コラム:サウジとイランの断交、ホルムズ危機なら原油急騰
Andy Critchlow
[ロンドン 4日 ロイター BREAKINGVIEWS] - イランとサウジアラビアの外交関係悪化は、原油市場にとって「ブラックスワン」の到来かもしれない。予測が難しいのに、起きれば大きな衝撃的状況となり得る。中東の大国である両国が公然と紛争に陥れば、世界の原油供給の5分の1近くを担うホルムズ海峡経由の輸送が危うくなる。
イランとサウジの関係は、サウジ王室に批判的だったシーア派有力指導者ニムル師をサウジが処刑する前から沸騰点に達していた。両国はそれぞれシリアとイエメンで代理戦争を繰り広げ、サウジが推し進める増産による油価押し下げ戦略で、イランも犠牲を強いられていた。3日に発生したイランの首都テヘランのサウジ大使館襲撃事件で両国の外交関係は緊迫化し、全面的な紛争に発展する可能性が出てきた。
仮にサウジとイランが戦争状態となる場合、イラン政府がサウジを叩く最も露骨な手段は、ホルムズ海峡経由の原油輸出の遮断だろう。ホルムズ海峡はイランとアラビア半島に挟まれ、同海峡を通過するタンカーが輸送する原油は日量約1700万バレルに達する。ホルムズ海峡が武力紛争で通航不能となれば、過去最高水準にある世界の原油在庫は減少し始めるだろう。イランの影響力拡大に異を唱えている中東湾岸のサウジ同盟国にも影響は及ぶことになる。
そうなった場合サウジもイランも打撃を受けるが、痛みの度合いはイランの方が小さくて済む。米エネルギー省の推計によると、サウジは日量720万バレルの原油輸出のうち3分の1弱はホルムズ海峡を迂回できそうだ。それでもしかし輸出の落ち込みはサウジ経済にとってきつい試練となるだろう。
一方のイランは国際的な経済制裁を受けており、ホルムズ海峡経由の輸出は日量140万バレルにすぎない。イランは石油輸出収入がない状態が何年も続き、それに適応せざるを得なかった。
原油市場への影響はどうだろうか。サウジとイランの対立が間接的なものにとどまれば原油安が続くだろう。しかし関係悪化がさらにエスカレートすれば原油価格は100ドルに向けて跳ね上がる可能性があり、リスクは明らかに値上がり方向にある。
●背景となるニュース
*サウジアラビアによるシーア派有力指導者ニムル師の処刑を受けてイランの首都テヘランでは3日、サウジ大使館が襲撃され、サウジがイランとの外交関係を絶った。サウジ政府はイランの外交官などに対して国外退去を命じた。
*サウジとイランは原油増産問題でも対立している。サウジが石油輸出国機構(OPEC)を主導し、イランの懸念を押し切る形で油価を押し下げる戦略を進めたため、北海ブレント原油は昨年4月以来47%近く値下がりした。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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