【動画】アラスカの湖からメタンの泡の悪循環

「今は北極の冷蔵庫が開きっぱなし」と研究者

2016.09.05
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
アラスカの湖から出る泡は可燃性のメタンガス。強力な温室効果ガスのひとつだ。

 北極の近くにある湖が、魔女の釜のようになり始めている。

 上の動画で紹介している光景は、北極周辺でよく見られる。これらの地域では、地球温暖化によって気温が上昇し、凍っていた地面が解けている。すると永久凍土は固い土壌から柔らかい泥に変わり、中に閉じこめられていたガスが放出されるのだ。

 ガスのほとんどはメタン。最後の氷河時代以前に死んだ太古の生物を餌とする微生物が作り出す。メタンの泡はときにゆっくりと、ときに激しく表面に上がってくる。

アラスカ大学が研究中

 凍土が解けると、地すべりや陥没が起きて、地表の植生や建物、パイプライン、道路などに被害が出る。くぼみに雨水がたまってサーモカルスト湖と呼ばれる湖ができることもある。(参考記事:「実はヤバい永久凍土」

 動画でも説明されているように、米国アラスカ大学フェアバンクス校(UAF)とNASAの北方林脆弱性実験(ABoVE)の科学者たちは、北極地方の凍土が解けることによって放出されるメタンを計測している。湖で発生する泡を計測したり、場合によっては組成を調べるためにガスに火をつけたりすることもある。

 研究チームは、地上での観測と衛星からのデータを組み合わせ、メタンガスが増えることによる環境への影響を把握しようとしている。

 メタンは、地表近くに熱を留める温室効果ガスだ。メタンが熱を吸収する力は、二酸化炭素より25倍も強い。地球温暖化の話題では、大気中に含まれる量が多い二酸化炭素が取り上げられることが多いが、メタンも気候変動に大きな影響を及ぼしていると科学者たちは考えている。(参考記事:「3NOPが牛のげっぷ中のメタンを3割減らす」

「メタンを構成する炭素は、何万年もの間、永久凍土に閉じこめられていました」。ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーで、UAFの教授であるケイティ・ウォルター・アンソニー氏はかつてそう話した。「今は、冷蔵庫の扉が開きっぱなしになっているようなもので、北極地方の湖の底から炭素が放出され続けています」

【フォトギャラリー】メタンは善か悪か

エネルギーとして活用できないか

 世界の永久凍土には9500億トンの炭素が閉じこめられていると見られている。凍土が解けると、シベリアの湖からだけでも500億トンのメタンが大気中に放出される。

 ウォルター・アンソニー氏は「これは、現在大気中にあるメタンの10倍の量です」と話す。「メタンは熱の吸収効率が高いので、気温の上昇量や上昇速度が上がることになるでしょう」

 それにより地球温暖化が進めば、永久凍土の融解も進み、さらにメタンが放出されるという悪循環に陥る。

 一方でアンソニー氏は、地中から放出されるメタンをエネルギーとして活用する方法を探っている。実現すれば、とりわけ既存の電力網が行き届かない地域にはメリットが大きい。小規模なプロジェクトでは、成功例も出始めている。(参考記事:「メタンは善か悪か」

文=Brian Clark Howard/訳=鈴木和博

  • このエントリーをはてなブックマークに追加