カンピロバクター食中毒の現状と対策について
(Vol. 31 p. 4-5: 2010年1月号)

1.カンピロバクター食中毒の発生状況(厚生労働省食中毒統計1) より)
1)カンピロバクター食中毒は、患者数2人以上事例の事件数、患者数ともに増加傾向を示しており、近年は年間患者数2,000〜3,000人に達している(図1)。また、1997年より、患者数1人事例の事件数が急激な増加を見せているが、これはこの頃より一部の自治体で患者数1名の散発食中毒事例が多数報告されるようになったことが大きく影響している。

2)原因食品は、鶏肉や牛レバー等の肉類およびその加工品が多くを占め、肉の生食や加熱不十分が主な要因であるが、調理課程における二次汚染による食中毒が起こりやすい傾向もある。

3)病因物質は、Campylobacter jejuni C. jejuni )が大半を占めており、2008年の患者数2人以上の事件数299件のうち、C. jejuni と確定した事件数は247件となっている。

4)原因施設としては、飲食店がその大半を占めている。

5)発生時期は5〜7月にかけてピークとなるが、年間を通じて散発事例が多いという特徴がある(図2)。

2.カンピロバクター食中毒の予防対策
鶏肉生産の大規模化等により、鶏肉の消費量が増大する中、カンピロバクター等の鶏肉に起因する食中毒が発生していることや、牛生レバーに起因する食中毒が発生していることなどを受け、主に次の対策を講じてきたところである。

1)食鳥処理の事業の規制および食鳥検査に関する法律の施行(1991年)
 (1)食鳥処理場の衛生的な構造設備基準の設定
 (2)衛生管理基準の設定
 (3)処理工程での生体検査による疾病り患食鳥肉の排除、等

2)食鳥処理場におけるHACCP方式による衛生管理指針の策定(1992年)

3)と畜場法の施行令および施行規則の一部改正(1996〜1997年)
 (1)HACCP方式による衛生管理手法の導入
 (2)と畜場の衛生的な構造設備基準の設定
 (3)衛生管理基準の設定

4)HACCP調査研究事業:食鳥処理場の危害分析情報のデータベース化(2003年)

5)「カンピロバクター食中毒予防Q&A」(http://www.mhlw.go.jp/qa/syokuhin/campylo/index.html)の公表(2005年)
 (1)食肉の十分な加熱調理(中心部を75℃以上で1分間以上加熱)
 (2)食肉からの二次汚染の防止
 (3)今日の食肉または食鳥処理の技術では食中毒菌を 100%除去することは困難であるため、牛の生レバーや生の鶏肉の喫食を避けること

6)食鳥処理場におけるHACCPジェネリックモデルの普及(2006年)

3.カンピロバクターの汚染実態調査
1)中央卸売市場等を管轄する19自治体において実施された2008(平成20)年度食品の食中毒菌汚染実態調査(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/060317-1.html)における鶏肉、牛肉および豚肉関連品目のカンピロバクター属菌検査結果は表1のとおりであり、鶏肉関連品目が高率で汚染されていた。

2)2001年に実施された市販の鶏肉および健康な牛の肝臓のカンピロバクター汚染率は表2のとおりで、鶏肉は高率で汚染され、また、牛の肝臓は内部まで汚染されているとの報告2) がある。

3)2005年に実施された市販の鶏肉のカンピロバクター陽性率は、冷蔵肉201検体で72%、冷凍肉30検体で37%であったとの報告3) がある。

4)2005年に実施された輸入鶏肉のカンピロバクター陽性率は、ブラジル産30検体で56.7%、タイ産13検体で61.5%、中国産12検体で16.7%、米国産5検体で20.0%であったとの報告3)がある。

5)2008年に実施された市販の国産鶏肉のカンピロバクター陽性率は、84検体で41.8%であったとの報告4) がある。

 参照文献
1)厚生労働省食中毒統計資料
 http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/04.html#4-2
2)品川邦汎、食品製造の高度衛生管理に関する研究、厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業(2001)
3)渡辺治雄、食中毒菌の薬剤耐性に関する疫学的・遺伝学的研究、厚生労働科学研究費補助金 食品安全確保研究事業(2005)
4)渡辺治雄、薬剤耐性食中毒菌サーベイランスに関する研究、厚生労働科学研究費補助金 食品の安心・安全確保推進研究事業(2008)

厚生労働省医薬食品局食品安全部
監視安全課・食中毒被害情報管理室

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