ハイチのプティ・ゴアーブの住民が、2010年1月に発生した地震の状況を倒壊した建物の近くで説明している(津波発生前に撮影)。

Photograph courtesy Hermann M. Fritz
 2010年1月12日にハイチを襲い壊滅的な被害をもたらした大地震。専門家の発表によると、この地震によって異常な津波が発生し、複数の家屋が倒壊、3人が死亡したという。 地震後の数週間は被害調査や被災者の救助が最優先に進められてきたが、現在は二次災害にも注目が集まりつつある。例えば津波だ。

 その規模は平均波高およそ3メートルの荒波で、ポルトー・プランス湾沿岸、さらに湾と反対側のイスパニョーラ島南岸に押し寄せた。ハイチは、隣のドミニカ共和国とイスパニョーラ島を二分している。津波はポルトー・プランス付近の震央(震源の真上)から100キロほどの沿岸部も襲った。

 ハイチにあるクイスクエヤ大学(Quisqueya University)のチームと共同で今回の津波を研究したジョージア工科大学の土木・海岸工学者ハーマン・フリッツ氏は、「カリブ海で津波は滅多に襲わないとしても安心はできない。ドミニカ共和国で2000人もの死者を出した1946年の例もある」と話す。

 さらに、今回の津波は通常と様相が異なる。ハイチ地震はマグニチュード7.0だったが、それを大きく上回る規模の地震でなければ津波は発生しないからだ。フリッツ氏率いるチームによるこの研究結果は、2010年2月24日にオレゴン州ポートランドで開催されるアメリカ地球物理学連合の海洋科学会議で発表される。

「この津波はカリブ海諸国への警告だ。今回以上の大地震と悪条件が重なれば、さらに大型の津波が発生する可能性もある」と同氏は言う。

 フリッツ氏ら研究チームは、津波の検証のためにハイチを訪れた。米国海洋大気庁(NOAA)がカリブ海に設置した複数のブイがその発生をとらえている。同チームは、衛星画像から津波の到達地点に当たりを付け、堆積した砂や漂流物、木の残骸など直撃の痕を発見した。

 さらに今回は2種類の波が沿岸を襲ったことも明らかになった。海底プレートの移動による地殻変動が引き金となる津波と、地震後の不安定な陸地が海面に崩れ落ちて発生する地滑りによる津波だ。

 地殻変動による津波の場合は、波が沿岸部に到達するまでに数分から数時間かかることが多いため、危険察知に長けている者であれば安全な場所へ避難できる猶予がある。地滑りによる津波は局地的に発生し、たいていの場合は規模が小さい。

 ポルトー・プランス湾沿岸の町グラン・ゴアーブでは、海岸にいた男性1名と少年2名が地滑りによる津波で死亡したことが同チームの調査により判明した。海岸沿いの家々も波に呑まれ流されていた。死亡した3名は地震の生存者だった。浜辺を訪れていたのは避難のためではなく、押し寄せる大波を”見学”するためだったという。

「津波の恐ろしさをよく知る人なら、地震を感じたらまずは海岸から離れようとする」とフリッツ氏は話す。「さらに引き波の跡に魚が残されていたら、内陸部に避難する第二の合図となる」。しかし西半球最貧国の浜辺には警告標識などなく、津波に対する基本的な備えが欠けていた。

 今回の記録的な大災害からの復興に際して、津波の危険性を一般に広めていくことが重要だと同氏は話す。ハイチ地震は過去200年以上の間で最大規模だったが、今後さらに大きな地震や津波が発生する可能性もあるからだ。「今回の軽微な被害に安堵している暇はない」と同氏は警告している。

Photograph courtesy Hermann M. Fritz

文=Christine Dell'Amore