燃費規制が厳しく強化される欧州で、48Vの電源を使ったベルト駆動のオルタネータ/モータで回生やアシストの効果を高めるマイルドハイブリッド車が注目されている。フルハイブリッド車よりも追加コストが安く、最大で15%程度の燃費改善を狙える同システムが2016年後半に実用化されそうだ。

 今から12年前の2001年、トヨタ自動車は「クラウン」に42V電源を使ったマイルドハイブリッド車を設定した。1997年に「プリウス」で初めて採用された2モータ式の「THS(トヨタ・ハイブリッド・システム)」の後に登場したものだが、コストの割に燃費改善効果が小さいという理由から姿を消した。

 しかし、ここにきて48V電源を用いたマイルドハイブリッド車が再び注目されている。理由は主に二つある。一つは、2020年にCO2排出量を95g/kmに削減するという厳しい燃費目標を掲げる欧州で、電動化は避けて通れないという認識が浸透し、フルハイブリッド車に比べればコスト上昇が少ない同システムが期待されているため。

 もう一つは、2011年にドイツの自動車メーカー5社が48V電源の規格「LV148」を策定し、実用化に向けて部品メーカーに協力を求めることで、48V対応の要素技術が整いつつあることだ。さらに、瞬時に高電流を出し入れできるLiイオン2次電池が普及し、従来の鉛蓄電池と違って、回生・アシストの効率を高められることも追い風になっている。

 もちろん48Vのシステムは、より高電圧のフルハイブリッドシステムに比べれば燃費改善効果は劣る。しかし、人体にとって危険な直流電圧の60Vよりも低い電圧を使うため、安全対策が楽になる。さらに、12Vのシステムと比べると電圧が高い分、モータを高出力化した際の損失を少なくできる。

 実際、欧州の動向を取材すると、部品メーカーなどから「実用化時期は2016年後半もしくは2017年」という声が多数聞こえてくる。また、エンジニアリング会社の英Ricardo社は、「世界で十数件の48Vシステムに関する開発プロジェクトがあり、日本でも1次サプライヤーと自動車メーカーとの二つのプロジェクトがある」とする。

 明確な製品化時期は公表していないが、欧州ではドイツAudi社やスウェーデンVolvo社などが試作車を作り、同システムを開発中だ。

 2011年に48V化への移行を表明したドイツ5社はAudi社、Volkswagen社、Porsche社、Daimler社、BMW社。このうち、Audi社は2012年に同技術を採用した先行開発車「iHEV」を公開した。同車は「A7」をベースとし、48Vのベルト駆動式オルタネータ/モータをフロントフード下に搭載、荷室に48VのLiイオン2次電池、DC-DCコンバータを配置した(図1)。このシステムでは、オルタネータ/モータと電動エアコンプレッサが48V駆動となり、その他の電装品用に12Vの鉛畜電池も搭載する。

 48V駆動のオルタネータ/モータで回生、アシストをするだけでなく、下り坂などでエンジンをアイドリングまたは完全停止させて惰性で走行するコースティング機能も採り入れた。この結果、約60kmのワインディングロードを走ったところ、エンジン停止時間は全走行時間の28%に達したとする。さらに、ナビの地図から勾配を予測し、下り坂にさしかかる前に早めにエンジンを停止する機能も備えることで、燃費は10%改善したという。

 フランスPSA Peugeot Citroenグループは2013年11月に開かれた48Vシステムに関する会議「Automotive 48V Power Supply Systems」で、48Vシステム搭載車のEMC(電磁環境両立性)対策技術について講演し、同社内での検討が進んでいることを示した。

以下、『日経Automotive Technology』2014年1月号に掲載
図1 Audi社の「iHEV」
図1 Audi社の「iHEV」
2012年に開発した48Vシステムの先行開発車。