報道発表資料本文


件名

    アントレプレナー教育研究会 報告書(要旨)


                                                                  
                                         事務局連絡先             
                                          通商産業省               
                                          産業政策局新規産業課     
                                              藤原、定光、河内     
                                                                   
                                                                   
            アントレプレナー教育研究会 報告書                
         =起業家精神を有する人材輩出に向けて=            
                           (要旨)                               
                                                                   
                                      平成10年7月29日         
                                      アントレプレナー教育研究会   
                                                                   
                                                                   
   「アントレプレナー教育研究会(座長:矢作恒雄 慶應義塾大学常   
  任理事)」は、「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9   
  年5月16日閣議決定;平成9年12月24日第1回フォローアップ) 
  における記述を受け、平成9年10月、通商産業省産業政策局内に設   
  置された。その後、米国への海外調査の実施や計6回の研究会の開催   
  を通じ、新規産業創出の担い手となる「起業家精神を有する人材」の   
  輩出・育成のための具体的方策につき、文部省とも連携の下、精力的   
  な検討が行われてきた。                                           
   本研究会としては、この度、これらの一連の検討の成果として、報   
  告書(「起業家精神を有する人材輩出に向けて」)を取りまとめ、公   
  表することとした。その要旨は、以下のとおりである。               
                                                                   
                                                                   
第1章:基本的認識                                                 
                                                                   
 「起業家精神を有する人材」の輩出の在り方を検討するに当たっての   
基本的な認識は、以下のとおりである。                               
                                                                   
1.「起業家精神を有する人材」とは                                 
   「起業家精神を有する人材」とは、新しい挑戦的な目標に対して、   
  リスクを恐れず、積極果敢にチャレンジするアイディアや実行力を有   
  する人材のことである。                                           
                                                                   
2.あらゆる業種や職種に共通して必要とされる起業家精神             
   起業家精神は、単にベンチャー企業の経営者等に限定されるべき資   
  質ではなく、既存の大企業等における「企業内起業家(イントラプレ   
  ナー)」を含め、あらゆる業種や職種に共通して必要とされる資質で   
  ある。                                                           
                                                                   
3.学校教育段階における対応の重要性                               
   起業家精神は、人々の意識・価値観や行動様式に深く関わるもので   
  あり、これを十分に醸成するためには、初等・中等教育段階を含めた   
  学校教育段階からの適切な対応が必要である。                       
   併せて、税制改革、規制緩和、人材移動の円滑化等の幅広い環境整   
  備を行うことも重要である。                                       
                                                                   
                                                                   
第2章:大学等におけるアントレプレナー教育の現状                   
                                                                   
1.我が国の大学等におけるアントレプレナー教育の現状               
                                                                   
(1)大学を取り巻く環境変化                                       
   18歳人口の減少に伴い、大学の選択に関する学生の目も厳しくなっ 
  てきていることから、我が国の大学は、学生のニーズにより的確に対   
  応したプログラムの提供が求められている。                         
                                                                   
(2)我が国の大学等におけるアントレプレナー教育の現状(日米比較   
  を含む)                                                       
   我が国の大学・大学院においては、1990年代以降、「起業家養   
  成講座」等の開設が本格化し、現在、約30の大学等においてこうし   
  た講座が開設されている。しかしながら、我が国の現状を米国と比較   
  すると、講座数等の面において、大きく見劣りすると言わざるを得な   
  い。                                                             
                                                                   
                                           
                                                                   
(3)我が国の大学等におけるアントレプレナー教育の具体的事例       
     我が国の大学等におけるアントレプレナー教育の実例を分析する   
    と、以下の3類型に大別することができる。                       
      a)「大学院生及び社会人」を対象として「専門課程(体系的に   
        用意された複数の講座から成るコース)」を設置している大学   
      b)「大学院生及び社会人」を対象として「講座」を開設してい   
        る大学                                                     
      c)「学部生以上」を対象として「講座」を開設している大学     
                                                                   
(4)学部や大学等の枠を超えた新たな講座形態等の登場               
     近年、一部の大学等においては、a)学内での理工系学生を対象   
    とした講座の開設、b)複数大学間の提携、c)海外との提携、等   
    の既存の学部や大学等の枠を超えた新しいタイプの講座等を開設す   
    る動きが見られる。                                             
                                                                  
                                                                   
2.米国の大学等におけるアントレプレナー教育の現状                 
                                                                   
 米国の大学等においては、既に1940年代からアントレプレナー教   
育が導入されており、1980年代に入って急速に普及した。この理由   
としては、a)大企業のダウンサイジング等を契機とした社会的ニーズ   
の高まり、b)ベンチャー企業への就職をより志向するようになった学   
生側のニーズの高まり等を挙げることができる。                       
 また、米国のアントレプレナー教育は、主としてビジネススクール等   
において行われており、以下のような特徴を有している。               
 a)多様かつ体系的なカリキュラム                                 
 b)実習の重視(企業に対する学生のコンサルティング実習、アント   
    レプレナーとの直接の意見交換等)                               
 c)学部を超えた大学内の連携(コンピュータサイエンス、医学等の   
    学部とビジネススクールとの共同授業等)                         
 d)研究体制の充実(アントレプレナー研究に関するアカデミック・   
  ジャーナルの存在)                                             
                                                                   
                                                                   
第3章:初等・中等教育におけるアントレプレナー教育の現状           
                                                                   
1.我が国の初等・中等教育段階におけるアントレプレナー教育の現状   
                                                                   
   我が国において、初等・中等教育段階におけるアントレプレナー教   
  育は、未だ揺籃期にあると評価されるが、近年、一部の団体や民間企   
  業等において、日本版「ジュニア・アチーブメント・プログラム」の   
  導入を図るなど、積極的な取組みが行われつつある。                 
                                                                   
  (例)「ジュニア・アチーブメント・プログラム」                     
     「ジュニア・アチーブメント(米国の非営利団体)」の日本本部   
    が、小中高校生にビジネスや経済学を教育するための模擬演習プロ   
    グラム(例:グループ毎に会社経営の優劣を競うもの)の普及を図っ 
    ている(本部理事長は、日本IBM椎名会長、富士ゼロックスに事   
    務局設置)。現在、全国で約100校が、本プログラムを既に導入   
    しているところ。                                               
                                                                   
2.諸外国の初等・中等教育段階におけるアントレプレナー教育の先進   
  的な事例                                                         
                                                                   
   欧米諸国においては、小中高校生を対象としたアントレプレナー教   
  育が極めて活発に行われており、政府や非営利団体等が中心となって、 
  以下のような多様な取組みを行っている。                           
                                                                   
(1)米国の「ジュニア・アチーブメント・プログラム」               
     ジュニア・アチーブメントが開発したプログラムを米国内で約     
    270万人の生徒・児童が活用している。                         
                                                                   
(2)英国(スコットランド)の起業家教育プログラム                   
     スコットランドでは、政府の積極的な支援の下、小中高校の各段   
    階における体系的な教育プログラムが開発されており、多くの学校   
    において正式なカリキュラムとして採用されている。               
                                                                   
(3) 欧州各国の「ヤング・エンタープライズ」                         
     ベルギー、オランダ、英国、ドイツ、フランス、スウェーデン等   
    においては、「ヤング・エンタープライズ」と呼ばれる、若年者を   
    対象とした事業アイディアコンテスト等が実施されている。         
                                                                   
                                                                   
第4章:「起業家精神を有する人材」の育成・輩出に向けた提言         
                                                                   
1.大学等の高等教育について                                       
                                                                   
(1)課題                                                         
                                                                   
  a)学部・大学等の自己改革                                       
     大学等が、理工系・文科系の区分や学部・大学等の既存の組織の   
    垣根を超え、新たな取組みを実践することにより、自己改革を図る   
    必要がある。                                                   
                                                                   
  b)大学教員間の競争による意識改革                               
     教員の抜本的な意識改革を図るため、大学等は、任期制の活用に   
    よる教員の流動性の向上等を通じ、教員間の競争的環境を整備する   
    必要がある。                                                   
                                                                   
  c)幅広い学生を対象とした動機付け                               
     リスク回避志向が依然強い我が国の学生に対し、「起業」やベン   
    チャー企業への就職に対する十分な動機付けを幅広く行うことが重   
    要である。                                                     
                                                                   
 d)専門的・実践的な起業家養成教育の充実                         
     「起業」に対して一定の目的意識を有する学生に対しては、大学   
    院等において、起業スキルやマネジメント能力の向上に重点を置い   
    た、より専門的かつ実践的な教育の機会を提供していくことが必要   
    である。                                                       
                                                                   
(2)具体的施策                                                   
                                                                   
 a)大学等における文理・学部・学科等の枠を超えた交流機会の拡充   
      大学等において、文科系・理科系の枠を超えた学部・大学等の間   
    の交流授業や、理工系学生を対象とした経営・ビジネス教育等を充   
    実することが重要である。また、こうした取組みを行う大学等に対   
    し、政府等が公的支援を行うことについても、積極的に検討すべき   
    である。                                                       
     また、単位互換、学外施設等における学修の単位認定(注)に関   
    する上限(30単位)の引上げを含め、学部・大学等の間の交流機   
    会の拡大に向けた政府による環境整備が必要である。               
     (注)大学設置基準に基づき、a)他大学で履修した授業(単位互  
         換)や、b)学外施設等における学修については、30単位を  
         上限として、当該大学の卒業要件単位数(合計124単位)に  
         加算することができるものとされている。                    
                                                                   
 b)ベンチャー企業等に対するインターンシップの推進               
     政府等が、ベンチャー企業等を対象とするインターンシップの普   
    及のための環境整備を推進することが重要である。                 
                                                                   
  c)政府・産業界による「起業家養成講座」等に対する支援           
     一定の素養を持った学生や起業を希望する社会人に対しては、更   
    なるスキルアップのための専門的・実践的な教育機会が提供される   
    ことが重要である。このため、こうした「起業家養成講座」等を開   
    設する大学や公益法人等に対し、政府等が公的支援を行うことにつ   
    いても、積極的に検討すべきである。                             
     この際、産業界においても、教材提供や講師の派遣等の面におい   
    て積極的な協力が不可欠であり、これを円滑化するため、公的なデ   
    ータベースを整備すること等が必要である。                       
                                                                   
  d) 「起業家育成」に関する国際的連携の推進                      
     欧米の大学等の先進的なノウハウを積極的に活用するため、各大   
    学等が、ベンチャー・ビジネスに関する国際共同研究を積極的に推   
    進するとともに、講師や研究員の招聘、留学生の受入れ、単位互換   
    の促進等により、諸外国の大学やビジネス・スクールとの連携を強   
    化することが期待される。                                       
                                                                   
2.初等・中等教育について                                         
                                                                   
(1)課題                                                         
                                                                   
  a)チャレンジ精神を喚起するための多様な学習機会の提供           
     我が国の初等・中等教育においては、画一性、受験至上主義、知   
    識詰め込み等の問題点が指摘されているが、今後は、チャレンジ精   
    神、創造性、自己責任、問題解決力等の資質が育つような学習機会   
    を拡充することが必要である。                                   
                                                                   
  b)教員等の根本的な意識改革                                     
     教員が率先して、経済社会での実体験を積み、根本的な意識改革   
    を行うことが必要である。また、産業界の人材等を積極的に教員と   
    して登用していくことが重要である。                             
                                                                   
(2)具体的施策                                                   
                                                                   
  a)起業家精神の涵養のための教材の開発                           
     教育課程基準の次期改訂に当たり、新たに「総合的な学習の時間」 
    が創設されるなど、各学校の創意工夫を活かした特色ある教育活動   
    の一層の展開が期待されている。そうした中で、各学校等がそれぞ   
    れの判断により、起業家精神を涵養するための教育プログラムを選   
    択することも有効である。                                       
     このため、政府等は、産業界等の知見も活用しつつ、各段階に応   
    じて、自己責任、チャレンジ精神を高めるための教材の開発を行う   
    ことが必要である。                                             
                                                                   
  b)産業界による「ジュニア・アントレプレナー・スクール(仮称)」   
  開設に対する支援                                               
     生徒のビジネスに対する好奇心等を育てるためには、週末や長期   
    休暇期間において、ビジネスや社会の仕組みを体験的に学習するた   
    めの講座(「ジュニア・アントレプレナー・スクール(仮称)」)を   
    開設する経済団体等に対し、政府等が公的支援を行うことについて   
    も、検討すべきである。                                         
                                                                   
 c)生徒が成功した起業家等に触れる機会の拡充                     
     生徒が成功した起業家をはじめとする「ロール・モデル(職業選   
    択のモデルとなる具体的人物)」と接触する機会を拡充するため、   
    小中高等学校が、特別非常勤講師(注)として専門的な知識や技能   
    を有する起業家等を積極的に活用したり、「社会科」や「公民」の   
    授業の一環として起業家等を招聘する機会を拡充することも有効で   
    ある。                                                         
     また、政府等が、産業界の協力も得つつ、講師として相応しい人   
    材を学校に積極的に紹介するためのデータベースの整備を図ること   
    が必要である。                                                 
    (注)教員免許を持たない者であっても、一定の知識・技能を有し   
      ていれば、小中高校等の教員として登用する制度。             
                                                                   
  d)教員の企業研修の充実                                         
     教員の長期社会体験研修(注)において、大企業のみならず、活   
    力あるベンチャー企業における研修を充実することも検討すべきで   
    ある。また、政府・産業界においては、本研修制度の実施を円滑化   
    するため、受入れ先企業等に関するデータベースを整備することも   
    必要である。                                                   
    (注)小中高校等の教員を一定期間(概ね1ヶ月から1年程度)、   
        社会の構成員としての視野を広げる観点から、企業、社会福祉   
        施設等に派遣し、実地研修を行う制度。                       
                                                                   
3.社会人を対象とした起業家精神の高揚                             
                                                                   
(1)「企業内起業家(イントラプレナー)」の育成                   
   学生のみならず、既存の大企業等の人材を「企業内起業家(イント   
  ラプレナー)」として開花させていくことも重要である。このため、   
  大学、経済団体等において、イントラプレナー育成のための講座等を   
  拡充することが期待される。                                       
                                                                   
(2)ベンチャー企業を支援する者の養成                             
   我が国では、ベンチャー企業の成長をリスクを取って積極的に支援   
  するエンジェル(個人投資家)やベンチャーキャピタリスト等の人材   
  が極めて不足している。このため、こうした支援者に関する人材育成   
  が重要であり、企業ノウハウやファイナンス等の高度かつ専門的な教   
  育を行う大学院の充実が必要である。                               
                                                                   
                                                                   


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