金融政策だけで「デフレ脱却」はできない 池尾和人・慶応義塾大学教授に聞く

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「異次元の金融政策」を標榜するアベノミクスはどのような結果をもたらすのか。副作用やリスクはないのか。金融論が専門の慶応義塾大学の池尾和人教授に尋ねた。

──いわゆる「アベノミクス」をどう見ますか?

安倍政権の発足はタイミングがよかった。円高から円安に修正される動きは(安倍政権発足前の)昨年11月ごろから起きていた。欧州の信用不安が小康状態になったことに加え、米国の景気がかなり手堅いとの認識が広がり、投資家の態度が、いわゆる「リスクオフ」(リスク回避的な姿勢)から「リスクオン」(リスク志向的な姿勢)に変わったからだ。

安倍晋三首相以下のいろんな発言がこうした大きな潮目の変化を加速させ、強めていった。「今回は期待できる」と、消費者や企業のマインドも好転した。そのこと自体は、私は率直によいことだと思っている。

──物価や成長率を高めていく出発点として、アベノミクスでは「インフレ期待」(人々が、将来起きると予想する物価上昇の度合い)の役割が重要視されています。

消費者や企業のマインド改善は景気が回復する前提条件になる。いろんな機会をとらえて、消費者や企業のマインドが前向きになるよう働きかけていくことは、経済政策を運営していくうえで大切なことだ。

しかし、そのことと、インフレ期待を政策的に操作できるということは、似ているようで異なる。いろんなことをきっかけにして、インフレ期待が上向くことはありうる。しかし、たとえば、(民間の銀行が日本銀行に預ける)準備預金の残高を増やすとインフレ期待が高まる、といった主張は正しくない。

今の日本は(短期金利が)ゼロ金利の状態にある。こういう状態の下では、(日銀が準備預金の残高を増やせば物価が上昇するという)いわゆる貨幣数量説的な関係は成り立たない。金融政策を研究している世界の専門家の間でも、ゼロ金利の制約下では量的緩和は効かない、というのがむしろコンセンサスだ。

企業のマインドはすごく大切だ。しかし、やる気さえ見せれば期待を変えられるというのは、議論としておかしいと言わざるをえない。

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