2013 年 43 巻 4 号 p. 119-135
地殻深部流体は,地震発生や火山噴火といった地殻活動において重要な役割を担う。しかし,多くの地球化学指標は表層水の影響を大きく受けやすいため,これまで深部流体の物質科学的研究は遅れていた。比較的新しい研究ツールであるリチウム(Li)の同位体指標は,この地殻深部流体に関する非常に強力な研究ツールであることが最近の研究から明らかになりつつある。近年,地下水のLi同位体データを基に,木曽御嶽火山の南東麓で現在も続く群発地震に関与する流体が非火山性の深部流体であることが明らかとなった。内陸大地震発生に大きく関わる間欠的な深部流体の上昇は,下部地殻の深部流体だまりを覆う難透水層(帽岩)の破れによるものかもしれない。リチウム同位体指標によって,この深部流体が上昇する『水漏れ現象』に関してより高度な知見を我々にもたらしてくれる事が期待される。