どもに、どんなことが楽しいのかを聞いたりはします。ただ、脚本は、子ども目線ではあるけど、感情の流れを追って物語を作っているので、大人向けの作品と、そう作り方は違わないとは思いますけど。

──「プリキュア」の脚本を書く上で絶対に守らなくてはならないことというのは?

村山 子ども達が観て楽しいもの、嫌な思いをしないものを書くようにはしています。お父さん、お母さんも楽しめるようには作っていますけど、やはりメインは子ども。だから加藤さんが「プリキュア」を好きなのはなんで? って。逆にインタビューしたいくらいですよ(笑)。

──いやー、うーん……なんででしょうね。長くなっちゃいますよ。

村山 今度じっくりと話を聞きたいですね!

──はい、ぜひ。リサーチはどの程度本編に影響されるものなんでしょう。

村山 例えば、「Yes!プリキュア5」(07〜08年)のとき、知り合いの娘さんに、中学校の生徒会長をやっている子がいたので、生徒会はどういう仕事をしているのか、苦労話などは聞きました。もう、原稿が行き詰まるたびに、ヒントをもらおうとメールで質問したり。

──おお! それがかれんに受け継がれているんですね。キャラクターの設定は主に誰が考えているのでしょうか。

村山 「プリキュア5」の時なら、シリーズ構成の成田さん、そして小村(敏明)監督、プロデューサーの鷲尾(天)さんがしっかりと考えていますよ。それに合わせて、このキャラクターはこんな人なんだろうな、という、自分なりの簡単な履歴書を書いてみます。かれんだと、生徒会長なのになんで人とうまくやれないのか。そして、なぜそうなったのかを考えてみる。演奏家の両親となかなか会えないから? きっと3歳の時に親の演奏旅行に着いていって、海外には、こんな友だちがいるだろう、みたいに、キャラ1人、1人の簡単な履歴書を考えていきます。

──それは楽しそうですけど、大変な作業ですよね。全員分とは……。村山さんが考えた裏設定みたいなのはあるんでしょうか?

村山 うーん。これは裏設定ではないんですけど、ナッツの好物を考えていて、スーパーの和菓子屋さんに行ったときに、ナッツを見て、ナッツ……豆……。あ、豆大福だって。そのくらい(笑)。

──そうだったんですか、確かに豆だ……! ココの方は決まっていたんですか?

村山 はい、ココは最初からシュークリームが好物でした。成田さんが考えたんだと思います。というか、今、気が付きましたけど、ナッツって厳密に言うと、豆じゃないのかな?……まぁ、いいや。



ミュージカルを観て構成を立て直した


「DX2」の舞台になったフェアリーパークのシナリオ執筆時の想像図。実際の地図とは違うけど、これで大体の話の流れを考えたそう。右下には村山さんが好きだったキャラクターが。

「DX2」の舞台になったフェアリーパークのシナリオ執筆時の想像図。実際の地図とは違うけど、これで大体の話の流れを考えたそう。右下には村山さんが好きだったキャラクターが。


──面白いですねえ。「プリキュア」の脚本を作るとき、最初はまず打ち合わせからスタートするんでしょうか?

村山 僕が関わっていたテレビシリーズは「SplashStar」や「プリキュア5」、「Yes!プリキュア5GoGo!」(08〜09年)なので、最近のシリーズは分かりかねます。例えば、「5GoGo!」の44話「届け!みんなのプレゼント!」だと、まずクリスマスというのがひとつのポイントになります。もうひとつは、シロップが記憶を呼び起こす。それに、もういくつかポイントになる部分を、シリーズ構成の成田さんから教えていただきます。

──ふむふむ。

村山 じゃあこれで、来週までに話を考えてきてね、って。

──ええ! それだけなんですか。

村山 はい。お題を出されて話を作る、落語の三題噺みたいな感じですね。50話近い話のメインの軸は、ち密に、もう、しっかりと成田さんに立てていただいていますから。それさえ。外さなければ、話として成立しちゃいます。

──柱になるものを先にいくつか立てて、そこからふくらませていく感じなんですね。綿密な打ち合わせとかはしていないんですか。

村山 そのあとに、プロットという形で大まかなあらすじを見せる。そこから「もう少し、こう変えようか」と小村監督や成田さんや、鷲尾さんが指示をする。これは現場によってケースバイケースなんですけど、「プリキュア」はこういう感じでした。

──テレビシリーズと違って、映画だとまた変わってきますよね。まず「DX」シリーズの脚本のオファーというのは誰から受けたのでしょう?

村山 鷲尾さんでからですね。なんで僕が書くことになったのかは鷲尾さんに聞かないと分からないですけど、「MaxHeart」の頃からシナリオ打ち合わせを見学していて、一応歴代キャラのことを知っているということですかね。あ、あと、もしかしたら「プリキュア」のミュージカルショーをやったからかもしれません。「5GoGo!」のときに、「プリキュア5周年」という企画があったんです。毎年やっている「プリキュア」のミュージカルショーも、歴代プリキュアが全員登場するお祭りで。そのショーの脚本を書かせてもらったんですよ。

──「ふたりはプリキュア」(04〜05年)から「5GoGo!」まで11人が大集合でしたね。キュアドリームたちがピンチになって、キュアブラックやキュアブルームが助けに来るシーンは泣いちゃいました。最初の公演は確か2008年の7月でしたかね。何回も観に行きましたよ。

村山 観てたとは(笑)。ありがとうございます!

──あれだけのキャラクターを動かすのは大変だったのでは。

村山 僕なんかよりも、着ぐるみを着ている役者さんが大変だったと思います。出てくるキャラクターよりも役者さんの数が少ないという(笑)。だから、舞台袖に引っ込んだらすぐに、別のキャラの着ぐるみを着て。1人何役もこなされていて、役の切り替えが大変だったと思いますよ。

──もしかして、それが「映画 プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の大集合!」(09年)に生かされたとか?

村山 メチャクチャ参考になりました。子ども達の歴代プリキュア、「MaxHeart」と「SplashStar」のキャラへのリアクションが、生で見られましたから。ちょうどミュージカルショーが上演されていた時に、「DX1」の初稿を書いている時でした。子どもたちの反応が参考になるかなぁと、僕もショーを観に行ったんです。そうしたら、ブラックやキュアホワイト、ブルームやキュアイーグレットの登場を見てもキョトンとしているんですよ。

──昔の「プリキュア」だから存在は知っていても、詳しくは知らない感じ。僕はもう、歴代が集合している! と自分が夢中になっていて気付きませんでした。

村山 ははは。これはやばい! と思いました。子どもたちは、ブラック、ホワイトたちが昔のプリキュアという認識はあるみたいなんですけど、そこまでワーキャー言ったりもしなかったんです。歴代プリキュアをきちんと紹介して、インパクトある登場させないと、せっかくの格好良さが伝わらない! と冷や汗もんです。その日は確か、「DX1」の初稿締め切りの2日前だったかな? もう、帰りの電車の中でノートパソコンを開いてシナリオのやり直し、構成の立て直しを必死にしました(笑)。

──なるほど。ショーを観て、映画内での歴代の扱い方を変えていたんですね。他に何か「DX1」を書く上でされたことは?

村山 はい。あとは、他には、東映の元祖クロスオーバー作品とも言える「マジンガーZ対デビルマン」「グレートマジンガー対ゲッターロボ」とかもう、片っ端から全部観ました。

──おお、「東映まんがまつり」。

村山 はい、1人で東映まんがまつりです。クロスオーバー作品の面白さとは何か、格好良さは何かを研究しました。何分に誰が登場して、主人公達は何分で遭遇して、必殺技をどこで撃って、と、分単位でメモしていって構成の参考にもした感じです。もちろん、忍者ハットリくんとパーマンのクロスオーバー作品「超能力ウォーズ」、「忍者怪獣ジッポウVSミラクル卵」のコミックも読み返しましたよ。



新しい友だちに出会える楽しさ


取材前に渡された「DX3」のパンフのパイロット版? ネタバレは大丈夫なんですか!? とビクビクしながら開く。村山さんも「気持ちはわかるよ」と笑っていました。

取材前に渡された「DX3」のパンフのパイロット版? ネタバレは大丈夫なんですか!? とビクビクしながら開く。村山さんも「気持ちはわかるよ」と笑っていました。


──ここで誰が助けに来て、みたいな。直す前の脚本はどうだったのか聞いてもいいでしょうか?

村山 歴代のプリキュアたちをもっと描いていたと思います。完成した「DX1」でも、話の主軸は「5GoGo!」だったんですけど、もう少し新しいキャラクターの「フレッシュプリキュア!」(09〜10年)を前に押し出してもよかったかなと、今では思っています。いつの時代も子ども達は、新ヒーロー、ヒロインの活躍を見たいものですからね。

──それが「映画 プリキュアオールスターズDX2 希望の光☆レインボージュエルを守れ!」(10年)で「ハートキャッチプリキュア!」(10〜11年)のキュアブロッサムとキュアマリンがものすごく前に出ていることにつながっているんですね。

村山 それはあります。あと「DX1」はシリアスな感じになったので「DX2」はもっとコミカルにしようという話は出ていたんですよ。

──冒頭でも、つぼみとえりかがボケとツッコミのようなシーンがありますね。村山さんが考えている「DX」シリーズのコンセプトは?

村山 「DX」シリーズは毎年3月に公開するじゃないですか。新学期前に。

──そうですね、春休み公開。

村山 僕、小学校のとき、めちゃくちゃ人見知りだったもので、新学期でクラス替えがあるたびに、学校に行きたくないなあって思っていました。幼稚園から小学校に上がる時なんて、もう消えてなくなりたいくらい。でも、行ったら行ったで、新しい友だちに出会える楽しさがあるんですよね。

──ああ、ありますあります。仲の良い友だちと離れるのがいやで、クラス替えの紙を見るのにものすごくドキドキしました。

村山 でしょ。かつての自分のように、ちょっと新学期、新学年が不安な子達の背中を少しでも後押しできればなぁと思ったんです。プリキュア達みたいな良い友だちできるかもよ、みたいな。

──おお。それは「DX3」になった今でも。

村山 もちろんそうです。



闇は悪い奴じゃない


メモ書きに使っていた脚本ノートを見る村山さん。「俺、こんなこと書いてたっけ?」

メモ書きに使っていた脚本ノートを見る村山さん。「俺、こんなこと書いてたっけ?」


──映画についてそれぞれ聞いていきたいと思います。「DX1」のテーマになったものとはなんでしょうか。

村山 映画をやるからにはガッツリとしたテーマがないといけないんですよね。まずプリキュアたちのテーマは明確に、「出会い」です。

──全ての始まりですね。そこからみんな知り合って、友だちになって……。敵キャラのフュージョンのモチーフなどは?

村山 お分かりだとは思いますけど、「ターミネーター2」の液体金属のターミネーター、T-1000です。

──わりとそっくりな(笑)。

村山 敵に関しては、今、問題になっているもの、イヤなものであるべきだということで、鷲尾さん、監督の大塚(隆史)さんと、それぞれ敵になりそうな素材を持って来て打ち合わせしました。僕がその頃、これはどうかと思っていたのは、「二酸化炭素排出権取引」でした。どこの国が二酸化炭素を売るとか。そういうの。敵は、この路線だなぁと。

──それは、難しいテーマですね。

村山 はい。で、鷲尾さんのテーマが、「基本的にグローバル化は良いことだけど、グローバル化の名の下に、国や地域の個性までも奪い取るような、間違ったグローバル化はイヤなんだよね」みたいなことをおっしゃって。ああ、それだ! 敵のテーマだ、と。二酸化炭素なんて言ってすみません! みたいな感じ。あやうくプリキュアと二酸化炭素が戦う所でした(笑)。

──フュージョンが登場するシーンの直前に、歴代の敵たちが登場していますね。あれは敵たちが全部混ざり合ってできたのでしょうか?

村山 そうではなく、今までの敵たちすら飲み込んだというイメージでしょうね。フュージョンという存在自体は元からいたんです。

──「DX2」はどのような?

村山 はい。レインボージュエルを目指して、闇のテーマパークを走る「ハートキャッチ」のふたり。待ち受ける敵に襲われてピンチになったところを、歴代プリキュアがかけつけて助け、歴代プリキュアの意思、歴史を伝えていくわかりやすいプリキュアイズム継承の構成になっています。「継承・引き継ぎ」がテーマですね。

──歴代プリキュアはあくまで背中を押してあげるだけ、ですもんね。次のプリキュアはあなたたちなのよ、という。舞台が海とテーマパークなのは?

村山 まず、「プリキュア」で「海底2万マイル」をやるって企画があったんです。「ふたりはプリキュア」のクイーンのような、女ネモ船長と彼女が乗る深海を行く船を守るプリキュアたち。プロットのたたき台みたいなのも書いていましたが、最終的に「海の中じゃバトルしにくい」と大塚さんに言われて、それはもっともだな、と。あやうくプリキュアが酸素の欠乏と戦うところでした(笑)。

──水中では動きも制限されますしね。火属性の攻撃とかどうなるんだろう……とか。

村山 あとは貝をテーマにした宝石、レインボージュエル。あれは中国に伝わる蜃気楼を生み出す伝説の生き物「蜃」がモデルです。

──ジュエルの力がテーマパークを産み出した。

村山 そう考えると納得できそうな気がしません? あれ、できない?

──ジュエルの力を得たミラクルライトを使って、オープニングで妖精たちがテーマパークを作っているのはなんだかほのぼのしますよね。

村山 それと僕がシナリオ作成の際に参考にしたのは、ミラクルライトの光が集まるくだりは、「ガメラ2 レギオン襲来」から、光の粒子をまき散らして飛ぶシロップは「モスラ」から。もう、怪獣映画大作戦で。

──ええっ! そういえば、モスラも光をキラキラさせながら飛びますもんねえ。海を舞台にした名残りが深海の闇、ボトムなんですね。

村山 はい。深海は本当に闇なので、こわいだろうな、というのもありました。ただ、闇の扱いにはいつも悩まされていました。個人的には、「プリキュアたちは闇を追い払ったけど実は闇の世界では生きています」という見せ方をしたかったんですけど……それは子どもたちにはわかりづらいのでやっていないんです。

──物語が解決していない感じが残ると?

村山 はい。悪の闇が現れて、正義の光が倒しました、めでたしめでたしというのは、僕としてはしっくりきていません。闇は悪い奴じゃないですから。

──本当は光も闇も同じものなんだよと。

村山 はい。表裏一体です。すべてを自分のものにしようとする強欲が悪いだけであって、存在自体は悪いやつではないという認識です。でも、やっぱり闇は元の世界に帰りましたとさ、で終わると小さな子ども達は混乱するでしょうし、爽快感がなくなるなぁとも思うし。本当にいつも悩んだところです。描かれてはいませんが、闇の力は光の力で完全に消えたのではなくて、自分の世界に戻っただけです。僕の中の解釈では。

──それはテレビシリーズの敵キャラクターの扱いも同じなんでしょうか。

村山 僕はそう思っています。



良い活躍をしたら、1ポイント


脚本作りで使っているキャラクターのコマ。上の方にいる青ペンで描かれたキャラは村山さんが考えた仮プリキュア

脚本作りで使っているキャラクターのコマ。上の方にいる青ペンで描かれたキャラは村山さんが考えた仮プリキュア


最後まで話を盛り上げてくれた村山さん。逆インタビューはともかく(笑)、またいつか、じっくりとお話をしてみたいです。

最後まで話を盛り上げてくれた村山さん。逆インタビューはともかく(笑)、またいつか、じっくりとお話をしてみたいです。


──作品が完成したとき、元の脚本はどこまで残っているんでしょう。監督の大塚さんのインタビューで絵コンテを見せてもらったときに、本編には無いシーンもあったりしましたが。

村山 ああ、もう「DX1」は尺がないのもあって冒頭の方はバッサリでした。

──「DX1」冒頭では、舞台になっている桜木町駅前で「フレッシュ」のラブたちと「5GoGo!」ののぞみたちが出会うシーンから始まります。もしかしたら別のシーンがあったり?

村山 「DX1」はメタファーとして、まず地下を過去、地上を現在、空を未来という風にお話作りをしました。「フレッシュ」が主人公で、過去のプリキュアとして歴代が出てくるという設定なんですけど、まず冒頭シーンは、横浜の地下鉄、つまり過去から「5GoGo!」ののぞみたちがやってきて、地上、現在の「フレッシュ」のラブたちに出会うところからスタート。最後は、空を覆う巨大なフュージョン、つまり明るい未来に立ちふさがる困難を、プリキュア達が必殺技で吹き飛ばすというイメージだったんですよ。

──あ、結構違いますね。

村山 はい。冒頭シーン含め、本編には跡形も残ってません(笑)!

──「DX3」では、「スイートプリキュア♪」(11年〜)が新キャラクターになります。毎年、新キャラクターはどのように扱っているのでしょうか。

村山 脚本の段階では、新シリーズについては軽い設定書しかなくてキャラもほとんど決まっていません。だから、多分こんなキャラになるんじゃないのかな、というイメージで作っているんです。子どもたちは新しいプリキュアをいっぱい見たいだろうし、出番は多くしてあげたいんですけど、なかなかどうして大変な作業です。

──テレビの方と「DX」シリーズの整合性については?

村山 テレビシリーズのライター、スタッフは、「DX」のシナリオにかまう暇もないくらい、シリーズ立ち上げに忙しいかと思いますし。こちらがテレビのキャラクターにすりあわせるように努力しています。

──「DX3」ではプリキュアだけでも21人もいますが、それぞれのキャラクターの動かし方も大変なのでは。

村山 そうですね。まず、位置関係がさっぱり分からなくなります、どこに誰がいるのか。シナリオを書くときは、こういう風に紙を切って、キャラクターの絵が描いてあるコマを作るんですよ(プリキュアや敵が描かれた紙を取り出す。写真左参照)。誰がどこに立っているかを把握しないといけないんです。例えば、カレハーンにキックされたキュアアクアが吹っ飛ばされてあっち飛んで、アクアをカバーするためにブラックはこう動くだろう。カレハーンも今は後ろを向いているからチャンスだな、と。

──位置関係をちゃんと。

村山 「SplashStar」の時は、まだ2人だったんで、頭の中で動かせましたが、「プリキュア5」からもう大混乱です。「DX」シリーズだとこのコマを使わないとワケが分からない!

──整理できなくなりますもんね。

村山 「プリキュア5」のときは食玩のフィギュアでやっていたんですよ。ただ、遊んでいたっていう噂もありますが(笑)。あと、「DX」シリーズでは、脚本を一度書き終えてから、誰か喋っていない、活躍していないんじゃないかチェックがあるんですよ。脚本を読み返して、良い活躍をしたら、1ポイント! って正の字を付けていくんですよ。今の台詞いいねぇ、3ポイント! という風に。

──バラエティ番組みたいな(笑)。

村山 近いかも。あれ、このキャラすごい無口! しゃべってない! なんか言わせないと、みたいなことがよくありました。

──前回はあまり活躍できなかったから今回は活躍させたり。

村山 前2作の反省点をふまえて、今回は頑張って全員活躍してくれていると思います。どのキャラのファンの方々にも納得していただける、そんな作品になっていると思います。

──特別に好きなキャラクターとかはいないんでしょうか?

村山 それはもちろん全員です! プリキュアから妖精たちにいたるまで全員! でも、動かしやすいというか、シナリオ的にありがたいのはキュアルージュですね。

──おお。

村山 誰にでもツッコんでくれるから、何度も助けていただいています。

──そうですね。ほとんどがボケというか、ツッコミのキャラクターって意外と少ない。

村山 はい。ボケ、ニヤケのキャラがひしめくプリキュアの中で、貴重なツッコミ役として、ほんとに「プリキュア5」のときから、ルージュ姉さんにはお世話になっています。

──僕もキュアルージュが1番好きなので、なんだか嬉しいです。

村山 へぇ、どの辺りが好きなんですか?

──「5GoGo!」の6話「ドーナツ国王目覚める!」でスコルプから、「中途半端」と言われる回があるじゃないですか。

村山 はいはい。フットサルや妹や弟の世話、家の手伝いなんかを全部をやろうとして。

──「プリキュア5」の「目指せ完走! マラソン大会」でも、頑張っちゃって無理をして倒れたり、そういうところがいいかな、と。フォローをしてもらいたいし、逆に支えてあげたいなと。

村山 そっちなんだ。珍しいですね、チャキチャキしたところがいいとかではなくて。

──そこももちろんありますけど、りんちゃんはお姉ちゃんじゃないですか、僕は末っ子なので。

村山 はぁー、なるほどねえ。

──まあ年齢は逆なんですけど。

村山 そうだよ! うんうんって納得しかけたけど違うじゃん!

──そこはうんうんでお願いしたいです。

村山 いやー、これはやっぱりインタビューして聞き出さないと!



次回予告


映画 プリキュアオールスターズDX3 未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花
©2011 映画プリキュアオールスターズ3 製作委員会

「映画 プリキュアオールスターズDX3 未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花」シリーズ8年目、プリキュアの数はなんと21人!「DX1」ではコワイナーなどの、テレビシリーズの敵キャラクター。「DX2」では敵幹部たちがそれぞれ登場していたけど、今作ではとうとう劇場版の敵キャラクターまでも全員集合! まさに「プリキュア」シリーズ集大成映画になることまちがいなし! 3月19日(土)よりロードショー予定!


「SEASON1だろうがSEASON2だろうが、俺は「プリキュア」で行きます」。まったくブレることなく加藤レイズナの「プリキュア道」は続く。新人だの駆け出しだのと言われつつ、早いもので本格的にライター稼業をはじめてもうすぐ2年、インタビュー術も板についたか、村山さんへの取材もぐんぐんディープな方向に突き進んでいきます。次回後編は、え、「プリキュア」シリーズにそんな意外なオマージュが!?  他では聞けないエピソード続出、乞うご期待!

「お前の目玉は節穴か」では、おもしろい取材企画を募集しています。ブログなどで具体的に企画をはじめているかた、道場破りもありです、ぜひお問い合わせください。プロアマ問いません。編集担当のツイッター @kaerubungei までどうぞ。

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