フジテレビのウェブニュースチャンネル「ホウドウキョク」が、10月24日にリニューアルを実施。従来のライブ配信に加え、テキスト記事・VR動画・短尺動画・インフォグラフィックスなど、オンデマンド配信を強化させた、総合ニュースサイトに生まれ変わった。

テキスト配信、短尺動画…ん? これはマイナビニュースに新しいライバルが出現か? 動向を偵察すべく、同局のニュースコンテンツプロジェクトリーダー・清水俊宏氏を直撃した――。


清水俊宏氏
1979年生まれ、横浜市出身。一橋大学卒業後、2002年にフジテレビジョン入社。政治部で小泉首相番や国会担当など。その後『新報道2001』ディレクター、選挙特番の総合演出(13年参院選・14年衆院選)『ニュースJAPAN』プロデューサーなど番組制作をいくつも手掛ける。現在はニュースメディア「ホウドウキョク」の戦略責任者、VR事業部なども兼務。NewsPicksプロピッカー、ハフィントンポストブロガーとしても活動。

オンデマンドコンテンツで"接地面"増強

「ホウドウキョク」は、昨年4月に24時間のニュースチャンネルとしてスタート。地上波の限られた放送枠では出し切れない豊富なニュース素材を出せるようになったことで、きめ細かな情報の発信、そして記者のバイタリティ向上による地上波への還元など、一定の成果は出たものの、ライブストリーミング配信だけでは「5分の待ち時間や電車の中では、そのとき何をやっているかが分からない」(清水氏)と、十分に視聴者へ訴求できていなかった。

そこで、今回のリニューアルでオンデマンドコンテンツを強化。従来のライブ配信からテキストに起こしたり、短尺に編集したりと再加工することで、「"接地面"を増やして、お客さんに来てもらう」(同)と狙いを語る。

こうしたコンテンツを、TwitterやFacebookといったSNSに出すことによってユーザーの属性も把握し、どの年代がどのようなニュースやコメント・解説に興味を示しているかというデータの蓄積にもつなげている。清水氏は「『このニュースに対して、ネット上ではこういう意見があって反響があります』というのを、地上波でもやりたいと思っています」と、地上波へのさらなる還元も視野に入れている。

そして、今回のリニューアルで注目なのは、360度のVR(バーチャルリアリティ=仮想現実)動画の配信だ。清水氏は、東日本大震災の被災地を取材した経験を踏まえ、「これまでのテレビの手法だと、『建物の15.9mの高さまで津波が来ました』というのは、ビルの3階まで矢印をひいて表現していました。でもこれでは縮尺で見せているので、実感がわかないですよね。ところがVRだと、実際に見上げて高さを体感することができるんです」と活用ケースを想定する。

こうした新たな技術への取り組みについて、清水氏は「いまや速報性ではSNSに勝てないんですよね。そのときにメディアができることは、VRや、視覚的に情報・データを表現するインフォグラフィックスなどで、どう伝えられるかという方法を考えていくことだと思っているんです」と意義を強調。その実験ができる作業の場が「ホウドウキョク」で持てたことも重要で、この点でも地上波への還元に寄与できると考えているそうだ。

360度VR動画イメージ

ウェブ参入で「テレビのファンを作る」

リニューアルから2週間が経過したが、「ありがたいことに評判も良くて、PVも上々です」と手応え。今月8日に発生した福岡・博多駅前の道路陥没事故の際は、ライブストリーミングに多くのアクセスが集まり、短尺動画やテキスト記事も多数掲載された。

翌9日には米大統領選があったが、バラエティ色の強い地上波の番組『バイキング』に随時「ホウドウキョク」のスタジオから情勢を解説し、動画を見られない環境のユーザーのためには、刻一刻と変わる開票状況を「テキスト中継」という形で速報した。トランプ氏勝利のテキスト記事に対しては、Facebook等でも多数の反応・コメントが寄せられており、その中には「こうした記事を読むと、トランプ氏が非常に冷静でリーダーシップがあると思えて、色々な意味で考えさせられる」というものがあった。「ホウドウキョク」は"あの人なら、こう考える"という新コンセプトを掲げており、狙いどおりといったところだろうか。

スマートフォン画面の表示イメージ

テレビ局であるフジテレビがウェブニュースへ参入することについて、「電車の中ではみんなスマホでニュースを見てますよね。どんなにテレビ好きでも、そのタイミングでテレビを見るのは無理なので、スマホ向けにコンテンツを出そうと考えるのは、実に当たり前のことなんです」と清水氏。同局は、いち早く映画事業に本格参入し、夏の大規模イベントについてもパイオニアだが、「結局テレビにお客さんが返ってくるんです。テレビじゃないところに手を広げていくことは、テレビのファンを作ることとイコールだと思うんです」と語る。

清水氏は、今回のリニューアルに当たり、アメリカでBuzzFeedやHuffington Post、Vice Mediaといったウェブニュースメディアを視察したそうだが、「彼らが一様に言うのは、ネットで何をやったら絶対にウケるのかはいまだに分からないということ」と知って、「彼らが考え付かない手法を考えつけば、間違いなく勝てる」と自信を深めたそうだ。

フジテレビは約100人の記者を抱え、国会や首相官邸、各省庁、さらには、ワシントン、ロンドン、パリ、北京などにまで常駐している。その取材力を持って、24時間体制で日々ニュースコンテンツが増産される上、開局から57年間にわたって蓄積されたアーカイブ映像もある。清水氏は「ネット上では新参者ですけど、負けないものにしていくという心意気だけは持っています」と鼻息が荒い。これはマイナビニュースをはじめ、ウェブニュースにとって、強力なライバルとなりそうだ。