爪印(読み)ツメイン

デジタル大辞泉 「爪印」の意味・読み・例文・類語

つめ‐いん【爪印】

自署花押、また印章などの代わりに手の指先に墨・印肉を付けて捺印なついんしたもの。拇印ぼいん爪判つめばん。爪形。
[類語]拇印指印血判

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精選版 日本国語大辞典 「爪印」の意味・読み・例文・類語

つめ‐いん【爪印】

〘名〙
① 花押(かおう)または印章の代わりに指先に印肉をつけておすこと。また、その印。爪判。爪形。普通、幼年者、女子もしくは無筆者にみられたが、印判を持ちあわせていないため行なわれた場合もある。〔禁令考‐後集・第四・巻三一(江戸中後か)〕
② 江戸時代の刑事裁判で、被疑者が口書(くちがき)捺印する場合に用いられた印。重罪にあたる被疑者は吟味中入牢させられ、普通、印を所持していないため、この方法がとられた。ただしこれは庶民に限られ、武士には書判(かきはん)を書かせた。爪判。〔市尹秘録‐一・吟味方勤方之事(1798)(古事類苑・法律五八)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「爪印」の意味・わかりやすい解説

爪印 (つめいん)

爪痕(あと)を印としたもの。爪判(そうはん),〈そういん〉ともいう。紀元前8世紀のメソポタミア楔形(くさびがた)文字の粘土版に見える。これは土地売買の契約証文であり,世界最古の爪印資料である。日本の爪印資料は14世紀のものが知られているが,最近の研究では9世紀にまでさかのぼる資料の確認ができた。8世紀の奈良時代に中国から伝わって慣習法として後世に普及したこととなる。近世日本の爪印は天皇裁可や吟味物(火付,人殺し盗賊など重科のもの)には常用されていて,宗門改めには〈15歳以下60歳以上には爪印をさせた〉と文献に見える。1873年(明治6)の太政官布告は,爪印を花押(かおう)とともに裁判上の証拠として無効とし,実印だけの効力を認めた。爪印は墨を爪にぬって紙面に印することよりも,紙面に爪痕をのこす方法がもっぱらとられたため,消えやすく後世にはのこらない。研究の難点はここにある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「爪印」の意味・わかりやすい解説

爪印
つめいん

爪判(つめばん)、爪形(つめがた)、拇印(ぼいん)ともいう。親指の先に印肉をつけて押捺(おうなつ)し、印判(いんぱん)、書判(かきはん)のかわりとした。平安末期からみられ、江戸時代には戸主以外の庶民はほとんどこれを用い、訴訟当事者や罪人の口書(くちがき)にも爪印が押された。

[編集部]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「爪印」の解説

爪印
つめいん

花押や印章のかわりに指先に印肉をつけて押すこと。江戸時代から,しだいに庶民の間で印が用いられるようになったが,女子は印判をもたない建前だったので爪印を用いた。遊女の請状などでは,遊女になる女子が爪印を押した例が多い。男でも印判の持合せのないときや,戸主でない者による証文で用いることがあり,若者仲間の議定などにみることができる。離縁状に爪印を押す習慣だった地方もある。1873年(明治6)7月5日に太政官布告で,同年10月1日以後の証書への使用を禁止された。

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普及版 字通 「爪印」の読み・字形・画数・意味

【爪印】そういん

爪痕。

字通「爪」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の爪印の言及

【爪印】より

…紀元前8世紀のメソポタミア楔形(くさびがた)文字の粘土版に見える。これは土地売買の契約証文であり,世界最古の爪印資料である。日本の爪印資料は14世紀のものが知られているが,最近の研究では9世紀にまでさかのぼる資料の確認ができた。…

【拇印】より

…そのため指印といわれることもある。また古くは爪印ともいわれた。指紋によって本人が押したかどうかを識別することが可能であるので,押印する必要がある者が印章を持ち合わせていない場合に臨時のものとして用いられることがある。…

【略押】より

花押(かおう)の代りに用いられた簡略な記号,符号。略花押ともいい,古文書学上の名辞。花押を署記するだけの執筆能力のないもの,花押をもたない女性,未成年者などの間に用いられた。12世紀前半の大治~保延(1126‐41)ごろから現れ,中世を通じて,起請文(きしようもん),土地売券(ばいけん)などに多く用いられて17世紀に及んだが,印章(印判)使用の風が16世紀後半から広く庶民の間に広がり,江戸時代に入って,百姓町人が公式の届書に印章を押捺するようになると,17世紀中ごろ(寛永期)を境として,庶民の花押使用が激減し,それにともなって略押の使用例も急速に減少し,やがて消滅する。…

※「爪印」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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