2016年8月9日、ブロックチェーン推進協会(BCCC)はメディア向けに「今さら聞けないブロックチェーン基本講座・メディア編」と題した勉強会を開催した。金融機関を中心に注目が集まるブロックチェーン技術に関する情報を提供し、啓発活動を行うのが狙いである。

登壇した日本マイクロソフト エグゼクティブプロダクトマネージャー 兼 BCCC理事 普及委員会委員長の大谷健氏は、経済産業省が2016年4月28日に発表した「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」を引用し、「ブロックチェーン市場の規模は67兆円に及ぶ」と語った。これらの経済効果は、ブロックチェーン技術単独で生み出されたのではなく、既存市場や新規市場に対して技術を用いることで相乗的に生み出されたのだと説明する。

日本マイクロソフト エグゼクティブプロダクトマネージャー 兼 BCCC理事 普及委員会委員長 大谷健氏

ブロックチェーンとは、分散型(非中央集権型)で参加者がデータを保持し、その正しさを全員が保証することで金融や権利登録、医療記録といった各分野での活用が期待されている技術だ。端的な言葉にすると「分散された台帳を参加者全体で共有するためのプロトコル」となるが、そのままでは分かりにくいため、大谷氏は「5つの『ない』」というキーワードを元にブロックチェーンの概要を次のように説明した。

  1. サーバがない(分散型=非中央集権)
  2. ダウンタイムがない
  3. コストが高くない
  4. 改ざんができない
  5. 処理能力が速くない

1番目は繰り返しになるため割愛するが、2番目の「ダウンタイム」は、サーバ上でデータを管理する中央集権型と異なり、皆でデータを持ち合う非中央集権型のため、クラウドやストレージサーバのようにメンテナンスタイムが不要という意味だ。3番目の「コスト」だが、一般的な金融勘定系は冗長性を維持するため、複数の高額なサーバを立ち上げなければならない。だが、ブロックチェーンは非中央集権型のため同じく不要である。4番目の「改ざん」は各ブロックが情報を記録し、次のブロックにつなげる(=チェーン)というブロックチェーンの特徴を列挙したものだ。

ブロックチェーンは各ブロックにハッシュ値(指紋のようなもの)を保持し、チェーンが長くなればなるほど、改ざんするためのコンピュータリソースが増加する。そのため、改ざんする動機付けが弱くメリットにつながらない。そして5番目は前述の金融勘定系の高額なサーバと比較した際の特徴だ。一般的には何万ものトランザクションを秒単位で処理しているが、ブロックチェーンは現時点でそこまでのレベルに達していないと大谷氏は説明する。だが、海外の金融機関では、プライベート型ブロックチェーンですでに高速処理を行う実証実験に成功しており、この点も解決しつつあるという。

現在のブロックチェーンは取り引きや手続きの登録、履行の記録などを実現する「スマートコントラクト」のレベルに進みつつある。スマートコントラクトは、1990年代にコンピュータ科学者であるNick Szabo氏が提唱した概念で、日本語に置き換えると「契約の自動化」だ。Szabo氏の説明を引用すると、利用者が必要な金額を投入し、特定のドリンクのボタンを押す自動販売機の販売スタイルがそれに当たる。「これをブロックチェーンの中で実現し、自動化させるのがスマートコントラクトの世界」だという。

スマートコントラクトの概念を簡単に説明したスライド。Szabo氏も自動販売機を例に説明している

スマートコントラクトの世界を広げるには、ミドルウェアを提供する企業の存在が必要だ。もちろん1からコーディングすることも可能だが、素早くビジネスにつなげていくには、ミドルウェアとIoTデバイス/アプリケーションが連携することで、「初めてブロックチェーンの世界が広がっていく」と、同氏はブロックチェーン技術を用いたビジネスソリューションの展望を披露した。

ブロックチェーンの展開に必要な各技術レイヤー。大谷氏はミドルウェアを活用することで、素早い展開が可能になると語る

今後、ブロックチェーン技術が用いられる業界として、通貨系に類するクーポンやポイント、チケットなどに加え、情報を改ざんできないというメリットを活かして、自治体の登録情報や医療記録、製造記録、流通の履歴管理への展開も期待が持てるだろう。すでにウクライナなどでは選挙の投票システムにブロックチェーンを用いており、業種を問わない展開が始まっているという。スマートコントラクトの実現により、UberやAirbnbに代表されるシェアリングエコノミーの分野にも用いられる可能性を踏まえ、大谷氏は「非中央集権型であるブロックチェーンの世界が広がっていく」と展望を語った。

BCCC普及委員会はブロックチェーンの推進を目的に、2016年9月からビジネスユーザーや技術者を対象にした勉強会を定期的に開催。また、日本国内のブロックチェーンを活用するエンジニアや、導入を検討するBCCC会員企業の担当者向けに、教育カリキュラムを実施する「ブロックチェーン大学校」を今月から開校すると発表した。

阿久津良和(Cactus)