劇場公開日 2014年1月11日

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ジャッジ! : インタビュー

2014年1月9日更新
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名コンビ誕生!妻夫木聡&北川景子が発揮したコメディエンヌの資質

妻夫木聡が主演映画「ジャッジ!」で演じた太田喜一郎から、その素顔の一端から天賦の才と思わせるコメディ・センスを感じた。あくまで自然体で、周囲に笑いをもたらす天性の資質。ヒロイン・大田ひかり役の北川景子もそのペースに巻き込まれていたが、スクリーン同様にしっかりと呼応し見事なコメディエンヌぶりを発揮する。初共演のこの2人、実は名コンビかもしれない。(取材・文/鈴木元、写真/堀弥生)

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2人は2006年の米映画「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」に出演しているが絡みはなく、「ジャッジ!」が本格的な初共演となる。

妻夫木「本当に数えるくらいしか会っていないんだけれど、景子ちゃんが気を使わせないオーラを放ってくれるから、僕がなれなれしく接することができる構図ですね」

北川「本当にサービス精神が旺盛な方ですから。現場でもお芝居以外の部分ですごく気を使われているし、やっぱり主役の方なんですよね。だから妻夫木さんが中心にいて、キャストもスタッフも集まってくる。私も本来は人見知りで、特に年の近い男性とどう接していいか分からない時があるんですけれど、なんか大丈夫な方だなってすごく安心して慕っていったというか金魚のフンみたいだったと思う」

妻夫木「いや、そんなことはないでしょ。僕の方がただの犬ってことじゃないの、たぶん」

北川「うん、じゃれてたね」

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仲睦まじいという表現がピッタリの2人。この息の合ったコンビネーションは「ジャッジ!」でもいかんなく披露されている。上司からのムチャぶりでサンタモニカ国際広告祭の審査員を務めることになった落ちこぼれ社員の太田が、同期で姓(の読み)が同じエリート社員の大田を巻き込み、世界最大の広告祭に挑む。脚本を呼んだ妻夫木は、初主演映画「ウォーターボーイズ」の時と同じ感覚があったという。

「ここまでスカッとしている映画って、久しぶりだなと感じましたね。笑わせるところも親近感のある笑いというか、どこか人をひきつける温かい笑いなんです。そういうものがふんだんにあって、最後には何かを成し遂げるという構図がすごく久しぶりだなあって。『シコふんじゃった。』や『Shall we ダンス?』や伊丹十三さんの作品のような、古き良き日本映画がずっと築いてきたものができるんじゃないかという期待感がありましたね」

一方の北川は、純粋にストーリーにひきこまれ興味を抱いたそうだ。

「すごくシンプルで、ごくありふれた主人公がひとつのことを成し遂げていく姿が、読んでいて気持ちが良かったですし、きっと見たお客さんも同じように感じてくれて勇気も与えられるんじゃないかという、ストレートに訴えかけてくる脚本だと思いました。あとは、これを広告業界の方が、どういう撮影方法で映像にしていくのかなって想像していました」

そう、監督の永井聡、脚本の澤本嘉光はともにCM界のトップ・クリエイター。特に永井監督は長編映画を撮るのは初めてでもあり、数多くのCMに出演している2人にとっても期待と不安が入り混じった撮影になったようだ。

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妻夫木「カット数が多かったし、最初にもらったスケジュールでは到底撮れるものとは思えなかった。どうするのかと思っていたら、CMは絵(映像)にこだわりがちなところがあるけれど、それは当然として今回は芝居にこだわってテンポ良く見せるというのが永井監督の頭の中にあって成り立っていたんだと思います。だから、映画っぽくないっていえば映画っぽくないけれど、CMっぽいかって言ったらCMっぽくもない、今回だけの特殊な現場というイメージに近かった」

北川「映画は1シーン1カットという印象が私の中にあるので、カット割が出ていてスタッフさんが絵コンテを持って撮影を進めていく光景に、あれ? 私、何の現場に来たんだっけ? というような慣れない感じが最初はありました。でも、終わった時には自分がすごく鍛えられたような気がして、参加できて良かったという感覚もあります。インする前の、15秒や30秒の世界を得意としている人たちが2時間(上映時間は1時間45分)のものをどう作っていくんだろうという不安は、完成した映画を見て一切なくなりました」

太田は強く前に出るタイプではなく周囲に流されがちだが、“広告愛”は誰にも負けないいちずな性格。そんな純粋なところは、どこか「ウォーターボーイズ」の鈴木智に通じるものも感じる。ただ、演じるに当たっては笑いのさじ加減に細心の注意を払った。

「あまりやりすぎるとあざとくなってくるし、リアル感を求めすぎると『そんなヤツ、いねえよ』ってなっちゃう。どこかかわいげで本当にどうしようもないヤツなんだけれど、どこか放っておけないくらいのギリギリのところを攻めようと思っていた。だから監督と毎カット毎カット確認し合いながらやっていた感じです。あまりキャラクターを定められてはいなかったですね」

とは言いながら、無理難題を次々に押し付けられ泣き笑いになる“トホホ顔”などは太田のキャラクターを如実に表わしていて笑えるし実にうまいと感心する。対する大田は仕事もでき英語もたん能という設定だけに北川も苦労したようだが、さらに思わぬ“敵”も待ち受けていた。

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「英語もちゃんとしゃべってほしいとは言われたんですけれど、無理じゃないですか。だから、ずっとテープを聴いてやっていました。それで英語指導の先生が『上手でした。ネイティブみたいでしたよ』って言ってくれたのに、セミがすごく鳴いていてそのシーンが全部アフレコになっちゃったんですよ。しかも忘れたころのアフレコだったから、もう一回勉強し直して。あれは大変でした(苦笑)」

妻夫木が「上手だったよ。外国人キャストにも『彼女は英語しゃべれるの?』って何回も聞かれたもん」と称える。その時の妻夫木は英語でどう答えていいかが分からず肩をすくめるポーズでごまかすオチもついたそうだが、こんなさりげない会話からも2人の信頼関係が見てとれる。

コメディの撮影現場ほど、笑いが漏れないというのはよく言われることだ。笑いと真剣に向き合っているからこそで、2人とも思わず吹き出してしまったことも「ない」と断言。特に妻夫木は、コメディに対して人一倍思い入れが強いようだ。“バカ殿”織田信雄で狂言回し的な役割を担った「清須会議」では、三谷幸喜監督から「植木等二世」という“称号”が与えられた。

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「僕が初めて出た連ドラが『お水の花道 女30歳ガケップチ』で、戸田恵子さんや伊藤俊人さんといった三谷さんと関わりのある人ばかりの中で育ち、その時に三谷さんの舞台『温水夫妻』を見て、コメディってこんなに面白いんだというのを目の当たりにしたんです。自分の好きな映画を振り返っても、『シコふんじゃった。』や伊丹十三監督作品なので根は好きなんですよ」

昨今の日本映画のコメディは、その三谷作品以外は苦戦しているのが現状だが悲観はしていない。むしろ、自らが担い手となって引っ張っていく決意をにじませた。

「昔ならではの日本映画らしいコメディ文化はいまだに残っているから、日本映画がコメディに向いていないことはないと思う。山田洋次監督も昔は喜劇をよく撮っていたし、映画が娯楽だと考えた場合、喜劇ものというのは絶やしちゃいけないという思いはあります。見終わって、いい映画だったなあって言って、よし帰るかっていうノリの方がいいじゃないですか。たまに重い作品を見るのもありだけれど、10回に8回はスカッとして帰りたい気持ちの方が強い気がしますね」

スカッとするのにもってこいの映画が、「ジャッジ!」といえる。観賞後の爽快感はもちろん、2人の丁々発止のやり取りをもっと見ていたい欲にも駆られる。幸いにして!? 続編も可能なエンディングだけに、ぜひとも「オオタ・コンビ」のその後が見てみたいものだ。

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