日経メディカルのロゴ画像

【使用上の注意改訂】
SSRI・SNRIによる自殺企図のリスク

2006/04/03
北村 正樹=慈恵医大病院薬剤部

18歳未満の患者に使用が可能になったSSRI「パキシル」

 今年1月、うつ病治療の中心的な薬剤であるSSRI選択的セロトニン再取り込み阻害薬)とSNRIセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)の添付文書が改訂された。具体的には、SSRIの塩酸パロキセチン(商品名:パキシル、写真)で、18 歳未満の患者(小児患者)への使用に関する制限が撤廃されるとともに、すべてのSSRIおよびSNRIの添付文書に自殺企図のリスク増加に関する注意書きが追加された。これらは、臨床試験結果に基づく欧米規制当局の対応に、わが国の厚生労働省が歩調を合わせたものである。

パロキセチンは、これまで「18歳未満の患者(大うつ病性障害患者)」が禁忌とされていた。これは、海外での小児・青年期を対象とする同剤の臨床試験で、18歳未満の患者(大うつ性障害)に有用性が確認されず、また、自殺に関するリスクの増加を示唆する報告があったためである。パロキセチンは、国内では2000年から発売されているが、上記臨床試験の結果を受けて英国で「禁忌」の措置が採られたことから、日本でも2003年8月から、これら患者への投与が禁忌となっていた。

 しかしその後、欧米の規制当局が、パロキセチン以外の抗うつ薬全般についても同様な臨床試験を行ったところ、「大うつ病性障害及び他の精神疾患を有する小児等の患者」に対しては、すべての抗うつ薬において、投与により自殺念慮及び自殺企図のリスクが高まることが明らかになった。しかしその一方で、抗うつ薬による恩恵を受けている患者も少なくないことから、米国では、これら小児患者を抗うつ薬の投与禁忌対象にはしないことを決定した。さらに2005年4月には、英国も先述の禁忌措置を見直すに至った。

 こうした動きを受け、日本は2006年1月、厚生労働省の諮問機関(薬事・食品衛生審議会 医薬品等安全対策部会 安全対策調査会)が、下記の理由(表1)により、パロキセチンの「禁忌」項目を削除することを答申。パロキセチンの添付文書が改訂されることになった。

表1 パロキセチンの禁忌が削除された理由(安全対策調査会の答申から抜粋引用)

1. 市販後に18歳未満の患者で自殺関連の国内副作用報告がないこと
2. 18歳未満の大うつ病性障害患者に対する薬剤の有用性を示唆する症例報告があること
3. 日本児童青年精神医学会から治療の選択肢として必要であるとの要望があること
4. 現時点で、米国、欧州では禁忌事項に該当していないこと

 ただし、この禁忌が削除された代わりに、医療関係者に注意を促す意味で、「18歳未満の大うつ性障害患者に投与する場合には、適応を慎重に検討すること」(一部省略)という「警告」が新たに設けられることになった。

 一方、パロキセチンの禁忌措置の見直しとほぼ同時に、パロキセチンに加え、SSRIのマレイン酸フルボキサミン(商品名:デプロメールルボックス)、およびSNRIは塩酸ミルナシプラン(商品名:トレドミン)に関しても、自殺企図のリスク増に関連して添付文書が改訂された。具体的には、「効能・効果に関連する使用上の注意」の項目が3剤で統一され、「抗うつ剤の投与により、18歳未満の患者で、自殺念慮、自殺企図のリスクが増加するとの報告があるため、抗うつ剤の投与にあたっては、リスクとベネフィットを考慮すること」という記述になった。

 また「慎重投与」の項目に、「自殺念慮又は自殺企図の既往歴のある患者、自殺念慮のある患者」が追加され、「重要な基本的注意」の事項にも、うつ病・うつ状態の患者及び他の精神疾患を有する患者での自殺企図のおそれについて注意喚起を強化した項目が追記されている(下表)。このうち、1回処方量の制限などに関しては、三環系や四環系などほかの抗うつ薬でも、同様の添付文書改訂が行われている。

表2 SSRI・SNRIの「重要な基本的注意」に追加された主な内容

1. 患者の病態の変化について十分観察する
2. 自殺手段の一つである大量服用を防止するための1回処方量の制限を行う
3. 自殺念慮や自殺企図のリスクについて患者の家族等への十分な説明を行う必要がある
4. 大うつ病エピソードが双極性障害の初発症状であることから、その鑑別診断を必ず行う

ワンポイント
 現在、うつ病における薬物治療では、有効性・安全性の面からSSRIやSNRIが主流となっているが、特に安全面で高い評価を受けている。従来の三環系や四環系の抗うつ薬は、抗コリン作用による口渇や、起立性低血圧に起因するめまいや立ちくらみなどの副作用があり、治療継続に支障を来たす場合が少なくなかったが、SSRIやSNRIでは、これらの副作用が少ないとされる。わが国では、SSRIはマレイン酸フルボキサミン(商品名:デプロメール、ルボックス)、塩酸パロキセチン(商品名:パキシル)の2種類、SNRIは塩酸ミルナシプラン(商品名:トレドミン)の1種類が臨床使用されている。

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ