黄砂(こうさ)
モンゴルのゴビ砂漠や華北の黄土地帯では、春先に強風で大量の砂塵が吹き上げられる。北京あたりでは、文字通り黄塵万丈を呈し、太陽は輝きを失い、空の色は黄褐色になるという。それを黄沙という。黄砂と書くようになったのは、戦後からである。
黄砂は上空の偏西風に乗って日本にも飛来する。下表は那覇における月別の黄砂観測日数である。沖縄付近では秋から梅雨期にかけて黄砂現象が見られるが、四月が圧倒的に多い。
昔、麦を作っていたころ、その出穂期から収穫期(三〜四月)にかけて黄砂の後には、しばしば麦の黒さび病が蔓延したので、農家はそれを恐れていたという。八重山地方では、霧のことを「イン・ギリ=海霧」と呼び、黄砂のことを「ヤマ・ギリ=山霧」といって区別していた。
黄砂のことを「つちふり」とか「よなぼこり」、「胡沙=コサ」、「ばい」ともいい、俳句の季語としてよく用いられる。黄砂の降る日に、空が濁って見通しがきかず、どんよりとした空模様となることを「つちぐもり」とか「よなぐもり」ともいう。
つちふりや戦跡をゆく僧の鉦 一人
黄砂降る海へ槌音 墓普請 仙人
黄砂降りどこか気落ちの霊御殿 白虹
黄砂降り黙の芯なす亀甲墓 黄石
万象の牙を鎮めて黄砂降る 奈江
つちふりや鈴振り続け豆腐売り 礁湖
南島俳句歳時記(1988.4.23)
正木 礁湖