金星に渦巻く分厚い雲(周回軌道から2007年に撮影)

Image courtesy MPS/DLR/IDA/ESA
 欧州宇宙機関(ESA)の探査機から得られた新しいデータから、金星は天文学者が考えていたよりかなりゆっくりと自転していることがわかった。 金星の自転周期は、1990年代に行われたNASAの金星探査機マゼランのミッションにおいて、軌道を周回する探査機の下を通過する地形の速度から、地球の243.015日だと算出されていた。

 しかし、欧州宇宙機関(ESA)の金星探査機ビーナス・エクスプレスで金星の地表をマッピングしている科学者チームは意外にも、先行測定の予想から最大で約20キロメートル離れた場所で同じ地形を見つけることになった。

 新しいデータでは、金星は16年前よりも6.5分遅い周期で自転している。この結果は、地球から行われたレーダーによる長期観測と一致することが確認されている。

 ドイツ航空宇宙センター(DLR)のニルス・ミュラー氏(惑星学)は声明で、「2つのマップが対応せず、最初は私が計算を間違ったのだと考えた。(金星の回転の)数値をマゼランはとても正確に測定していたからだ」と述べている。「しかし、考えられる間違いはすべて確認した」。

◆濃厚な大気が原因か

 自転が遅くなった原因の1つに、金星の分厚い大気と高速の風による摩擦が考えられる。例えば、規模はずっと小さいが、地球でも大気の動きが自転の速度に影響することが観測されている。

 二酸化炭素をたくさん含んだ重い大気に覆われた金星は、地球の海面位の約90倍の圧力が地表にかかっており、腐食性の硫酸からなる不透明な雲が、ハリケーン並みスピードで絶えず取り巻いている。

 しかし、ビーナス・エクスプレス計画に参加する科学者ハカン・スヴェデム(Hakan Svedhem)氏は、「平均自転速度をわずか16年間でこれほどまで変化させるような仕組みはなかなか見つからない」とナショナルジオグラフィック ニュースに語った。

「太陽の活動周期や、大気のダイナミクスを変化させる長期の天候パターンに原因があるのかもしれない。しかし、謎はまだ解けていない」とスヴェデム氏は言う。 一部報道では、考えられる原因の1つとして、金星と地球の間の角運動量の交換が挙げられている。例えば、衛星と惑星が角運動量を共有することで、衛星によって惑星の自転が予想より遅くなるということはある。

 しかし、金星と地球は最接近時でも3800万キロ離れており、「金星と地球との間では運動量の交換はない」とスヴェデム氏は説明する。

 金星の自転速度がわずかに低下した原因を見極めるには、さらなる研究が必要なのだという。

 今後の金星探査のミッションで着陸地点を決めるために正確な情報が必要になるため、結局は、金星の自転のスピードを正確に知ることが重要になるとスヴェデム氏は語った。

Image courtesy MPS/DLR/IDA/ESA

文=Jason Major