更新日:2003年3月4日 RSS

Views for thought  今、注目のひと 今、旬な人にインタビュー。その人の生き方や考え方から
なにかを感じとってもらえれば……。
  Backnumber

走りたいのに走らせてもらえない、そんな女性に捧げます。
  遙洋子  HARUKA yoko / タレント・作家
 
   
遙洋子さん 関西を中心にテレビ、ラジオ、舞台に活躍。社会学を学ぶ過程で考えたことを痛快なテンポで綴った『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』のベストセラーをきっかけに、本格的な著作活動を開始。以降、『結婚しません。』『働く女は敵ばかり』『介護と恋愛』……など、フェミニズムという学問を実生活レベルに噛み砕いて熱く語る著作が続々。日経ビジネスのコラム「働く女性の眼」も好評。
   
語れば、人は理解しあえると思っていた……が!
 
  今から10年以上も前の話。当時、関西に住んでいた私が認識していた彼女のイメージは、「上岡龍太郎氏にいじられながら、全然めげずに熱く、しかも真正面からかかって行くお姉ちゃん」であった。上岡氏の「女は若いほうがいい、キレイなほうがいいに決まっている!」といった断言に、「なんでそんなこと言うんですか!」と噛みついていく彼女の姿に、「果敢やなあ……でも、相手が悪い。上岡さんやもん」と、半ば呆然としつつ画面に向かっていた関西人は私だけではあるまい。
 
  「あの頃は希望に燃えてましたよ。語れば、人は理解しあえる生き物じゃないだろうか。人は生きていくうちに考えも変わっていくのではないか、とか。人は変えられる。世界も変えられるって」
 
 
  けれど、20代を過ぎ30代を生きるにつれて、「むかつく」「ウザい」思いが募っていく。
 
  「こんなに頑張ってんのに、なんで幸せになれないんだろうって。こんなにやっているのに、なんで恋人はまだ私に文句をいうねんっ。こんだけやってて、なんでまだアシスタントやねんっ。意味も判らずあがいてました。今から思えば、それらは全部フェミニズムの問題提起になってたんですけどね」
 
 
  努力や言葉数が足りないのか。仕事の環境が悪いのか、出会った男が悪いのか。育ちが? 性格が?……誰もが頭に浮かべそうな疑問。けれど、「ま、仕方ないか」などと打ち捨てがちでもある疑問。これを徹底的に究明したくなった彼女は、一縷(いちる)の望みを社会学の世界にかけたわけだ。で、ずっと、ずーっと考えてきた。著書にして4冊分も考えてきた。
 
ハイブリッド・ウーマン、誕生。
 
  そして、2003年。ハイブリッド・ウーマンになるべし、というのが現在の彼女の見解だ。なんだか超合金でできたオンナみたい?な響きだけれど、遙さん曰く「いいとこ取りの女」。それって判る!ような、そんな明け透けな、と戸惑うような……?
 
  「子どもの手を引いて『40です』って言っても、何ら逆風は来ない。でも、ミニスカート履いて、ウエスタンブーツ履いて『40です』って言った途端に、嵐が吹き荒れますからね。自分なりのライフスタイルを選ぶことが、決して自由じゃない。けれど、Cafeglobe世代も含めて、これから選択する方向に行くわけじゃないですか」
 
 
  とはいえ、女性が自由な生き方を選んでいくための社会が整えられている、なんて考えるのは甘い。「ジェンダーフリー度は大阪や地方より上」と遙さんが評する東京ですら、現在この街に住む私としては懐疑的であり。「だからこそ、走るためのスキルが必要」と彼女は言うのだ。ハイブリッド・ウーマンになれ、と。
 
走ることが正解かどうかより、とにかく走りたいっ。
 
  「簡単にいうと、いいとこ取りの、という発想だ。これは見事な合理性という評価もできるが、目的のためには手段を選ばない強欲さともとれる。あくまでもその瞬間の時代を意識した超合理主義から生まれた発想だ。……愛されるだけの女ではなく、戦うだけの女でもない。それらのもつ限界を超えた女のことだ」
 
 
  近著『ハイブリッド・ウーマン』で、遙さんはそう宣言する。「ある人にすれば嘆かわしいことこの上ない女性」かもしれないけれど、そんなこと気にしちゃいない。女性であることが障害として機能してしまう現実にぶち当たり続け、何故なんだ?と考え続けた彼女だからこそ辿りついた考えだ。けれど、これを全ての女性に押しつける気持ちは更々ないという。
 
 「走りたい。けれど、周囲の状況が自由に走らせてくれない。そんな女性たちだけに向けて書きました。私のようなハイブリッド・ウーマンにおなり、っていう本になったらイヤやなと思ってます。それに、走ることが正解かどうかは判らないんです。なんだかまだ判らんけれど、どうやらこっちの方向なんちゃうかな、これからは……という段階で。けれど、走りたい女性に向けてのノウハウが少なすぎるし、お互いに現時点でのノウハウは共有できたらいいかな、と」
 
 
  成功譚は嫌いだと彼女はいう。私たちだって、数多の成功物語を真正面から読むことが少なくなる。だから、彼女の現在進行形がとてもリアルに感じられるのだ。彼女のこれまでの著書も、何かを結論づけたものは一冊もない。書きながら、頭の中を整理しながら、それでも戸惑う姿があるから、「ああ、そうだよねえ」と共感できる 。
 
 「少なくとも、走らせてくれよ、と。走りたいんだから。力有り余ってるんだから。気もキツイんだから。口も立つんだから。思うようにやらせてくれよ」
 
 
社会を変える前に、自分が変わる。そっちのほうがカンタン!
 
  「夫や上司が変わらないと嘆く方が大勢いらっしゃるんですけど、そりゃ変わらんで、と思います。私がこんだけ喋って恋人ひとり変えられへんかってんから、変わるわけないやんって。変わりたくない人って、沢山いはりますよ。人が変わることがあるとすれば、心の底からヤバイって思うときで。社会を変えることを考えるより、自分にとって何が嫌で何に見切りをつけたいかを考える。自分が変わるほうが先なんですよね」
 
 
  けれど、変わりたい自分に変わるためには、技巧は必要。それも、かなり高度な。なぜなら、男に媚びる女性と一見同じに見えるのだろうけれど、眼差しと志は違うから。男に気に入ってもらうためのノウハウじゃなくて、男を追い抜くためのノウハウだから。追い抜ききるまでは、必要ならば可愛くもしていてあげましょう、というわけだ。
 
 「車が走るには燃料がいるように、私たちが走るためにも男という資源を上手に使うんです。だから、味方としての男選びの眼力も必要。大人しい女が好きなオッチャンに混じって、元気な女が好きなオッチャンもいるんですよ。そんなオッチャンを目ざとく見つけて、後押ししてもらえればベストですよね。だから……私はこの本を、もっと走りたかったであろう辻元清美ちゃんに捧げたいんです」
 
   
 

◆遙洋子さんのオフィシャルサイトはこちら

◆近著『ハイブリッド・ウーマン』(講談社刊)の購入はこちら



Text / Matsumoto Noriko(Cafeglobe.com)
Photos / Kobayashi Yasunobu
遙洋子さん
遙洋子さん
「上岡さんはフェミニスト、ジェンダーフリーなんです。自覚してらっしゃらないだろうし、お認めにもならないだろうけれど。『女は若くてキレイなのがいい』と言いつつ、私のようなポジションの人間の発言を抑圧しない、きわめて稀な存在で。走れるだけ走ってみいっ、と。好みとジェンダーフリーかどうかは別。私も男性の好みはマッチョ系だし。それでいいのだと気づくのに、10年掛かりましたけど(笑)」
 
 
 
Backnumber
vol.43 里村明衣子さん/女子プロレスラー  2003年2月5日
vol.42 三好和義さん/写真家  2002年1月6日