<社説>夫婦別姓禁止合憲 「人権のとりで」を放棄した


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 民法の夫婦同姓規定が憲法に違反するかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁は合憲の初判断を示した。個人の意思に反して夫婦同姓を強制することは、個人の尊厳を保障する憲法に沿ったものとはいえない。世界では夫婦同姓を強いる規定はほとんどない。国会で法改正を急ぐべきだ。

 判決は「民法の規定に男女間の形式的な不平等はない」とした。実質的に判断すべきだ。夫婦で協議して決めた結果とはいえ、夫の姓を選ぶ夫婦が圧倒的多数を占めている。その背景には男系を重んじる風潮が根強く、女性がそれに従わざるを得ない側面もあろう。実質的な不平等は存在しているのである。
 一方で判決は「姓の変更でアイデンティティーの喪失感を抱いたり、社会的信用や評価の維持が難しくなったりするなどの不利益を受けるのは女性が多いとみられる」と理解も示した。そこに重点を置いて判断すべきだった。不利益を認めながらも、是正に踏み込まないとあっては「人権のとりで」の役割を放棄したに等しい。
 最高裁が「旧姓を通称として使用することが広まることで不利益は緩和される」としたことも疑問だ。事実婚では相続人とは認められず、子どもの親権も片方の親しか持てない。旧姓の通称使用が完全に認められるまで不利益を我慢せよということにならないか。
 選択的夫婦別姓制度を導入しても支障はない。別姓を選ぶ生き方は認められてしかるべきだ。家族の絆が壊れるなどとの指摘に根拠はない。自分の姓を大切にし、事実婚を選んだ人の家族に一体感がないと決めつけるのは失礼である。
 選択的夫婦別姓制度について最高裁は「合理性がないと断ずるものではない」とした。ならば、夫婦同姓規定が憲法違反であると判断し、国会に改正を求めるのが筋であろう。自ら判断することを避け、国会に判断を委ねるようでは、「法の番人」としての責任を果たしたとは認められない。
 法制審議会が答申した選択的夫婦別姓制度導入を盛り込んだ民法改正案は20年近く放置されている。民主党などがことし6月に共同提出した選択的夫婦別姓導入を柱とする民法改正案は審議されずに廃案となった。
 安倍政権は女性活躍を推進している。女性の社会進出の障害ともなっている夫婦同姓規定改正に取り組むことに不都合はないはずだ。